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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
5章 商売の国、レプチレス・コーポレーション!―君を信じたいから―
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15 時計塔の真実! 君への疑い……?!

 あれから数分後。カメのフリスビーや、トカゲの形のクッキー、宝石が散りばめられた可愛らしいブレスレットなどなど、両手いっぱいの商品を抱えた劉生君たちがいました。


 みつる君は良質な鉄の鍋を片手にはしゃぎます。


「すごいなあ! 俺んちの厨房で使いたいなあ」


 リンちゃんは何度噛んでも味がしみわたるチューイングガムを膨らませます。


「これおいしいわね。もぐもぐ。ヨッシーもこういうの好きかしら」

「咲音っちはガム好きじゃないっていってたよ。だから、俺が飴買っておいたよ」

「さすがミッツン! リューリューはなに買ったの?」


 劉生君はドヤ顔でレモンのグミを見せます。


「みてみて! すっっっっぱいグミ!! どんなに眠くても、気絶してても目が覚めるくらい酸っぱいんだって!」


 半透明の袋には、『食べたら叫ぶ! やばい! すっっっっぱグミ!!』と宣伝文句が書いています。中に入っているグミは、あまり口にしたくないレベルの蛍光色です。リンちゃんですら、若干ドン引きしてしまうレベルです。 


「うわ……。リューリューって酸っぱいもの好きだっけ」

「ううん。あのね、僕考えたの! 橙花ちゃんがこのグミ食べたら、目が覚めるんやないかって!」

「……いや、無理じゃない? だって、魔王じゃないと呪いが解けないんだし」

「試したらいけるかも!」


 嬉しそうな劉生君ですが、李火君は申し訳なさそうに首を横に振ります。


「いや、厳しいと思うよ。ただの気絶ならともかく、蒼おねえちゃんは呪いだから……」

「うっ、そっか……」


 劉生君はしょんぼりして、ポケットにグミをしまいました。


 劉生君のプレゼントはともかく、他の子はもっとちゃんとしたお土産を吉人君・咲音ちゃん、それから橙花ちゃんのために購入しています。


 加えて、李火君は魔王と会える券、『プレジデントチケット』を購入していました。大事そうにチケットを懐にしまい、みんなに笑いかけます。


「魔王に会える権利を買えたことだし、一度俺の家に戻って作戦会議でもしよっか」

「「「はーい!」」」


 さあ、後は帰るだけです。


 吉人君と咲音ちゃんも喜んでくれるかな、どうかなとお喋りしながら歩いていると、魔物たちの会話が耳に入りました。


『なあ、時計塔ノ君がレプチレス・コーポレーションに来てるって聞いたんだが、本当なのか?』

『みたいだぜ。明日の国営放送でニュース流れるかな』

『今日は休日だが、もしかしたら臨時国営放送が来るかもな。なんだって、時計塔ノ君は国宝の時計を盗んだ上に、社長を倒そうと企む極悪人だからな』


 李火君は足を止めて、首を傾げます。


「……時計……?」


 急に李火君が足を止めましたので、劉生君はぶつかってしまいました。


「あぶっ。どうかしたの?」

「いや、蒼おねえちゃんが時計を盗んだって話してたからさ」


 みつる君は目を瞬かせます。


「時計って言ったら、ムラにある時計塔のことかな? あれって元々ここのものだったの?」


 すると、瓶の中のヘビが不機嫌そうに声を張り上げます。今は李火君の背中に赤ちゃん紐でつるされているためか、より一層不愉快そうです。

 

『そりゃそうッス。あの女は、レプチレス・コーポレーションの社宝、その名も思いの時計を盗んだッスよ』


 ヘビは誰にも頼まれていないのに、るんるんでお喋りしはじめます。


『あの時計は、もとはレプチレス・コーポレーションで作られたものなんッスよ。まあ、元からあの大きさじゃないッスよ? 昔は片手で収まるサイズだったッス!」

「じゃあ、なんであんな大きさになったのよ」


 不信感に凝り固まっているリンちゃんは、疑いの目を向けます。


『待つッスよ。話は順を追って聞くッス』


 ヘビは誇らしげに胸をはります。


『他の加工品と同じく、時計には魔法がかかってたんッスよ。その魔法ってのが、持ち主の思いに応じた時間を指すってもんッス』

「なんじゃそりゃ」


 リンちゃんは鼻で笑い、みつる君は素直に不思議なあという顔をします。


「持ち主の思い? けど、時間って人それぞれで変わるものじゃないよね」

「はいはーい!」

 

 劉生君は元気よく手をあげます。


「一時間は六十分でしょ! それで、一分が六十秒!」

『そっちの世界ではそうなんッスよね。だけど、本当にそう思ってるんッスか?』


 リンちゃんは眉間にしわを寄せます。


「どういうことよ。ちゃんと説明しないと、あんたで輪投げするわよ」

『ひどいッス! 説明するッスから、落ち着くッス!!』


 ヘビはうーんうーんと首を傾げながら、言葉を紡ぎます。


『お前らに分かるように教えてやるッス。お前らの世界には、三十人程度の子供たちを個室に何時間も拘束するくせに、就労に役立つことはてんで教えない施設があるって聞いたんッスけど、なんって名前ッスか?』


