14 ナイスフォロー! みんなのサポート!
子供や爬虫類たちの注目が集まりました。リンちゃんは背筋をぴんと伸ばし、目をきらりと輝かせます。
「借金証明書なんぞ書く必要はない!! なんだって、あたしたちはケッテー的な証拠を見つけちゃったんだからね!!」
『……はあ? 何を言ってるんだ』
アオダイショウはへらへらと笑います。しかし、よく見るとヘビは目をパチパチしています。
李火君はちらりとヘビを一瞥してから、リンちゃんたちを見ます。
「決定的な証拠って、どういうこと?」
「ふふん、あたしね、みつる君に言われて、アオダイショウの手元……。まあ、ヘビに手はないけど、そこら辺を見てたのよ」
みつる君もうんうんと頷きます。
「そうそう。さっきの恐竜マシーンのときから、なんか変だなあって思ってたんだよ。だから、動体視力がいい道ノ崎っちに、アオダイショウを注意してみてってお願いしたの」
リンちゃんはニンマリとします。
「そしたらね、わかったのよ。あんたのイカサマがね!」
会場がどよめきます。
「イカサマを見抜いた?」『本当なのか?』「あいつって、そういう噂あるもんな」
アオダイショウは会場の動揺をぶった切ようと、怒声をあげます。
『ええい! 惑わされてはいけないぞ!! 負け惜しみを言っているだ!! それよりさっさと金を、』
「お金はあたしの話を聞いた後でいいんじゃないの? みつる君!」
みつる君は両手いっぱいの砂をぶちまけます。すると、
『へ、へ、へ、』
エアホッケーの縁の方から、くしゃみの音が聞こえました。
「……ん?」『今、何か声がしなかったか?』
みんなの視線が集中すると、
『へっくしょん!!』
何もなかったエアホッケーの端に、緑色のトカゲのような生きものが現れたのです。
『なっ!!』「あいつ、」「カメレオンじゃねえか!!」
カメレオンはぎょろぎょろと目を泳がせます。
『あー、いや。あー……。これは、そのー』
「……そっかそっか。ふーん。なるほどね」
李火君は口元を緩めます。
「そこのカメレオンがこっそりヘビを助けてたってことか」
だからこそ、エアホッケーのパックが訳の分からない方向に動いたのでしょう。
もしかしたら、頑張って言い逃れすれば誤魔化せたかもしれませんが、残念ながらアオダイショウは完全に頭が真っ白で、言葉を失っていました。
アオダイショウのそんな顔を見てしまっては、擁護しようとしていた動物たちも口を閉ざし、嫌疑の眼差しを向けざるを得ません。
『お、覚えてろ!!』『てろー』
アオダイショウはカメレオンと一緒に逃げだしました。
『待て待て!』「しょっぴけしょっぴけ!!」
屈強そうな爬虫類や、元気いっぱいの子供たちがアオダイショウとカメレオンを追っかけていきました。
残った子供たちも、有名人の不祥事に大興奮しています。
『あのアオダイショウさんがまさかイカサマをしていたとは』「俺はやってたと思ったけどね!!」『嘘つけ嘘つけ』
興奮ぎみの子供たちの間をかき分けて、スーツ姿のカメがよったよったと歩いていきました。李火君はみんなに耳打ちをします。「あのカメはここの管理者だよ」
管理人ならぬ、管理カメはすりすりゴマをこすります。
『いやー。イカサマを見抜いてくださりー、誠にありがとーございました』
ハンカチで頭の汗をふきふき拭きます。
『いやはやー。アオダイショウさんはあまりに強すぎますのでー。怪しいなあ、と思っていたんですー。ですが、証拠が見つからなかったんですー。まさか共犯がいたとはあ』
「そうでもないわよ!」「たまたまですよ、たまたま」
リンちゃんはふふんと胸をはり、みつる君は恥ずかしそうに頬をかきます。
『えー、つきましては、謝礼の方をお渡しいたしますー』
ペコペコ頭を下げながら、カメは小切手をリンちゃんに渡します。小切手文化がよく分かっていないリンちゃんは、手渡された紙切れを見てキョトンとしています。
「……なにこれ? リッヒー、なにこれー!」
李火君は小切手の額面を見ると、驚いた声をあげました。
「おー。これはいいお値段……」
「ふーん。どんくらいいいお値段なの?」
「魔王に会えるチケットは余裕で買えて、おつりがついてくるくらい」
「なにそれ! すごい!!」
さっきまで借金を作らざるを得ないかとヒヤヒヤしていたのがウソのようです。
ほっと安心したからでしょう。劉生君は笑い泣きしていました。
「うー、よかった。本当に良かったよ……。ありがとう、みつる君、リンちゃん!」
劉生君はみつる君にぎゅっとハグして、勢いでリンちゃんにもハグします。
「わあ! もう、分かったから。涙ふきなさいって」
持っていたハンカチで目元を優しくふき、頭を撫でます。李火君の撫で方とは違い、馴れた手つきです。
「はい、ティッシュ。これで鼻かみなさい。……ん?」
リンちゃんは視線を感じて顔をあげると、李火君と目があいました。
「どうかしたの?」
「……え? なにが?」
「なんか、あたしたちの方見てなかった?」
李火君自身は無意識のようです。ハッと息をのみ、慌てて視線をそらしました。
「あ、ごめん。……リンちゃんって、蒼おねえちゃんに似てるなあって思っただけだよ」
「蒼ちゃんに?」
うん、と声を洩らし、李火君は懐かしそうに微笑みます。
「蒼おねえちゃんも、俺たちにすごく優しくしてくれてたからさ。……優しすぎるくらいにね」
どうしてだか、彼の言葉はどこか吐き捨てるような響きを含んでいました。けれど、すぐにそんな雰囲気をかき消して、小切手を手に二コリと微笑みます。
「まあ、それは置いておいて、せっかくだから、余ったお金を使ってみんなで買い物しようよ。いい場所知ってるからさ」
5 楽しいお買い物!!
