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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
5章 商売の国、レプチレス・コーポレーション!―君を信じたいから―
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7 第二の案内人! 大人っぽい男の子、李火君!

 トリケラトプスは恐竜がたくさんいる公園をのしのしと歩いていきます。ほかの恐竜たちは怯えて一歩後ずさってくれました。


 しばらくすると、少年はポンポンとトリケラトプスを軽く叩きました。 


「トリケラトプスー。座ってもらっていいかな?」


 トリケラトプスがしゃがんでくれました。男の子はひょいと恐竜の背中からおります。


 運動神経のいいリンちゃんや、怖いもの知らずの咲音ちゃんも軽々とおり、運動神経の良くないみつる君と、慎重な吉人君はおそるおそるおります。


 劉生君は滑り落ちます。橙花ちゃんを守ろうとしたせいで、思いっきり膝をすりむきます。


「もっ……。もごご……」

「わわっ! 大丈夫かい?」


 少年はまたもや手を差し伸べてくれます。劉生君は彼の手を再びとりながら、彼の顔をまじまじと見つめます。


 ミルクティー色の髪はふわふわで、細い茶色の目は、優しい光を帯びています。大人っぽい口調だから劉生君たちよりも年上かと思いましたが、背丈はとても低く、みおちゃんと同じくらいでした。


「もご、もごご?」


 一体誰なの? と尋ねますが、彼は困っています。


「えっと、そのー。……さっきから気になってたんだけどさ、」

「もご?」

「どうして口にテープ貼ってるの?」

「……もご……?」


 劉生君やリンちゃん、咲音ちゃんは首を傾げます。


「あれ? そういえば、なんでリューリューってテープ貼ってたんだっけ?」

「わたくしも思い出せませんわ。みつるさんは覚えてます?」

「……なんだっけ……? つまみ食い防止? はずそっか」


 みつる君のおかげで、ようやく劉生君は自由に喋れるようになりました。劉生君は気持ちよさそうに息を吸って吐きます。


「あー、口呼吸はいいね! うんうん! それでそれで、君って一体誰なの? なんだか不思議な子だね!」

「……う、うーん」


 口にテープを貼っている子に言われたくはないなあ、と思う少年でしたが、大人ですのでその気持ちは胸にしまいます。


「はじめまして。俺の名前は山崎李火だよ。よろしく」

「李火さんですか?」咲音ちゃんはポン、と手を叩きます。「もしかして、友之助さんがお話していた方ですかね?」


 少年、李火君は懐かしそうに目を細めます。


「ああ、友之助おにいちゃん。元気にしていた?」

「うん! 元気だよ! あのね、友之助君はね、ムラを守るリーダーなんだ! かっこいい銃で戦ってるの!」

「……銃?」李火君はキョトンとします。「武器を持って戦ってるの? 友之助おにいちゃんが?」

「うん、そうだよ!」

「……それって、蒼おねえちゃんが許したの?」

「そうだけど……。どうして?」

「あ、いや」


 戸惑ったように頭をかきます。


「俺がいたときは、子供たちはボクが守る! 武器を持たせない! みたいな雰囲気だったからさ。変わったんだね」


 リンちゃんは「あー」と声をもらします。


「確かに、フィッシュアイランド前の蒼ちゃんはそうだったわねえ。けどね、あたしたちが叱ったのよ。そうやって一人で戦おうとしないで! 一緒に助け合おうよ! ってね」


「でしたねえ」吉人君もうんうんと頷きます。「あの守りたいって気持ちは少々病的でしたからね」


 咲音ちゃん、みつる君は興味津々の様子で聞いています。


「蒼さんってそんな感じだったんですねえ」「今でもそういう空気はあるけど、もっとすごかったんだ」


 劉生君も、そういえばそうだったなあと思いながら相槌をうちます。みつる君のいう通り、今でもそんな風な受け答えをするときをあります。みおちゃんを助けるときに、自分を犠牲にしようとときなどはその典型例です。


 けれど、少しずつですが、橙花ちゃんも劉生君たちを頼ってくれるようになりました。劉生君たちにはそれが嬉しくて嬉しくてたまりません。


 楽しそうな子供たちをみて、李火君は何か考え込むように俯きます。


「……そっか。君たちは蒼おねえちゃんに信頼されてるんだね」


 李火君は大げさに肩をすくめ、皮肉げに呟きます。


「俺が蒼おねえちゃんに同じこと言っても、何も変えてくれなかったのに」


 その言葉は、どこか寂しそうな声色でした。思わずみんなは口を閉じ、李火君に注目します。


「あはは。変な空気にさせちゃったね。ごめんなさい」


 気まずそうにハニかみます。


「蒼おねえちゃんは昔からああでね。さすがに俺たちを頼ってほしいってずっと言ってたんだけど聞いてくれなくてね。あんまり耳を貸してくれなかったから、嫌になって俺はムラを出たんだ」


