9 李火君と情報共有! レプチレス・コーポレーションの魔王ってどんな動物?
新しく入れてもらったココアを飲みながら、みんなは李火君に色々なことを教えました。
橙花ちゃんと一緒に魔王対峙をしていること。
フィッシュアイランドとマーマル王国、トリドリツリーの魔王は倒したこと。
コロシアムの魔王を倒しにいこうとしたが、その途中で黄色いヘビに呪いをかけられてしまったこと。
本筋だけではそこまで情報量がないはずですが、かなり脱線してしまったため(「僕らはね、フィッシュアイランドのアトラクションつくったの!! バンバン! ってね! 拳銃でね! 戦うの!」「マーマル王国のお菓子は美味しかったですねえ。本当に。ええ!」)、全て話し終えるときにはココアが冷めきってしまいました。
「……そっか」
李火君は、冷たいココアを一口飲みます。
「……君たちだけで魔王を倒すなんてすごいね。それに三体も……」
「えへへ、それほどでもないよー」「ですですー!」
劉生君と咲音ちゃんがテレテレ照れますが、みつる君がそっと突っ込みます。
「まあ、トリドリツリーの魔王は俺たちが倒したわけじゃないけどね」
「え? そうなの?」
リンちゃんが「そうそう」と笑います。
「なんかさー、いまいちよく分からないのよ。魔王のとこにいったら急に気絶してさ。んで、目が覚めたら魔王が倒れてたの」
「そうなんだ……」
李火君はちらりと劉生君を見ます。
「君も覚えてないの?」
「うん、そうなの。変な場所でお片付けした記憶はあるんだよね。魔王トトリは手伝ってくれなかったけどね! トトリって魔王はヒドイ人だよね! プンプン!」
訳の分からない情報に、リンちゃんは呆れ顔です。
「どうせあれでしょ? リューリューが自分の部屋を片付けてないから、そんな夢みちゃったんでしょ」
「うっ……。ま、前よりは片付けてるし……」
そう言いながら劉生君は視線をそらしましたし、目を泳がせます。完全に嘘をついています。
わいわいお喋りをしている二人を横目で見ながら、李火君は呟きます。
「トリドリツリーの魔王をどうやって倒したかは分からないんだ」
それから続く言葉は、しっかりとみんなに聞こえるように言います。
「けど、マーマル王国とフィッシュアイランドの魔王は倒したんもんね。すごいなあ。それなら、レプチレス・コーポレーションの魔王もすぐに倒せるね!」
リンちゃん劉生君は元気よく声をあげます。
「ええ! やっちまうわよ」「うんうん!」
しかし、二人の元気は全くもって根拠がありません。そのことを分かっている吉人君は、ちゃんと李火君に質問を投げかけました。
「ところで、レプチレス・コーポレーションの社長さんはどんな魔王なんですか? 僕たち、そこの黄色いヘビのせいで、頭のいい魔王だって情報しか手に入れてないんです」
「なら、魔王の顔も知らないっもこと? だったら、今から国営放送が始まるから、みんなで見てみよっか。えーっと、テレビテレビ」
奥に引っ込むと、昔懐かしいブラウン管を引っ張り出しました。劉生君たち子供たちには見当もつかないコードを差し込み、「あれ違うなあ」と外し、また差し込みます。
ようやく電源は入りましたが、砂嵐しとノイズ音がなるばかりです。
「ひい! 何この画面怖い!」
劉生君が怯えて、リンちゃんの後ろに逃げます。吉人君は「昔懐かし砂嵐ですねえ」と興味深げにテレビを眺めています。
李火君は少し離れたところからテレビを眺め、腕を組みます。
「うーんっと。こういうときは……。こうだ!」
斜め四十五度!!
からの、
アタック!!!