ゲームセンターからエレベーターで上の階にあがると、商店街のエリアにつきました。たくさんの小さなお店が立ち並び、たくさんの商品であふれています。
みんなの目がきらきらと輝きます。
彼らがそれぞれのお店に散る前に、李火君がしっかりがっちりざっくりと、「みんなでまとまって動いてね」と釘をさします。
さすがの劉生君たちも、二度も同じような失態はしません。こくこく頷きます。
李火君はほっと安心して、みんなの頭を撫でます。
「よしよし、だね」
「ちょ、リッヒー! 痛い痛い!」「首もぎ取るつもりですか!」
「え、ごめん……」
みんなに嫌がられ、手を引っ込んでしょんぼりします。
「……それじゃあ、はい」
落ち込みながら、李火君はあるものを配ります。
「レプチレス・コーポレーションの紙幣だよ。日本円にすると、一万円かな」
「い、一万円!?」
今まで手にしたこともない金額です。
劉生君はおっかなびっくりでお金を眺めていますし、リンちゃんだって目を真ん丸にさせています。
吉人君とみつる君も、二人ほどではありませんが驚いています。
「これ、全部使ってもいいんですか?」
「うん。ほんのちょっとしかなくて、ごめんね」
「いや、ちょっとではありませんって」
李火君も中々裕福な家庭のようです。吉人君の常識的な台詞に、李火君はキョトンとしています。
「それはともかくっ!」
リンちゃんは弾けるように笑います。
「お買い物! しましょ!!」
〇〇〇
鋭い切れ味のつるはしを展示している道具屋さんや、転んでも怪我しにくい頑丈でかっこいい作業着を売っているお洋服さん。
小さな宝石をあしらった、手に取りやすい価格のアクセサリー屋さん、作業中に食べやすい一口サイズのお菓子をたくさん売っているお店。
本当にたくさんのお店ばかりで、目移りしすぎちゃいます。
「わあ……。すごい……」
劉生君はうっとりと商品を眺めます。見てるだけで楽しくて楽しくて仕方ありません。ワクワクしすぎてふらふらどこか行こうとする劉生君を、必死で李火君が止めます。
「ストップ。ストップ。劉生君、ストップ」
「はっ! 身体が勝手に個人行動をしてしまった!!」
「本当にやめて……。怖い……」
李火君は頭を抱えます。
「別の店を覗くにしても、せめて隣にして……」
「うん! わかった!」
ノリノリで隣のお店を見てみます。
「このお店は……。んん??」
木製の笛がたくさん並んでいます。一見安そうに見えますが、一つ三万四万は当たり前のお値段でした。
「わあ。買えない。ねえ李火君。どうしてこんなに高いの?」
「ん?」李火君は疲れたように笛を見ます。「ああ。これがほしいの? 安いのが他の店にもあるよ」
「ううん、そうじゃなくて、どうして高いのかなって思ったの」
もう一度尋ねてみると、ようやく李火君はしっかりと笛を見てくれました。
「ああ。これは恐竜よけの笛と、恐竜寄せの笛だね。恐竜公園である種の恐竜を見たい時、またはどっかに行ってほしい時に使うものだよ」
「へえ! なら、その笛で恐竜さんを呼んで、背中に乗せてもらえるってこと!」
「いや、それはできないね」
李火君は苦笑します。
「この笛は呼ぶか散らすかしか出来ないよ。恐竜たちを操るのは基本無理だね」
「あー、やっぱそうなんだ……」
「まあ、結構高めの笛を使って、恐竜たちと信頼関係がある人なら出来るけどね。そんなことができたのは、あの女の子、村田聖菜ちゃんくらいかな」
「へえ! 聖菜ちゃんはできるんだ! すごいなあ」
あの優しそうな女の子、聖菜ちゃんなら、恐竜たちも甘えてしまいたくなることでしょう。
もしかして、聖菜ちゃんと一緒にレプチレス・コーポレーションに来たら、恐竜に乗りたいと願う吉人君の夢が叶うかもしれません。
吉人君も喜ぶだろうなあ、とニコニコしていると、ふと、李火君の首元にかかった笛が目につきました。
「あれ、李火君、笛持ってるんだ」
「え? あっ、そうだね。うん。持ってる」
今気づいたとばかりに、首にかかる笛を握ります。
「この笛はどっちの笛なの?」
「あー……。これはね、恐竜よけのつもりで買ったけど、使えなかったみたい。ただの飾り。だから置いておくつもりだったんだけど、習慣でつけちゃったみたい」
なんて話をしていると、たくさんの買い物袋を持つリンちゃんがホクホク顔で二人に手を振ります。
「おーい! 二人ともー! 違う店行こうよ!」
「うん、分かったから、勝手に動かないでね! 劉生君も行こう」
「あ、でも……」
どうせなら安いのを買って、吉人君にプレゼントしたいなと、後ろ髪引かれる思いでいると、なんと、李火君が自分の笛を渡してくれました。
「欲しいならこれあげるから、行こう」
「え、ほんと!ありがとう!」
「どういたしまして」
ついつい勢いで受け取り、勢いで李火君の後についていきました。