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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
5章 商売の国、レプチレス・コーポレーション!―君を信じたいから―
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6 発掘所見学! 吉人君、とっても嬉しそうです

 もう一度トロッコに乗り、下へ下へと進みます。随分深い場所まで潜っていたはずですが、洞窟内はあいかわらず明るく照らされています。


 レプチレス・コーポレーションに来た時には、ヘビに不信感しか抱いていなかった子供たちですが、今はわくわくしながら付いていっています。


 咲音ちゃんや劉生君、それからリンちゃんは、ルンルンでスキップしています。


「次はなんでしょうねえ。楽しみですね!」

「もごご! もご!」

「うんうん! なんだろうねえ!」


 みつる君でさえ、さっき見たトルコ石の鍋を思い出し、使ってみたいなあ、あの鍋でカレーを煮込んだらどんな味になるんだろうかと想像していました。


 一方で吉人君はなおも油断ならない目でヘビを見ています。


『ふんふふーん。探検探検ッスー』


 鼻歌まじりで先を進むヘビですが、橙花ちゃんに呪いをかけ、自分を含め劉生君たちに不当な契約書を押し付けた悪者なのです。


 もしもみんながまた襲われたら、橙花ちゃんの代わりに戦おうと思い、吉人君は飴の杖を握りしめます。


 舗装された道を外れて砂利道を進み、階段を降りていきます。頭上注意と書いてある看板をしゃがんで乗り越え、少し歩いていると、ヘビはピタリと停止します。


『ここッスね。ほれ、先行くッス』

「もご!」


 なら僕が先に行く! と、劉生君が飛び出そうとしますが、吉人君がそれを制します。


「僕が見てきます」


 吉人君が警戒をしながら、先へと進みます。


 洞窟を抜けると、開けた場所に出ました。吉人君たちはちょうど谷の底の部分にいるようです。


 高くせりたっている壁に向かって、たくさんの子供が一生懸命つるはしを振っています。彼らが削る壁の中には、何があるのでしょうか。劉生君はそちらに目を向け、度肝をぬかれます。


「もごっ!?」


 子供を一のみしそうな、巨大な頭の骨が埋まっていました。


「もごご……! もごもご、もごご!」


 あれはなんだ、めっちゃ怖いぞと主張する劉生君。いつもは吉人君が丁寧に答えてくれているのですが、彼は息をのんで骨を見つめています。


「あれは、……ティラノサウルスの頭蓋骨!」


 ティラノサウルス。


 みんな大好き肉食恐竜です。チャームポイントは小さな前足です。「ぶっちゃけ恐竜ってわかんなーい。爬虫類だっけ? 両生類だっけ? 鳥類だっけ?」なんてあやふやな知識しかない人でも、ティラノサウルスは知っています。


 ティラノサウルスはそこまでかっこよくないんだよ的学説が定期的に巷で流れますが、有名人(恐竜)ならそれも仕方ないかもしれません。


「もごーごー……」


 劉生君は微妙そうな反応をします。


 実をいうと、劉生君はあまり恐竜が好きではありません。周知のとおり、彼の大好きなドラマは『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』ですが、この番組と同程度の人気を誇っているのが、裏番組のアニメ『仮面恐竜キョウスケ』です。


 お互いのファンは仲が悪く、道端でばったり顔を合わせると熾烈な戦いを繰り広げると噂されるほどです。


(EX「やっぱり実写がいいよねえ! リアル感があって!」「あのストーリーでw リアル感w こっちのアニメの方が面白いし。キャラもちゃんと作り込まれてるし」「おめーんとこの主人公、初回は熱血系主人公だったのに、最近やれやれ系主人公になってるじゃねえか。どこが作り込まれてんだよどこが」)

 

 しかし、吉人君は違います。


「……恐竜の骨……。他の恐竜もいるんですよね」

『そうッスよー! ここの谷にはたくさんの恐竜が眠ってるっすよ。アンモナイトやらなんやらも埋まってるッスけどね』

「……アンモナイトも……!」


 眼鏡の奥で、吉人君はキラキラと輝いていました。お菓子の国マーマル王国に初めて来たと同じように、大興奮しています。


 ヘビも満足げに目を細めています。


『ふっふっふ。そこの眼鏡の子は恐竜が好きみたいッスね。なら、これから連れて行く場所はもっと楽しめるッスね!』


 悪戯っぽくウインクします。


『発掘した骨は、採掘場から別の場所に持っていくッス。ここからだと……。この場所が近いっすね』


 ヘビに案内してもらった先は、妙にハイテクそうな機械がたくさんある部屋でした。床も機械っぽく、壁もなんやら機械っぽいです。劉生君は「なんだか秘密基地みたいだなあ」と思いました。