「よし、ついた」
「つくんだ!?」
ノイズだらけでしたが、テレビはつきました。画面いっぱいに大きな動物がうつります。
石のような体、ちろちろと細長く伸びる舌、つぶらな小さな目は可愛らしいが、肉食獣が持つ恐ろしい歯が見え隠れしています。
魔物は、ゆったりと話し始めます。が、しかし、なぜか声は聞こえません。そういえばBGMすらも聞こえません。
「……あれ? 壊れてるのかな」
李火君が色々いじっていると、突然、ボンっと爆発するような音が響きました。
「うわあ!」
李火君はビックリしてテレビをはたきます。テレビはぐらりと揺れて横に倒れると、ぱりん、と嫌な音がしました。
「「「……あ」」」
もう一度セッティングしてみましたが、テレビはつきませんでした。
「……」
李火君はテーブルを背中に隠すと、にこりと笑います。
「あれがレプチレス・コーポレーションの魔王だよ!! コモドドラゴンなんだ!! それ以外に聞きたいことがあればドンドン聞いて!!」
李火君、意外と機械音痴のようです。
咲音ちゃんは苦笑しながら、積極的に李火君に質問を投げかけます。
「コモドドラゴンさんですか! 有名なトカゲさんですね。噛む力も強いですし、毒も持っているんですよ!」
みつる君、思わず叫びます。
「めちゃ強いじゃん!!」
頭脳派うんぬんはどこにいってしまったのでしょうか。ぶるぶる震えるみつる君でしたが、劉生君と吉人君は違う反応を示しました。
まずは劉生君の方です。
「コモドドラゴン……! それって、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のピンクのモチーフになってる動物だ!!」
可憐でチャーミングなピンクは、公私ともに毒を吐く女の子です。あまりにも口が悪いので劉生君は「あの子なんだか怖いなあ」と苦手に感じてはいますが、でも好きなのです。大好きなのです。
一方、吉人君は別のベクトルで感激していました。
「さっきの魔物! コモドドドラゴン……でしたっけ? かっこいいですね! 僕、結構好きかもしれません!」
細かなウロコに鋭い牙と、まるで恐竜のような姿が彼の好みに突き刺さったのです。二人できゃっきゃとはしゃいでいると、リンちゃんは信じられんとばかりに唇を尖らせます。
「あたしはどっちも好きじゃないかなあ。やっぱ毛が生えてる動物じゃないとねえ。みつる君もああいうコモドドドドラゴン? 好きなの?」
「あー。俺はそこまででもないかな。名前はかっこいいよね。コモドドドドドラゴンなんてね」
咲音ちゃんはくすりと笑います。
「もう、みつるさんったら。うっかりさんですね。ドが少々多いですよ」
「あれ? 何回だっけ」
劉生君がぴょんぴょん跳ねて手をあげます。
「はいはい! 僕分かるよ! コモドドドド……あれ? ドドド、ドド、ドドドド? コモドドドドドドドドドドドドドドドドド」
「……ちょっといいかな」
李火君が待ったをかけました。
「コモドドラゴンはコモドオオトカゲって名前でもあるんだ。そっちの名前で呼ぶことにしようよ」
みんなは顔を合わせ、頷きます。
「……そうね! うん! そうしましょ」
「混乱しますものね! そうしましょう!」
コモドオオトカゲに統一することになりました。李火君はこほんと咳ばらいをします。
「えーっとね、さっき話した通り、コモドオオトカゲは毒を持っていて、なおかつ噛みつく力が強い。あと人や魔物を操る力があるね」
「ええ! そんな力が?」リンちゃんは嫌そうにしていますが、心配しなくてもいいよと言わんばかりに笑みを浮かべます。
「君たちみたいなミラクルランドに住んでいない子は操れないから、気にしなくてもいいよ。戦いだってうまくできないから、君たちなら何とかなるよ」
咲音ちゃんはのほほんと笑います。
「それで、コモドオオトカゲさんにはどうやってお会いできるんですか?」
「ああ。そうだ。一番教えておかないといけないことを忘れてた。レプチレス・コーポレーションの魔王に会うためには、社長と会えるチケット、その名も、プレジデントチケットが必要なんだ」
「プレジデントチケット……。響きはかっこいいですね」
「響きはかっこいいけど、結構いいお値段なんだ。なんと、5000万円」
リンちゃんとみつる君は声を揃えて叫びます。
「「ご、ごせんまん……!!!」」
とんでもない金額に、劉生君の頭は大混乱です。
「五千万って、つまり、レプチレス・コーポレーションから五回出れるってこと!? すごい! たくさん出れる!!」
吉人君は頭を抱えます。
「ほぼ無理じゃないですか……。どうするんですか」
「そうだね……」
李火君は思いつめたようにみんなの顔を見渡します。すると、リンちゃんは分かってるわよと言いたげに親指を立てます。
「チケットなしで強行突破ね! それなら任せて! あたしたちがいれば、魔物の一匹や二匹倒してやるわよ!! 頑張るわよリューリュー!」
「うん! 僕の『ドラゴンソード』で、みんなを守るよ!」
「ナイスリューリュー!」
意気揚々と立ち上がる二人に、李火君は慌てふためきます。
「ちょ、ちょっと待って。強行突破はよくないよ。ここの魔物は魔法道具をたくさん持っているし、単純に強い魔物も多いからさ。もっと平和的な方向で攻めようよ」
「「「……」」」
劉生君、リンちゃん、吉人君は目をまん丸にして李火君を見つめます。あまりの注目ぶりに、李火君はずるずると後ずさります。
「……えーっと……。どうかしたの?」
「いやー。ねえ?」
リンちゃんが何か言いたげに吉人君を見ます。吉人君も何が言いたげに相槌します。劉生君は笑顔で言います。
「ううん。李火君は悪くないよ。橙花ちゃんだったら絶対に強行突破だーって言いそうだなあって思ってね!」
「……ああ。そういうこと」李火君はふっと笑います。「蒼おねえちゃんはああみえて脳筋だからね。なんでも腕っぷしで解決しようとするよね」
「昔からああなの?」
「その片鱗はあったよ。あそこまでになったのは、魔王が乱暴になってからだけどね」
「……」
魔王が乱暴になってから。
李火君の一言に、劉生君はある記憶を思い出します。
魔王のギョエイやレオン、トトリが楽しそうに橙花ちゃんと語り合っていた、あの記憶のことを。
李火君はどうやら橙花ちゃんのことをよく知っているようですし、あの友之助君も「李火を頼れ」と言ってくれていたのです。
もしかしたら、李火君なら橙花ちゃんが話そうとしない、魔王と橙花ちゃんの過去を知っているかもしれません。
よし、聞いてみようと、口を開きます。ですが、どうもタイミングがあわず、李火君が話し始めてしまいました。