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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
5章 商売の国、レプチレス・コーポレーション!―君を信じたいから―
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18 お邪魔しまーす 橙花ちゃんの夢の中?

 ベットの上の橙花ちゃんは、相変わらず目を閉じたままです。


「……とうかちゃーん」


 こそっと呼びかけてみました。


 返事はありません。


「……橙花ちゃん……」


 レプチレス・コーポレーションの魔王を倒さない限り、橙花ちゃんは目を覚ましてくれません。


 それでも、劉生君はベットの側の椅子に座り、橙花ちゃんに話しかけます。


「……ねえ、橙花ちゃん。橙花ちゃんは、……嘘つきじゃないもんね。そんなことないよね。橙花ちゃんは、優しいもんね」


 自分に言い聞かせるように劉生君はつぶやきます。


 それから何気なくほっぺたをツンツンして、ごくごく自然な流れで瞬きをします。


「……へ?」


 目の前の風景が、変わっていました。


「え!? なにこれ!? どこ!?」


 白い壁に、つやつやの床、殺風景な部屋に、ベットが一つだけぽつりと置いてあります。どうやら病院のようです。


「……なんで病院にいるんだろう」


 こういう、訳の分からないところに唐突に移動するパターンは前にも経験したことがあります。


 魔王に記憶を見せられているときです。


 今回もそれでしょうか。いやしかし、今回は魔王と接触していません。


「むう?」


 いくら考えても答えが出ません。


 首を傾げていると、ようやく劉生君はベットの中に誰かがいるのに気が付きました。


「わあ! えーっと、こ、こんにちは」


 挨拶してみました。


 けれど、ベットの中の人は答えませんでした。そもそも寝ているようです。目を閉じています。劉生君は何気なくベットの人の顔をのぞき込みます。


 どうやら女の人のようです。髪を短く切っていて、大人っぽい女性です。


「この人誰だろう? どっかで見たことある気がするけどなあ。うーん」

 

 悩んでいると、どこからかがちゃりと音が鳴りました。劉生君はキョロキョロと辺りを見渡すと、扉から誰か男の人が入ってきたのが分かりました。


 マスクと帽子、サングラスをつけていましたが、背の高さや体つきから、男の人のようです。


 彼はベットの側にいる劉生君を一瞥することもなく、女の人の枕元に座ります。


「……」


 女性の髪の毛を撫でながら、彼はひどく寂しそうに、愛おしそうに呼びかけます。


「……なあ、いつになったら目を覚めてくれるんだ。……お寝坊さんだな。そろそろ起きてくれないと、兄ちゃん怒っちゃうぞ」

「お兄ちゃん? へえ、この子のお兄さんなんだあ」


 劉生君は男の人をまじまじと眺めます。


 劉生君が大好きな俳優さん、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』蒼井陽さんに似ているようですが、サングラスやマスクのせいでいまいちよく分かりませんし、目元にクマが出来ていてやつれています。


「……そのー。誰のお兄さん、なんですか?」

「……」

「ああ、やっぱり聞こえないんだ。つまり、ここは記憶の世界? ……でも、誰の?」


 一番可能性がありそうなのは、ベットで眠るこの女の人でしょう。


「うーむむむ。誰だろう……。なんか見覚えある気がするんだよなあ」


 劉生君は目を凝らして、女の子をのぞき込んでみました。


 彼女のお兄さんの反応から考えると、彼女は長い期間眠ったままなのでしょう。ですが、寝ている彼女は血色も良く、普通に寝ているように見えました。


 顔立ちや背丈から推測するに、劉生君より年上の子みたいです。髪は真っ黒で、真面目そうな印象を抱きました。


「年上の子、年上の子……。年上の子かあ」


 あまり年上の知り合いはいないなあ、誰だろうなあと考えていると、ふと、ある人の顔がよぎりました。


「……あれ? もしかして……」


 劉生君は、彼女の名を呟きます。


「……とうか、ちゃん?」


 と、そのときです。肩がポンっと叩かれました。


「わあ!」


 びっくりして振り返ると、目を真ん丸にさせた李火君がいました。


「りゅ、……劉生君?」

「へ? 李火君? どうして……。って、あれ??」


 ほんのすこし瞬きする間に、寂しい病室から、李火君の家に戻ってきたのです。


「う……?」


 目をこすってみますが、また病室に戻ることはありません。


 李火君は心配そうに劉生君を見上げます。


「どうかしたの? まさか、君も眠りの呪いがかかっちゃったとか?」

「ううん、そんなことないよ! ちょっと記憶の中の世界にいってただけだよ」

「……記憶……?」


 優しい李火君は、何の比喩表現かと考えてくれていました。結局よく分からなかったようで、李火君は問いかけます。


「つまり、お昼寝してたってこと?」

「ううん! 記憶の中!!」

「……???」


 キョトンとする李火君に、劉生君はあれやこれやと説明をしはじめます。支離滅裂な説明でしたが、どうにか伝わってくれました、


「へえ、魔王たちが昔の記憶をねじ込んでるんだ」

「そうなの。けど、今回の記憶の世界は魔王っぽい人がいなかったんだよ。いつもはいるんだけどね。橙花ちゃんと、橙花ちゃんのお兄ちゃんだけだったよ」

「蒼おねえちゃんの?」


 李火君はびっくりします。


「蒼おねえちゃんの過去を見たってこと?」

「過去……なのかな? けど、橙花ちゃんは大きかったよ。僕より大きかった。だからー……。未来の橙花ちゃん?」

「いや、そうじゃない」


 李火君はじっと橙花ちゃんを見つめます。


「多分だけど、未来の蒼おねえちゃんじゃない」

「そうなの? 過去の橙花ちゃんなのかな?」

「……そうでもない、かな」

「……ふぇえ?」


 それなら、あの橙花ちゃんは一体いつの橙花ちゃんなのでしょうか。過去の橙花ちゃんでも、未来の橙花ちゃんでもないのなら……。


「……」


 劉生君の頭はショートし、目がうつろになりました。


「あっ、……なんかごめんね。えーっと、ひとまずこの話は置いておいて、みんなのところに戻ろう。作戦会議がしたいんだ」

「……うん。分かった」


 劉生君は眠る橙花ちゃんに軽く手をふります。


「ばいばい橙花ちゃん。いい夢みてね!」

「……そうだね」


 頷く李火君でしたが、橙花ちゃんを見るその目は、どこか寂しげな色をたたえていました。


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