19 選抜メンバー、発表のお時間です!
劉生君が戻ると、みんなはお菓子をつまんでいました。一口サイズのしょっぱいせんべい(発掘作業中に塩分補給はいかが? しょうゆせんべえです!)を飲み込んで、リンちゃんは不安そうに劉生君に訊ねます。
「リューリュー、蒼ちゃんはどうだった?」
「まだ寝てたよ」
「そっか。……そうだよねえ。やっぱ、魔王を倒さないとってことよね。なら、早速倒しにいくわよ! それから蒼ちゃんに色々聞きましょ! ね! みんな!」
みつる君はフルーツサンドイッチ(イチゴにメロン、パイナップルを生クリームでつつみました)をほおばり、苦笑します。
「そうだね。ここで話してもしょうがないもん」
一方で吉人君は黙りこくっています。舐めるとシュワシュワする美味しい飴を口に入れているから話さないのではありません。どうも橙花ちゃんを信じられなくなってきてしまっているのです。
それでも、魔王を倒すこと自体は反対していませんので、李火君に話を促します。
「これから魔王のもとに行くんですよね。どういう作戦にしましょうか」
「……そのことなんだけどね、まずは少人数で偵察しようと思うんだ」
橙花ちゃんでは絶対に出せないであろう提案です。リンちゃんは手のひらサイズのせんべい(ガッツリせんべいを食べたい人におすすめ! 塩味です)をかじり、むうっと唇を尖らせます。
「せっかく魔王と会える券があるのにー。ばばばーって倒しに行けばいいじゃん!」
拳を握りしめて、連続でシャドーボクシングをします。血気盛んなリンちゃんに、李火君は苦笑して頬をかきます。
「リンちゃんの気持ちは分かるけど、レプチレス・コーポレーションの魔王はいやらしい攻撃を仕掛けてくるからね。念には念を重ねておきたいんだ」
「えー……」
リンちゃんは不満そうにぶーぶー文句を言いますが、吉人君が宥めます。
「まあまあ。李火君を信じて言う通りにしましょ」
「……むう。……まあ、蒼ちゃんもいないし、仕方ないか……」
渋々納得して、顔サイズのせんべい(もはや持ち歩けない! 特大サイズ、サラダ味!)を二つにわってがりがりかじります。謎サイズのせんべいにドン引きしつつ、李火君は素直にお礼を言います。
「ありがとう、リンちゃん。それじゃあ、前と同じようにここで残る二人と、偵察に行く五人に分かれよっか」
みんなは我も我も行きたいと挙手します。
「あたし行く!」「前回いけませんでしたし、僕が行くべきですね」「わたくしもー!」「俺も行きたいなあ」「僕も僕も!」
キラキラとした目を向けられ、李火君はたじろぎます。
「まず一つ提案だけど、俺はここに残っていいかな」
劉生君はびっくりします。
「ええっ! 一緒にこないの?」
「本当は道を教えてあげたいけど、あの黄色いヘビを魔王に近づけるのも怖いし」
『そんなことないッスよー。連れてってくれッスよー。ついでに解放してくれッスー』
「ほら、こんなんだし」
李火君はおどけたように肩をすくめます。
「地図は渡しておくから、お願いできるかな」
みんなは互いに顔を見合わせます。
土地勘のない場所で、しかも橙花ちゃんがいない状況で敵地に向かうのは少々心細いです。
けれど、だからといって、ヘビを連れて行ってはまずそうです。
吉人君は悩みながら尋ねます。
「えっと、偵察は具体的に何をすればいいんですか」
「レプチレス・コーポレーション本部への道と、入り口を見張ってる警備員の数と動物の種類を見てきてほしいんだ」
「……それだけでいいんですか?」
「うん。本当は本部の中も行きたいけど、ちょっと危ないからね。そこまでしなくてもいいよ」
「……そうですか」
李火君がいないのは不安ですが、少し様子を見るだけなら残りの子供たちでも大丈夫そうです。
「うん、分かった! 頑張るわよ!」
リンちゃんは元気よく返事をします。みつる君も特に異論はないようですが、小首をかしげます。
「なら、俺たち五人で偵察に行くの?」
「それなんだけど、」
李火君は顔をあげると、劉生君の方を見ました。
「劉生君に残ってもらって欲しいな」
「へ? 僕?」
偵察に行く気満々でしたので、キョトンとします。
「うん。劉生君は魔法の力も強いから、もしここが襲われても蒼おねえちゃんを助けて切り抜けてくれるかなって思ってね。俺は全然戦えないからさ……」
「うーん。わかった。いいよ!」
今回はただ下見に行くだけですし、一人ぼっちのお留守番ならともかく、橙花ちゃんや李火君とお留守番なら心細くありません。
劉生君の快諾に、李火君は嬉しそうに微笑みます。
「よかった。それじゃあ地図を用意するね」
さらさらと地図を書くと、それを吉人君に渡しました。
「さすがに見るだけなら何も起きないと思うけど、もし何かあったらすぐ帰ってきてね」
「ええ、分かりました」
ある程度準備を整えてから、みんなは偵察へと向かいました。劉生君は家の外まで出て、ぶんぶんと手を振ってお見送りします。
「気を付けてねー!」
「リューリューも、リッヒーに迷惑かけちゃだめだよ!」
「もう、かけないよー」
他のみんながいなくなると、李火君はちょいちょいと劉生君の肩を叩きます。
「それじゃあ、待ってる間ごはんでも食べよっか」
「うん!」
家に戻る前に、劉生君はちらりとみんなが消えた方を眺めました。