10 商売とは、信頼なり! レプチレス・コーポレーションのルール!
李火君は考えながら言います。
「武力で戦うのはやめておこっか。そうなるとお金を払わないといけない、稼がないといけないことになるけど……」
ちらりと、瓶に閉じ込められたヘビに視線を送ります。
「レプチレス社長の部下を捕まえている現状から考えると、こつこつ稼ぐわけにはいかないね」
みつる君は首を傾げます。
「こっそり宝石と化石を掘って、こっそり売ればいいんじゃないの?」
時間はかかるかもしれませんが、みんなの力を合わせて頑張っていけば、どうにか稼げるかもしれません。
みつる君の意見は妥当のように思えましたが、李火君は小さく首を横に振ります。
「いいや。俺たちは信頼がないから、宝石や化石を売ったり加工したりはできないよ」
「信頼……?」
みんなの頭にクエスチョンマークがつきます。宝石や化石を持ってきさえすれば、お金に変えてくれるものではないのでしょうか。
みんなの疑問を察したのでしょう。李火君は申し訳なさそうに頭をかきます。
「そうか、ごめんね。説明不足だった。ちゃんと話すよ」
レプチレス・コーポレーションは、お金でなんでも解決する世界です。
お金さえあればレプチレス・コーポレーションから出ていくこともできます。社長にも会うことが出来ます。
この事実は劉生君たちには教えませんが、お金があれば、コーポレーションの中枢に配属されることすら可能なのです。
ですので、レプチレス・コーポレーションの子供たちや爬虫類の動物たちの大半は、お金を手に入れようと努力し、必死に働きます。
けれど、中には悪しき心を持つ、怠惰なものたちもいます。わざわざ汗水たらして宝石や化石を掘るのも嫌だ、しかし、金は欲しい、そんなことを思う彼らは、ニヤニヤと笑いながら、あくどいことを行います。
左手には、ただの石ころを。
右手には、絵具を。
ペタペタと絵具で石を塗ると、なんということでしょう! そこらへんの石ころが、宝石のように早変わり!
悪い子たち、悪い魔物たちはそれを『宝石』と偽って売りに出します。
これで困るのは、『宝石』だと思いこんでしまった買い手さんです。なにせ、水に濡れたら石ころに戻ってしまうのです。 綺麗な宝石を眺めたい人や、宝石を加工するために購入した人は、「なんだこれは!」と怒ることでしょう。
「こんなものいらない! 返品だ!」と、ショップに戻っても、そこには誰もいません。わざわざ一か所にとどまり続けるような犯罪者はいません。
買い手さんにできることはただ一つ。泣きながら助走をつけ、石を投げ捨てることしかできないのです。
ここまであくどい子どもや魔物は、さすがに少ないですが、ぼろっちい刀を高値で売りつけられたり、使用済みのヘルメットを新品だと偽って売ったりする事件も多発しました。
買い手たちは「もう絶対やばいものを掴ませられねえぞ」と警戒しはじめました。中には警戒しすぎて、善良な売り手さんと喧嘩する事件もちょいちょい発生してしまいました。
そこで、優良なものを売ってくれる人や魔物たちと、ぼんくらを売る人や魔物たちを区別するようになり、前者を『信頼がある人』、後者を『信頼がない人』と例えることとしました。
「信頼ある人なら、宝石を高値で買ってもらえる。けど、信頼がない人は疑われちゃうから、あまりいい金額で買い取ってくれないんだ」
それでは、信頼を得るためにはどうすればいいのでしょう。
もし、劉生君たちが普通にレプチレス・コーポレーションを訪れた子だったら、答えは簡単です。いいものを売って、信頼できる人だと認めてもらえばよいのです。
ですが、残念ながら劉生君たちはレプチレス・コーポレーションのヘビを拉致監禁している立場です。
そんな子供たちを、みんなが信頼するわけがありません。絶対に無理です。もう一度言いましょう。絶対に無理です。
「だから、普通の方法では稼げないね」
ならば、どんな方法で稼げばいいのでしょう。
リンちゃんと劉生君は分かったぞと言わんばかりに武器をもち、こくりと頷います。
「分かった。強行突破ね」「任せて!」
「違う違う。……君たちも蒼おねえちゃんに負けず劣らず脳筋だよね……。正当なやり方じゃないけど、一攫千金を狙える方法があるんだ。試してみる?」
李火君は、ぱちりとウインクしました。