13 劉生君って、いったい何者なんだろう?
時間と場所を変えて、劉生君たちがいなくなった直後のミラクルランドにて。
暖炉の薪がはぜる音が妙に響く部屋に、蒼ちゃんがいました。
どうしてこんなに響くのかと首を傾げて、すぐに納得しました。賑やかで活発な三人組が元の世界に帰ってしまったからです。
「それにしても、本当に帰るとは思わなかったな。ここに来る子はあちらの世界に帰りたがらないのに。……あの子達はまた別の理由でここに来たのかな」
なんて独り言をいいながら、蒼ちゃんはテントの外に出ました。ムラにはたくさんの屋台が立ち並び、花火を陳列していました。
しかし、屋台の近くには子どもたちの姿はありません。彼らは近くの木の下にいました。子供たちの姿をみて、蒼ちゃんは微笑みます。
「うんうん、ちゃんと火の始末はしたんだね」
大きなバケツには、たくさんの使用済み花火が入っています。そのそばで、子供たちがすやすやぐっすりと眠っています。
こうして眺めていると微笑ましい気持ちになります。出来ればずっと見ていたいですが、残念ながら今すぐにでもやらなくてはならないことがあります。
「……その前にっと」
蒼ちゃんがひょいと杖を振ると、子どもたちが少しだけ宙に浮きました。もう一振りすると、草が集まって、暖かいふわふわお布団になります。
お布団に子供たちを優しく下すと、蒼ちゃんは満足げに頷きます。
「よし、それじゃあいこっか」
やらなくてはならないこと、時計塔のチェックに向かいます。
「中は異常がなかったはず。となると、外の異常かな」
しかし、いくら調べても異常はありません。試しに触れてみますが、先ほどのような警報音は鳴りません。
「異常ないなら、あの時の警報はどうしてだろう……。もしかして、本当に劉生君に反応した?」
劉生君は不可思議なところが目立つ子でした。
魔法というのは、ミラクルランドにいた時間が長ければ長いほど強くなり、上手に扱えるようになります。
しかし、彼は来て早々とんでもない魔力を自在に操っていました。
あまりに強い魔力を持っていたからでしょう。一緒にいたリンちゃんや吉人君にも伝播して、彼女たちの魔力もとんでもない力になっていました。
それに加え、時計塔から危険な存在として認定されました。
さすがの蒼ちゃんも、劉生君が魔物だとは思っていません。赤黒い姿をしていませんし、黄色い五角形も、黒いもやもありません。
劉生君はちょっと勇気があって、とても優しい男の子です。
蒼ちゃんは劉生君のことを好ましく思っていますが、だからといって彼は特別な存在というより、普通にいい子なだけです。
なのに、どうして……。
蒼ちゃんは黙って考え込みますが、いくら考えても思いつきません。それなら仕方ありません。蒼ちゃんは小さく首を振ります。
「……どちらにしても、彼らがミラクルランドで楽しく遊べるように、本気を出して魔王を倒しにいかないといけないかな……」
彼女はぎゅっと杖を握りしめました。
そんなことを考えていたからでしょうか。それとも敵が一枚も二枚も上手だったからでしょうか。
時計塔のアラームがギリギリ鳴らないある場所にて、一匹の化け物が時計台をじっと見つめていました。
ムラの主である蒼ちゃんが自分に気づいていないことを察すると、ソレは小さく笑います。
『そろそろ君も引導を渡す時がきたのかもね? さあ、蒼。いや、時計塔ノ君。……最後の戦いをはじめようか』
そして、ソレは、
ムラの領域に入っていきました。