 部屋は透明な壁で二つに仕切られており、手前側には大きなモニター、その奥には何本もの骨が無造作に置いてあります。


 モニターの前には小さな子供が座っています。どうやらパズルをしているようです。バラバラになっている骨を組み合わせています。


『あれはッスね、集めた骨を組み合わせて、恐竜の形にしてるんッス。お前たちの世界で正しいってされてる姿でもいいッスけど、整合性がつけば正しくない姿でもいいッス』


 骨がある方の部屋が光り輝きます。光が収まると、皮と肉がついた動物が立っていました。


『ほら、出来たみたいッス。あれは……。プテラノドンの翼と、小型の恐竜を合体させた恐竜ッスね』


 新しい恐竜はバサバサと翼を羽ばたかせて、誇らしげに吠えます。


『ああいう新種の恐竜は、自分で名前を付けられるッス』

「どんな恐竜でも作れるんですか?」

『生物として成り立ってるなら、出来るッスよ。完成した恐竜はあっちに運ばれるッス』


 奥の部屋の壁が動きました。どうやら壁だと思っていたのは、扉だったようです。


 扉の先には、レプチレス・コーポレーションでは一度も目にしたことがない、青々とした草原が広がっていました。

 

 みつる君はビックリします。


「ええ? あそこって外?」

『へへ、そうみてるッスよね。実は違うんッスよ。空は絵具だし、草に見えるのも、苔ッス。けど、動いてる動物たちは本物ッス』


 リンちゃんは目を大きく見開きます。


「わあ! すごい! 恐竜がいっぱい!」


 風を切って飛ぶのは、巨大な翼を持つケツァルコアトルスと呼ばれる恐竜です。草原でのんびりと歩いているのは、固い皮膚を背中にまとうアンキロサウルスです。


 背中に帆のようなものがある恐竜、スピノサウルスと、巨大な恐竜ギガノトサウルスが互いに歯をむき出しにして喧嘩しています。


 もっと見てみたいと吉人君は身を乗り出しました。しかし、扉はすぐに閉じてしまいます。

 

 吉人君は名残惜しそうに扉を見つめます。


「あそこって、普通の子供では見に行けないんですか」

『行けるッス。入場料はかかるッスよ。一日千円ッス』

「うっ……。まあそれなら……。あ、しかしこの人数で入るとそれなりの額になりますね……」

『おっと。ここで遊ぶ前に、オレッチたちのボスに会ってもらうッスよ』

「あ、……そうですか。それなら仕方ありませんね」


 そう言いながらも、吉人君はひどく残念そうにしています。けれど、さすが大人な吉人君なだけあって、すぐに気持ちを切り替えて、真面目な顔に戻ります。


 そんな吉人君の姿に、劉生君は胸を打たれます。


 自分だったら、絶対にこうはできません。地面にころがり、ギャーギャーと駄々をこねるに違いありません。前にそんなことがありました。『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のライブチケットが取れず、嘆き悲しんでいたときはそうしました。


「……もごご」


 吉人君は自分のように駄々をこねるタイプではありません。それは劉生君も分かっています。それでも、吉人君も自分の好きなものは堂々と貫いてほしいな、と思いました。


「もごごー。もごごー」


 劉生君はヘビと交渉することにしました。逃げることはしないよ! だから、恐竜の公園を見に行きたい! と主張しました。


 しかし、ヘビはふるふると頭を横にふります。


『残念ッスが、それは駄目ッス』


 咲音ちゃんはむうっと唇を尖らせます。


「わたくしたちは逃げませんって」

『別にお前らを信頼してないわけじゃないッスよ。けどッスねえ』


 そのときです。


 恐竜の公園に繋がる扉が、爆風とともに吹き飛びました。


「……え?」「……もご?」


 透明の敷居も破壊されます。


 彼らの目の前には、サイのような恐竜、トリケラトプスが躍りでます。


「……え?」


 トリケラトプスは角で劉生君たちをすくい上げると、ひょいと背中に乗せました。黄色のヘビはキョトンとしてトリケラトプスを見上げます。


『え……? ちょ、ちょ、ちょっと待つッス!!』


 ヘビだけを残し、トリケラトプスは走り出します。


「わああ!!」「なになになに!?」


 リンちゃんとみつる君が慌ててしがみ付きます。他の子も無我夢中で頭のフリル部分を掴みます。


 しかし、ただでさえ橙花ちゃんを背負っていた劉生君は、バランスがうまくとれません。


「う、……わあ!」


 落ちそうになる劉生君。


 伸ばされた彼の手を、誰かが掴みました。


「大丈夫?」


 吉人君でもみつる君でもない、一人の少年は小首を傾げます。


「……え? 君は誰……?」

「質問はあとで答えるよ。さあ、しっかり捕まって」


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