 咲音ちゃんはびっくりします。


「あら、そうなんですか? 魔王に誘拐されたわけではないんですね」

『……前も言ったッスが、レプチレス・コーポレーションは子供の自主性を尊重するッス。無理に連れてはこないッスよ』

「そういえばそうでしたねえ」

「……って!」


 みつる君は飛びのきます。


「へ、ヘビ!?」


 先ほど振り払ったはずの、黄色のヘビがとぐろをまいていました。頭がフラフラと揺れています。


『うう……。酔った……。おかげで酔い止め薬を自分で使う羽目になったっすよ……。しかし! お前たちを捕まえさえすれば、経費で落ちるッス!』


 シャーシャーと威嚇します。


『さあお前たち! 大人しくこっちに戻ってくるッス! って、お、お前!』


 ヘビは李火君をみて、あんぐりと口をあけます。


『お前は、勤労の義務を放棄した重罪者、山崎李火!!』

「どうも」

『くっ! 働かない上に社長の客を誘拐するとは! ええい、オレッチが倒してやるッス!! とりゃー!!』


 ヘビは飛びました。


 李火君に捕まりました。


 李火君は瓶にヘビを入れました。


 李火君は何事もなかったかのように話を続けます。


「ムラに戻れなかったからレプチレス・コーポレーションに来たんだけど、働くのも苦手だったから恐竜の公園で暮らしてたんだ。そんなときに、蒼おねえちゃんと一緒にいる君たちを見つけたんだ」

『おいこら! 離せ!』

「監視役もついていたから、助けようかなあって思ってね。……それで、蒼おねえちゃんはどうかしたの? 寝てるだけかと思ったけど、それにしては起きないし……」

『オレッチのこと無視するな!!』


 ここでようやく、李火君はヘビを一瞥します。


「このヘビうるさいね。どうしようかな……。串刺しにして焼こうかな」


 みつる君は目を輝かせます。


「それもいいけど、お酒にもしてみたいなあ!」


 つらつらとヘビを使った料理を口に出します。あまりに恐ろしい調理法に、黄色いヘビの顔が青ざめます。


『ひい! やめるッス!!』


 李火君は天使のように微笑みます。


「それなら、じたばたしないでね」

『う、うッス……』


 ヘビは大人しくなりました。


 みつる君はとても残念そうにしていますが、咲音ちゃんが「駄目ですよ! 無益な殺生はよくありません!」と説得をしています。


 二人を横目でみながら、吉人君は感嘆のため息をつきます。


「脅し方が上手ですね……。李火君っておいくつなんですか?」

「みおちゃんと同じくらいだよ」


 リンちゃんはびっくりします。


「小学校に入ってないってこと? すごいわね! 大人びてる! あたしんちのチビたちはもっと子供なのに」

「あはは。よく言われます」

「その返しもすごく大人! リューリューより大人なんじゃない?」


 劉生君はテレテレと頭をかきます。 


「えへへ、てれる!」

「ほめてないわよ」


 リンちゃんの話が終わるのを見計らい、李火君は口を開きます。


「ここの公園は、爬虫類たちはあまり足を踏み入れないんだ。うっかり恐竜に踏まれるかもしれないからね。 僕らも潰されると危ないから、一旦俺の家に入ろっか」


 こっちだよ、と李火君は歩いてみんなを案内します。トリケラトプスは座り込んで、眼を閉じます。


 吉人君はトリケラトプスが気がかりのようで、ちらちらと後ろを見ます。


「あの恐竜はそのままにして大丈夫なんですか? 爬虫類の誰かに見つかってしまいませんか」

「ああ、うん。問題ないよ。実はね、あのトリケラトプスは恐竜公園にいくつもある恐竜型の機械ロボットなんだ」

「ええ! ロボットなんですか!?」

「そうそう。本物にそっくりでしょ?」


 李火君はくすりと笑います。


「普通に生活している恐竜は手懐けられないから、代わりにあのロボットに乗って公園の中を歩きまわるんだ」


 だから、あんな場所に放置しても問題はないようです。


「へえ、そうなんですか……。本物の恐竜には乗れないんですね」


 吉人君、ちょっと残念そうです。李火君はニコニコと吉人君を眺めます。


「吉人おにいちゃん……だよね? 吉人おにいちゃんは恐竜が好きなんだね」

「ええ。詳しくはありませんが……」

「それなら、将来は恐竜博士になるの?」


 何気ない問いかけをした途端、吉人君の表情が曇りました。


「……いや。恐竜博士にはなりません。僕は親の仕事を継ぐことになっているんです」

「ふうん。恐竜よりも面白そうな仕事なの?」

「……仕事は面白いかどうかで選ぶものではありません。社会的に重要な仕事か否か、将来性があるかが重要なんです」


 まるで自分に言い聞かせるように、誰かの言葉をオウム返しにするかのように、吉人君は言いました。


「……そうなんだ」李火君は納得がいっていないように頷きます。

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