20 四人の子供たちの、偵察行動!
偵察組のリンちゃん吉人君、みつる君に咲音ちゃんは緊張感もなくお散歩気分で細長い洞窟を通っていました。
「ヨッシー、あともうちょいでつくの?」
「地図によると、すぐですよ」
吉人君の地図の読みは合っていました。ほどなくして、広い場所に出ました。地面には線路が走り、動物の銅像が立ち並んでいます。
咲音ちゃんは「見覚えがある場所だなあ」と考えていると、不意に思い出しました。
「もしかしてここって、わたくしたちがレプチレス・コーポレーションで初めて来た所ですかね」
「あー、ほんとだ。ここに繋がってたんだねえ」
みつる君が懐かしそうに遠くを見てから、逆方向に視線をやります。
「……それで、あそこがレプチレス・コーポレーションの本部……だよね?」
広い広い洞窟の突き当りには、宝石が散りばめられた巨大な扉がありました。扉の前には白銀の鎧やルビーの鎧、エメラルドの鎧をまとった爬虫類たちが睨みをきかせています。
明らかに普通のドアではありません。地図を見返さずとも、そこがレプチレス・コーポレーションの本部なんだと分かります。
リンちゃんはあきれ気味にため息をつきます。
「すごいわね。すごすぎて逆に悪趣味ね」
そこで吉人君はふとある疑問をいだきました。
「……ここって最初に来た場所ですよね? だったらあの黄色のヘビはどうしてわざわざ遠回りをしたんでしょうか」
「……そういやなんでだっけ」
咲音ちゃんがうんうんと唸りながら思い出します。
「わたくしたちがレプチレス・コーポレーションの悪口を言っていたら、『オレッチの会社の良さを教えてやる』みたいな流れで見学してくれていたような気がします」
「ええ。ですが、あくまでレプチレス社長に会う道すがら案内する話でしたよね」
「んー……。そうですねえ……。もしかして、あのヘビさんってすごくゆっくりさん?」
咲音ちゃんは小首をかしげます。そのしぐさはとてもかわいらしく、吉人君はついつい頬を緩めます。
「そうですねえ、ゆっくりさんだったんでしょうね!」
全力で肯定する吉人君に、みつる君が呆れかえります。
「……ともかく、道も分かったことだし、門番の特徴をメモしようか」
「わたくしが書いておきますね!」
咲音ちゃんは料理こそできないですが、絵は上手に描けるのです。すらすらと紙片に爬虫類たちを描きました。
「これで完成です!」
「さすが鳥谷さんですね。お上手です!」
吉人君が小さく拍手をします。咲音ちゃんは「ありがとうございます」と優しく微笑み、みつる君は相変わらずのあきれ顔です。
「……えっと、これで偵察終わりかな?」
「そうなっちゃいますかね?」
残念ながら、もうやることは終わってしまいました。あとは帰るだけです。みつる君や咲音ちゃんはホッとしていますが、リンちゃんと吉人君はやや不完全燃焼のようです。
「ぶーぶー、なんかつまんないわね」
「前に留守番していましたし、どうせならもう少し活躍したかったですねえ」
チラチラと門の方を見ます。中まで偵察したい、なんなら流れで魔王をぼこりたい気満々です。見え見えの魂胆を、みつる君がそっと止めます。
「戻ろうよ。赤野っちも参加させてあげないとかわいそうし」
すねる劉生君の図でも浮かんだのか、リンちゃんは「うー」と残念そうに呻ります。
「……それもそうね。戻りましょっか」
「ですねえ」
吉人君も諦めてくれました。一同は身をひるがえし、元来た道を戻ろうととしました。ですが、彼らはぴたりと足を止めて硬直してしまいました。
彼らの前に、冷酷な目をした兵士たちがずらりと並んでいたからです。
一歩も動けない子供たちに、爬虫類の兵士は冷たく言いました。
『大人しくついてこい。我らがレプチレス社長がお呼びだ』
3 明かされる真実! トリドリツリーの頂上にて
レプチレス本部の中は予想を裏切らず絢爛豪華な装飾がほどこされていました。宝石の輝きに目がつぶれてしまいそうなくらいです。
しかし、装飾を眺めて楽しむ余裕はありませんでした。
リンちゃんたち四人は手錠こそはめられませんでしたが、逃げないよう四方に兵を配置されていました。
いくらリンちゃんが文句を言っても、吉人君が交渉しようとしても、兵士たちは一言も口をききません。唯一答えてくれたのは、みつる君の一言、「どこに連れて行くの?」という問いでした。
『我らがレプチレス社長の社長室だ』
リンちゃんたちが覚えられないような、曲がりくねった道を通り、五つののセキュリティを抜けて、七つの扉を越えると、『社長室』と表札がかかってある部屋にたどり着きました。
躊躇して立ち止まっていると、『入れ』と武器を向けて促されました。
