11 お金稼げるかな? ゲームセンター!
眠っている橙花ちゃんを守るため、吉人君と咲音ちゃんを残し、(二人曰く、「できるなら、もっと恐竜をみていたい」とのことです)劉生君たちは恐竜の公園を抜け、作業用のエレベーターでおり、くねくねとした細い道を通ります。
「……それにしても……」
リンちゃんは李火君が持つ瓶を睨みます。
「そのヘビ持っていくのね。あっちに置いていっちゃ駄目だったの?」
瓶の中で、黄色のヘビが不貞寝をしていました。李火君は苦笑します。
「まあ、一応ね。俺がもし気絶したら、あのシールもはがれちゃうからね」
「へえ、そうなの! 万能じゃないってことね」
「そうそう。だから念のために持っておいた方がいいかなって思ってね。けど、さすがに隠さないといけないか」
丁寧にアイロンづけされたハンカチで、瓶を包みます。
「これでよしっと。あともう少しでつくよ」
それから暫く歩くと、行き止まりにつきました。道を間違えたのかと思う劉生君たちでしたが、李火君は迷わず突き当りの壁に歩きます。
「どうもどうも。合言葉をいうよ。『蛇の道は蛇。藪をつついて蛇を出す。シャーシャーシャー』!」
がらごろと、石が動きました。
その瞬間、音の洪水が一気に押し寄せてきました。
「わわっ! なに!? 爆弾!?」
「リューリュー、違うわよ! ほらみて!」
リンちゃんは目を輝かせます。
「ゲームセンターよ!!」
ポップな音楽や、どこかで聞いたことがあるアニソンが流れていますし、レースゲームからはブレーキ音やドリフト音がど派手に響いています。
リズムゲームでは子供たちが軽快なリズムをきざんでおりますし、じゃらじゃらとメダルが吐き出される音もします。
怖がっていた劉生君も、ほっと息をつきました。
「本当だ。普通にゲームセンターだ!」
百貨店にあるようなゲームセンターです。
どうやらレプチレス・コーポレーション内では今日は休日のようで、『休日限定!コインプレゼント!』というのぼりが立っています。
これには、みんな、おおはしゃぎです。
「わーいわーい! 僕、メダルゲームやってくる!」「仕方ないわね、あたしはボクシングゲーム行ってくる」「へえ、あそこのクレーンゲームの商品はケーキなんだ! 見に行ってこよ」
前触れもなく、四方八方に散りかける子供達を、李火君はあわてて呼び止めます。
「え? ちょ、待って待って!!ここは何が起こるか分からない場所だから、個人行動は駄目だよ!!」
李火君は必死でしたが、リンちゃんはころころと笑います。
「あはは、今のリッヒー、すごく蒼ちゃんっぽかったよ!」
「……は、はは……」
空笑いをすることしかできません。
李火君が持つ瓶の中から、黄色のヘビの声がしました。
『なんつーか……。とんでもねえ連中ッスねえ……』
布の隙間から見えたのか、それとも声だけ聞いて判断したのか。そこらへんはよく分かりませんが、李火君も同意せざるをえません。
三人相手でこれですので、五人そろっていたらとんでもなく大変に違いありません。
橙花ちゃんのリーダーシップをもってしても、彼らの引率はかなり頭を悩ませたことでしょう。
李火君はついつい同情しました。
「……ひとまず、一人で出歩かないようにね。いいかい?」
「「「……はーい」」」
渋々ながら、三人は頷いてくれました。李火君は肩をおろします。
「それじゃあ、まずはこの場所の説明からしようか」
レプチレス・コーポレーションでは、お金ですべてを解決できる場所です。けれど、お金を手に入れるためには、信頼が重要なものとなります。
ですので、信頼のない子供や爬虫類は、お金を手に入れることさえも難しいです。
しかし、お金がないと欲しいものも買えませんし、レプチレス・コーポレーションから出ることもできません。
ならば、どうするか。
「そう考えて作られたのが、この場所だよ。簡単に説明すると、普通に仕事して稼げないなら、かけ事をして稼いでしまおうってこと」
みつる君は顔をしかめます。
「……なんだか、危なそう」
「その通り。一攫千金もできなくはないけど、基本は借金を作ってしまう場所なんだよね。だから、本来は遊び感覚で入るほうがいいんだけど、まあ、四の五の言ってられないからね」
不安そうなみつる君に、李火君はぱちりとウインクします。
「そんなに心配しなくて大丈夫。当たりやすいゲーム知ってるからさ。あ、その前にお金をコインに変えてこなくちゃいけないか。……この人数でいくと、トラブルにまきこまるな……」
不信に満ち溢れた目で劉生君たちを見ます。
「……今からちょっと離れるから、絶対にそこから動かないでね。絶対だよ!」
何度も念押しをして、李火君はかけていきます。
「もう、李火君ったら、もう少し僕たちを信頼していいのにね」
李火君の当然の心配に、劉生君はのほほんと憤ります。リンちゃんもそうだそうだと言っています。
「あたしたちだって、待つくらいできるよ。ねー、リューリュー!」
「うんうん!」
フラグめいたことを言っていますが、さすがの劉生君リンちゃんも、あそこまで念押しされたので、うろうろせずに留まっていました。
唯一の心配は、みつる君がソワソワしていることでしょうか。
「ね、ねえ、二人とも.。ちょっとだけ、見にいってもいいかな。見るだけだから。見るだけだから!」
みつる君が気になっているのは、ケーキのクレーンゲームのようです。
あの崩れやすいケーキをクレーンゲームの景品に落とし込むなんて、どういう工夫をしているのだろうかと、みつる君は知りたがっていました。
「うーん、どうしよ、リンちゃん」
動くなって言われましたし、劉生君は我慢したいなあと思っていました。けれど、クレーンゲームの場所はすぐそこです。それくらいならいいかな……? とも思っていました。
悩む劉生君とは裏腹に、リンちゃんは明るく答えます。
「あそこくらいならいいんじゃない? すぐそこだし」
「わーい、それじゃあ見てくるよ」
言うが否や、みつる君は小走りでクレーンゲームの方にいきました。
「あたしもちょっとだけ見にいこーっと。ケーキのクレーンゲームって、なんかこう、どうやるのかしらね? 落としたら終わりな気がするけど……。リューリューも見に行く?」
「うん! 見に行く!」
二人が行くのならと、劉生君は意気揚々とクレーンに近づきます。
あんまりクレーンゲームに気をとられていたからでしょうか。
『あぐっ!』
劉生君は紐のようなものを踏んでしまいました。
「あれれ。なんだろう……?」
紐がつづく先を追い、劉生君は血相を変えます。
そこには、首をもたげ、シューシューと呻るヘビさんがいたのです。
「あ、あはは……」
『……オレの尻尾を踏むとは。命知らずなやつだ』
「……」
劉生君は思いました。
やっぱり動かないほうがよかったな、と。