12 対戦?! VSアオダイショウ!
今の劉生君は、まさに『蛇に睨まれたカエル』でした。
劉生君たち三人はクレーンゲームのエリアから離れ、コインゲームエリアにきていました。スロットや、同時に複数人が遊べる巨大なコインゲームが並ぶ中、劉生君は子供用のコインゲームの席に座っていました。
対戦型のゲームのようで、劉生君の向かいにはヘビ――咲音ちゃん曰く、アオダイショウが悠々と座っています。
それぞれの画面には、二匹の恐竜が映っています。右側のティラノサウルスが劉生君、左側のアロサウルスがアオダイショウの恐竜です。
『さあ、これが最終バトルだ。先手はそちらに譲ろう。どうする?』
「……」
赤いボタンを押せば、攻撃することができます。しかし赤ばっかり押していると、敵に反撃されてやられてしまいます。一回目はそれで負けてしまいました。
青ボタンをタイミングよく押せば、向こうの攻撃を避けることもできます。しかし、ずっと避けているとペナルティーが発生してしまいます。二回目はそれで負けてしまいました。
本来ならここで負けでしたが、調子に乗ったアオダイショウは『最後の戦いで勝てたら、お前らの勝ちでいい』と宣言しました。
それでも、ペナルティーをつけることは忘れませんでした。
『ひひひ、いいか? 前に話した通り、このゲームにお前が負けたら五百万円払ってもらうからな』
「うっ……。そんなお金ないよ……」
『なら、借金でもして返してもらうしかねえな』
アオダイショウは喉の奥で笑います。
「うう……」
劉生君はそこら辺の普通の子供の様にゲームに慣れ親しんでいました。けれど、やり手のゲーマーでもありませんので、初見のゲームでどうやって勝つのか見当もつかないのです。
劉生君よりもゲーム慣れしていないリンちゃん・みつる君はより一層わかりません。みつる君は懸命に糸口を探そうとゲーム画面を睨みつけ、リンちゃんは歯ぎしりをしてアオダイショウを睨むばかりです。
当然、そんなところに動揺するアオダイショウではありません。むしろ得意げにシューシューを鳴きます。
『さあ、はじめようか』
「う、……うう……」
はじまったなら仕方ありません。
劉生君は必死に赤いボタンと青いボタンを連打します。
「お、おりゃー!!!」
『ふっ、甘い』
ヘビは素早いボタン裁きで劉生君を追い詰めます。尻尾一本でボタンを押しているとは思えない、少なくとももう一人影ながら押しているかのような連打術です。
「う、この……!」
劉生君も負けじと頑張りますが、いとも簡単に形勢逆転されてしまいます。
そして……。
「あっ……」
劉生君の画面には、『YOUR LOST』と書いてありました。
アオダイショウは至極嬉しそうに目を細めます。
『勝ったな。約束通り、金を出してもらおうか』
「き、汚いわよあんた!」
リンちゃんが握りこぶしを振り回します。
「そもそも、あんたが吹っ掛けてきたんじゃないの! リューリュー、あんな奴のこと無視しちゃいましょう!」
リンちゃんは放心している劉生君を引っ張っていこうとしました。しかし、見学していた他の爬虫類が彼らの行く手を阻みます。
「な、なによ」
爬虫類たちはニマニマと笑います。
『残念だが、約束は約束だ』
『この場所は無法者たちの居場所だぜ。だからこそ、ルールは守らないといけない』
『約束をしたからには、しっかりと払ってもらわねえとな』
次々と強そうな爬虫類たちが集まってきました。
「……おーしっ」
リンちゃんはやる気満々で腕まくりをします。
しかし、みつる君が慌てて止めました。
「待って、道ノ崎っち! ここで暴れちゃったら、お金を集められないよ!」
「うっ……。そうはいっても、どうするのよ」
「どうするって言われても……」
二人が困り、劉生君は怯えて涙目になってしまっていました。
「ううっ……。どうしよう……」
劉生君がぎゅっとリンちゃんの袖を掴んでいると、
「それなら、提案がある」
小さな子供が無理に大声を出しているかのような、裏返った声が響きます。ふわふわな茶色の髪に、茶の瞳の男の子、李火君です。
「俺と勝負をしようか」
ゲームセンターの客たちがざわざわ騒ぎます。
『おい、あの子供って、山崎李火じゃないか?』
「ああ、たまにゲーセンに来て小金稼いで帰るやつか。ゲームはうまいっちゃうまいが、あのアオダイショウに勝てるのか?」
ちなみに、アオダイショウは李火君のことを知らなかったようです。煩わしそうに李火君を一瞥します。
『なんだ、お前』
「その子たちの連れだよ」
『ふん、大人のゲームに口出すな』
「そうだね、賭け金は一千万でどう?」
『……ほう……』
金額を聞いて、アオダイショウの目の色がガラリと変わりました。
とはいっても、良い意味ではありません。
そこら辺の石ころを見るような眼から、香しい匂いを放つネズミを見るような眼に変わります。
『お前は話がわかるようだな、坊主』
アオダイショウは舌なめずりします。
「ゲームは俺が指定してもいいかな」
『いいだろう。案内しろ』
ヘビの案内をしようとする李火君に、劉生君はピスピス泣きながら抱きついてきました。
「うわあ! 李火君!! 勝手に動いてごめん! ごめん!!」
「分かった分かった、分かったから落ちついて」
李火君は慌てふためいて、劉生君の頭を撫でてあげました。……あまり撫でるのに慣れていないのか、撫でる力が妙に強く、どちらかというと頭をもぎ取ろうとしているかのようでしたが。
劉生君はなんだか怖くなってきて、泣き止みました。李火君はよかったと言わんばかりにホッとします。
「大丈夫。君たちを責めはしないよ。しかし、妙なのに絡まれたね」
李火君は眉間にしわを寄せ、小声で言います。
「あのヘビは評判が悪いんだ」
そこらへんにいる新入りに絡んで金を巻き上げる、性格の悪いヘビなのです。それだけではありません。あまりに勝ち進めていますので、イカサマをしている疑惑も上がっているのです。
「このゲームセンターは信頼のない動物たちの集まり。とはいえ、ある程度のルールはあるんだ。一番の禁止事項はイカサマだね。それがバレたら、とんでもないことになる」
みつる君もヘビを気にしながら、小声で尋ねます。
「ならさ、あのアオダイショウのイカサマを見つけたら、赤野っちがお金払わなくてすむってこと?」
「……いや、それは厳しいと思う」
小さく首を横に振ります。
「アオダイショウはイカサマ疑惑を何度も囁かれている。けど、誰も証拠をつかんでないんだ。だから正々堂々と戦って、どうにか勝たないと……」
しかし、李火君の声は震えていましたし、自信なさげでした。