「ちょっと、何よ。レディーに対してしつれーよ、しつれー!」
リンちゃんは睨みをきかせますが、爬虫類は冷たい眼差しを向けるのみです。
「道ノ崎さん、行くしかありませんよ」
「……ぶう……」
ここは従うしかありません。子供たちは渋々社長室の中に入りました。
さんざん宝石だらけの廊下と磨きぬかれた大理石の床を通ってきたので、どうせ社長室もそんなもんだろうと思っていました。
しかし、意外にも社長室は落ち着いた雰囲気でまとまっていました。
床は深い赤の絨毯がひかれており、温かみをおぼえます。目の前においてある机は黒曜石で出来ており、上品な輝きを放っていました。
壁際には鉄の棚があり、分厚い本や巻物がずらっと並んでいます。反対側には、レンガの暖炉があります。火がゆらゆらと揺れ、木々が爆ぜています。
部屋にいるのは、一匹の巨大なトカゲであった。テレビで見たよりも同じ、いや、もっと大きいです。一番身長の小さいみつる君なんて一のみで食べてしまいそうです。
コモドオオトカゲはニンマリと歯をむき出しにして笑います。
『やあ、諸君たち。随分と遅かったではないか。待ちくたびれたぞ』
魔王との対面に、リンちゃんたちは緊張と敵意でピリピリとします。特に好戦的なリンちゃんと吉人君は睨みを利かせています。
みんなの精一杯の反抗心を、魔王は一蹴して笑います。
『いいかお前ら。ワシの言うことをよく聞くように。そしたら、お前らを解放してやる。解放条件は、時計塔ノ君をこちらに明け渡すことだ。どうだ。飲むといいー』
橙花ちゃんを渡せば助かるなんて信じられるわけがないですし、そもそも友達を犠牲にするわけありません。
素早くリンちゃんが拒否をします。
「んなことしないわよ。さっさとあたしたちに倒されなさい!」
『だがしかし、この映像を見れば、お前らの意見も変わるであろー。皆の者、テレビとビデオを設置せよ』
爬虫類の動物たちは顔色一つ変えずに巨大スクリーンを出し、DVDを設置しています。吉人君みつる君は「ビデオじゃないのかよ」という顔をしていますし、咲音ちゃんは「ビデオって何でしょうか?」と不思議そうに爬虫類たちの動きを眺めています。
けれど、みんなの戸惑いも、映像が流れた途端、すべてかき消されました。
リンちゃんは呆然と呟きます。
「あ、あたしたちが倒れてる? なにこれ?」
吉人君は目を凝らして映像を睨みます。
「これは……。トリドリツリーの最上階ですね」
劉生君たち五人が気絶していて、青い角の女の子橙花ちゃんと、クジャクの女の子魔王トトリが対面しています。
誰もがぴんときました。この映像はトリドリツリーにみんなで魔王に挑み、そしてなぜか気絶してしまった後の映像です。
目が覚めたら、魔王も倒れていたり、橙花ちゃんがボロボロになっていたり、なぜか劉生君までも傷だらけになっていました。
一体全体なにがあったのかと、当事者の劉生君を含めみんなで首を傾げていました。
以前、李火君に話した通り、事の真相はまだ橙花ちゃんから教えてもらっていません。教えてもらう直前に、橙花ちゃんがあの黄色いヘビに襲われてしまいましたので、聞けずじまいなのです。
みんなは固唾をのんで、映像を見つめます。
映像はあまりきれいに撮れていませんでした。画面の乱れが目立ちますが、全く見れないほどではありません。
映像の中の橙花ちゃんは、魔王トトリと何か話しています。
それから劉生君の方を向くと、
「……え!」
橙花ちゃんは、杖を振るい、青い光を劉生君にぶつけたのです。
劉生君は抵抗も出来ず、宙に浮くと地面に叩きつけられます。
何度も、何度も、何度も。
「……映像止めて」
リンちゃんが叫びます。
「さっさと止めなさいよっ!!!」
映像はまだ続きます。
橙花ちゃんのあまりの凶行に、魔王トトリは慌てて橙花ちゃんを止めようとします。テレビからわずかに声が聞こえます。『仲間割れをしているの? やめなさい』といっているようです。
しかし、橙花ちゃんは変わらず攻撃をします。
トトリは目を吊り上げ、魔法を使いました。
その瞬間、橙花ちゃんは心底嬉しそうに口を歪めると、術を放ちました。
「時よ、<モドレ>」
魔王トトリの技が、橙花ちゃんによってはじかれます。
魔法はそのままトトリに襲い掛かり、くらいつきます。
完全に油断していた魔王トトリは攻撃をもろにうけ、消滅してしまいました。橙花ちゃんは魔王がいなくなったのを見届けると、小さく笑いました。
そこで映像がピタリと止まり、電源がプツリと切れました。
『おう? 止まったな。ふむ……? まあ、いい』
コモドオオトカゲはグヘへと歯を剥きだします。
『これがお前らの信じる時計塔ノ君だ』