 リンちゃん、間髪入れず答えます。


「それは学校ね! 小学校よ!」

『そうそう。それッス』


 ここに吉人君がいたら、学校の存在意義と基礎的な学力の必要性を語ることでしょう。しかし、残念ながらリンちゃん劉生君は勉強嫌いですし、みつる君もそこまで得意ではありませんので、三人とも特に反論しませんでした。


『その学校とやらで勉強してるとき、時間がたつのが妙に遅いなって思うッスよね?』

「あー。あるある」


 リンちゃんだけでなく、劉生君も何度か頷きます。


 例えば、小難しい論文をだらだら音読して、先生がちまちまと解釈するような国語の授業なんて、その筆頭例です。


 早く授業終わってほしいなあと、ちらちら時計を見上げますが、いつまでたっても時計の針は動いてくれず、時間の流れが凄まじく遅く感じます。


『逆に、子供同士でカケッコやら、かくれんぼやらで遊んでるときは、妙に時間がたつのが早く感じるッスよね』

「あー、それもあるわねえ」


 まだ五分しか経ってないと思ってても、三十分経ってたなんてことがあります。なんなら一時間経っていたときもあります。


『そうッスよね、そうッスよね。時間の流れっつーのは、楽しい時は早く流れて、しんどい時は遅いもんなんッス。そんな正確な時間を示してくれるのがー、あの時計なんッスよ!!』


 所有者が思い描く時間の進み方を、分かりやすいように示してくれるのが、あの時計なのです。


 ですので、持っている子が「時間の流れが早いなあ」と思ったら、実際に時間の流れが速くなります。その逆もしかり、です。


「……あれ?」


 ここでリンちゃんがあることを疑問に感じました。


「今の時計って、魔物がムラに入ってきたらピーピー鳴るわよね? けど、元は違ったの?」

『そうッスよ』


 ヘビは苦々しく舌打ちをします。


『ああなったのは、かっぱらった時計塔ノ君の思いと、あのムラの子供の思いのせいッスよ。そもそもあの時計は心を映す魔法道具ッスから、強い思いに敏感なんッスよ』


 ムラを守りたい。そんな思いから、魔物が入ってきたら反応するようになったのです。


『だから、この世界の時間を止めるなんつー、とんでもない魔法をかけられちゃったんッスよ。ホントどーかと思うッス』


 ぶつぶつと、ヘビは文句を言います。そこでみつる君は「おや?」と首を傾げました。


「世界の時間を止める、だって? けど、この世界が三時のままで止まってるのは、魔王や魔神のせいじゃないの?」

『へ?』ヘビはきょとんとします。『オレッチたちのせいじゃないッスよ』

「で、でも……」


 みつる君だけではありません。リンちゃんもむうっと首を傾げます。


「あたしたちもそう聞いてるわよ。リューリューもそうでしょ?」

「うん、魔神さんが時間を止めたって言ってた気がするよ」


 ヘビはあっけらかんと答えます。


『そりゃあれッスね。蒼ノ君がウソをついてるッスね』


 リンちゃんは黄色の小さなヘビを睨みます。


「はあ? 蒼ちゃんが嘘をつくわけないじゃない! そっちの方が嘘つきじゃないの? ねえ、リッヒー!」


 同意してくれると思い、李火君に振りました。しかし、李火君は幼い顔を曇らせて、黙り込んでしまっていました。


「ちょ、リッヒー。何黙ってるのよ」

「……蒼おねえちゃんはね、他の子のためを思って動く人なんだ。だから、子供たちのためには頼りのお姉ちゃんにもなれるし、徹底した秘密主義者にもなれる」


 李火君は、小さく首を横に振りあす。


「それに、魔神が時を止めてる説よりは、あの時計が止める説の方が正しい気がする」

『そうッスよそうッスよ。そもそも、お前らが魔神て呼ぶあいつは、そんな器用なことができないッス』


 ヘビはニヤリと笑います。


『つーわけで、お前らのリーダーは信頼のおけない女だってことッス。どんまいッスね。あっはっはっは!』

「……ちょっと貸して」


 リンちゃんはヘビの入った瓶を受け取ると、思いっきり上下にシェイクします。


『ぎゃああああ!! やめるッス!!』

「ふう。気がすんだわ。ありがとう!」

『きゃうう』


 黄色のヘビは目を回して、ぐったりと倒れてしまいました。


「ふんだ。もし蒼ちゃんが嘘つきでも、あんたよりはマシっつーの。さっさと帰りましょ!」

 

 リンちゃんはふんぞり返って、ずんずんと進んでいきます。


 劉生君やみつる君が慌ててリンちゃんを追いかける中、李火君は手元の瓶を、……瓶の中にいる黄色のヘビをじっと見つめます。


 それから小さくため息をつくと、リンちゃんたちに向かって声をかけます。


「そっちは違う方向だよ!」



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