22 対決! あんど、策略合戦! VSレプチレス社長!
「んー、ドロップおいしいなあ」
色とりどりのドロップは見た目も可愛いですし、甘くておいしいです。李火君にもおすそ分けして、美味しさを分かち合いたいなあと思いました。
「李火君、まだ奥の部屋にいるのかなあ」
咲音ちゃんがめちゃくちゃにした本を片付けるため、李火君は書斎とリビングを往復していました。
劉生君も手伝うと言いましたが、「みんなが帰ってきたときにお出迎えしてほしいから」といって断られました。ですので大人しく座っていましたが、ドロップを少し分けるくらいなら大丈夫でしょう。
「りーひくん! りーひくん! どこかな、どこかな 探しましょ、探しましょ、らんるんるーん!」
即興の歌を口ずさみながら、李火君を探します。
部屋をいくつか潜り抜けていると、橙花ちゃんが眠る寝室につきました。橙花ちゃんの様子も見ておこうと思い、そっと部屋に入ります。
すると、橙花ちゃんのそばに李火君がいました。本をリビングに取りに行く道すがらでしょうか。李火君は手に何も持っていません。
李火君は片手を耳にあて、何か呟いていました。
「そうか。交戦中か。わかった。こちらも動く。お前も作戦通り動け」
誰かと電話中みたいです。ミラクルランドにも携帯があるとは意外です。電話中は話しかけてはいけないと思い、声をかけず、いつ終わってもいいようにそっと待機します。
しかし、李火君は「じゃあね」とも「ばいばい」とも言わずに電話を切りましたので、タイミングをのがしてしまいました。
李火君は橙花ちゃんをじっと眺めると、耳にあてていた手を橙花ちゃんの頬にあてました。頬を優しくなで、李火君は目を細めます。
「……もうすぐで、君のお遊びも終わりだね。あとはこっちで処理してあげるよ」
「……?」
何を言っているかは分かりませんが、李火君の空気感ががらりと変わったような気がしました。気になって、劉生君は声をかけました。
「ねえ、李火君」
「……っ!」
李火君はハッと顔をあげました。びっくりして大きく目を開きますが、すぐに取り繕い、「どうかしたの?」と問いかけます。
「……えっと、電話してたの? それに、処理ってなんのこと?」
李火君はニコッと微笑みます。
「気にしないでも大丈夫だよ。ところで、劉生君はどうかしたの? もうみんな帰ってきたの?」
「ううん。あのね、ドロップ一緒に食べようって思ったの」
「ありがとう! なら、俺も飲み物いれてくるよ」
李火君はいつもの通りで、怖い雰囲気もなくなっていました。なら、さっきのは勘違いだったに違いありません。
ホッとして、劉生君も「僕もお手伝いする!」と嬉しそうに笑います。
二人はキッチンにいって、飲み物の用意をします。
ホットミルクを作ってくれるようです。李火君は片手鍋にたっぷりの牛乳をいれて温めてくれました。
「劉生君はコップ用意してくれる?」
「うん! わかった!」
食器棚を眺めて、どのコップがいいかなあ、と悩む劉生君。
そんな劉生君をちらりと確認してから、李火君は小瓶を手にしました。
中に入っているのは、砂糖のようなサラサラとした白い粉です。けれど、その粉は甘くはありません。むしろ、ほんのり苦みがあります。
瓶に入っている粉は、ずばり、眠り薬です。
スプーン一杯入れたら、大の大人でも三日は眠り続け、子供なら一つまみだけでも半日は眠ってしまうのです。
李火君は自分用のホットミルクを別の鍋にわけてから、ミルクにそっと粉を入れます。そのまま瓶をポケットに隠そうとしますが、劉生君に声をかけられ、咄嗟に調味料入れに隠します。
「李火君、李火君! このコップにしたよ!」
「うん、ありがとう。それじゃあ入れるね」
李火君はコップにミルクを注いでから、苦み隠しのために蜂蜜をほんのりたらします。
「はい、こっちが劉生君のだよ」
「わーい! ありがと! 蜂蜜入りだ!」
「蜂蜜好きなの? なら、もう少しいれる?」
「うん! 僕が入れるよ!」
蜂蜜をもう少しだけたらします。
ぐるぐるとかき回しているうちに、チョコソースのボトルも見つかりました。
「これもいれていい?」
「いいけど……。甘くなりすぎない?」
「うーん。そうかなあ。それじゃあお塩入れる!」
劉生君は調味料入れにあった小瓶を手に撮ります。
「……え? 待って、それ塩じゃな」
「えーい!」
迷いなくコップの中にぶち込みました。
「よーし、それじゃあ味見を」
「駄目だよ駄目!」
李火君は慌てて止めます。
「絶対美味しくないから。死んじゃうくらい美味しくないから」
「あはは、李火君ったら言いすぎだって」
「……」
ちなみに、李火君は冗談をついているつもりなどありません。スプーン一杯で大人が三日寝てしまうような薬だというのに、スプーン十杯分ぐらい入れてしまっているのです。
もはや寝るどころの騒ぎではなくなってしまいます。白雪姫もドン引きの眠り姫にならざるを得ません。さすがの李火君もコップを取り上げました。
「これは飲まないでおこう! 別のものを用意するからさ」
問答無用で排水溝に流して、冷たいミルクを代わりにいれます。
「はい、どうぞ」
「うん! じゃあ蜂蜜いれるね!」
劉生君は自分の分と李火君の分に蜂蜜をひとすくい入れます。
「あとこれー!」
劉生君は眠り薬を二つのコップに入れました。がっつり入れました。
「……なんで入れたの?」
「えへへ、すいかに塩かけると美味しいから、牛乳に塩も美味しいかなって」
「だからこれ塩じゃないよ」
「あれ、そうだっけ」
「……ねえ劉生君。もしかして分かってやってたりする?」
「なにが?」
「……いや、なんでもない」
李火君は疲れたように頭を抱えます。
「……牛乳はやめて、紙パックのジュースにしようか!」
「えー、うーん。分かった」
先に行く劉生君の背中を見ながら、李火君はぽつりとつぶやきます。
「……それなら、作戦変更かな」