13 ホッケー対決! 李火君、勝利なるか?
李火君がヘビを連れて行ったのは、ゲーセンに絶対あるであろうマシーン、エアホッケーです。
「それじゃあ、やろうか。最初に十一点取ったほうが勝ちね」
『ふっ、こてんぱにしてやろう』
李火君は片手に、蛇はしっぽにマレット(エアホッケーのラケット的なもの。ゲーセンで売られているアイスのプラスティック部分のような形状をしている)を持ちます。
『こちらからいかせてもらおう。とう!』
パック(エアホッケーのボール的なもの。おせんべいサイズ)を次から次へとうっていいます。懸命に防ぐ李火君でしたが、何点か入ってしまいます。
「ぐう……」
『どうだ。さっさと負けを認めてはどうだ?』
偉そうに高笑いするアオダイショウでしたが、李火君は口元を緩めます。
「……残念ながら、負けるつもりはないよ」
李火君はマレットを華麗に操り、打ち返します。力こそ強くはありませんが、まるでヘビのようにクネクネと動くと、アオダイショウの方の穴にパックが入りました。
『な、なに!』
「連発すればいいって問題でもないんだよ」
天使のような笑顔でにこりと笑います。
両者譲らない戦いに、周りの観客たちは熱狂します。
『いいぞー! がんばれー!!』
「いっけ! やっつけたれ!!」
劉生君も力いっぱい応援します。
「がんばれー!! がんばれー!! フレっフレっりーひー君!!」
みつる君とリンちゃんもハラハラと一人と一匹のバトルを見守り、声援を送ります。
そのおかげでしょうか。李火君の点がぐんぐんと伸びていきます。
『……畜生……』
アオダイショウの顔色が悪くなっていきます。
『仕方ねえ、なら……』
ヘビの目がぎらりと輝きます。ヘビの言葉自体は、誰も聞こえないような小さな呟きでした。しかし、注意深くヘビを観察していたみつる君の耳には入りました。
みつる君の視線に気づかず、アオダイショウは胴体を長く伸ばします。
『ここから、本番ってところだ』
その一言を皮きりに、ヘビは次々と点を入れはじめたのです。
「なっ、」
李火君は息をのみます。
「……この……!」
李火君も懸命に応対しますが、パックは予想もできない軌道を描き、李火君の守りをいとも簡単にかわしていきます。
あっという間に追い詰められ、形勢逆転されてしまいます
劉生君は悲鳴のような声をあげます。
「り、李火君! 負けるな。負けるなー!」
リンちゃんも続けて応援します。
「がんばれー!! リッヒー!!!1」
声を張り上げるリンちゃんに、こそっと耳打ちする男の子がいました。みつる君です。リンちゃんは訝しげにみつる君を見ます。
「どうかしたの?」
「道ノ崎っちに見てほしいところがあるんだけど……」
「見てほしいところ……。ところ? どこ?」
みつる君はある一点を指さします。二人が目を凝らしてみていた、その最中にも、アオダイショウの猛攻は続きます。
「……っ」
このままでは、李火君が負けてしまいます。そうなったら、レプチレス社長を倒すどころではありません。
血眼になってお金を稼ぐ羽目になるか、レプチレス・コーポレーションの役員に見つかって捕まるかのどちらかです。
李火君は息を止めて、パックを睨みます。
「……えいや!」
渾身の力とテクニックを活用し、パックを打ち返しました。パックはそれそのものが生きもののように動き、アオダイショウの穴に吸い込まれようとしました。
しかし、穴に入る寸前、パックは妙な動きをしました。
まるで誰かが手で払ったかのように、パックは弾かれたのです。
「なっ、」
パックは台を滑り、李火君の方の穴に入ってしまったのです。
会場は割れんばかりの歓声で溢れました。
『さすがだな、アオダイショウ!』「よっ! ゲームマスター!!」「今日はおごれよー!」
アオダイショウを褒める子供たち、揶揄する動物たちの中で、劉生君はその場に崩れ落ちてしまいました。
「そんな……。それじゃあ、僕たちは……」
『決まりだな』
アオダイショウは誇らしげに胸をはります。
『それとも、他のガキたちも挑戦してみるか? まあ、無駄だろうがな』
歓喜をこめて、ヘビは高笑いします。
『さあ、それでは、借金証明書を書いてもらおうか?』
ヘビがいじわるに囁いた、そのときです。
「「ちょっと待った!!」」
リンちゃんとみつる君が叫びました。