5 レプチレス・コーポレーション見学ツアー
『ではでは、オレッチが愉快で合理的な弊社を紹介してやるッス!』
ヘビは『ついてくるッスー』と間延びした声をあげ、にゅるにゅると進んでいきます。劉生君たちも、ヘビの後をついていきます。
広場で働くトカゲやヘビたち爬虫類は、劉生君たちを一瞥するのみで、特に関わろうとはしませんでした。
その一方で、子供たちは足を止め、口をぽかんと開けてビックリしています。
子供たちのうち一人と視線があい、咲音ちゃんはキョトンとします。
「どうなさいましたか?」
「なあ、そこの背負われてる子ってもしかして、蒼なのか?」
「え?」
咲音ちゃんが質問しようとしますが、それを妨げるように怒声があがります。
『おい!手を休めるな! 仕事に戻れ』
ヘルメットを被ったトカゲがぎろりと睨みつけます。
「すみませんっ!」
「あ、ちょっと、お待ちください」
咲音ちゃんの呼びかけに答えず、子供は仕事に戻ってしまいました。
「行ってしまいました……。でも、あの子、蒼さんのこと覚えていましたね。ですが、魔王に捕まった子たちは記憶を変えられているはずですよね……?」
『えー。そんなことしてないッスよー』
ヘビは少し怒ったようにシューシューと鳴きます。
『レプチレス・コーポレーションは記憶操作の魔法を使ってないッス。そんなことをしなくても、あの契約書があればここから出られないッスからね』
「なるほど」吉人君は冷めた声で言います。「無理やり連れてきて、あんな契約書にサインさせるんですか。詐欺師同然ですね」
『むむっ!』
ヘビは目を瞬かせます。
『何やら勘違いされてるッスね。言っておくッスけど、オレッチの会社は子供を誘拐しないッスよ。契約書に名前を書くかどうかも、ちゃんと子供に聞いてからにしてるッスよ』
リンちゃんは疑いの目を向けます。
「嘘ついてんじゃないわよ。あたしたちのときは違ったじゃない」
『そりゃあ、お前たちはオレッチたちの敵っすからね。扱いも違うッスよ』
「だとしても、あたしには好き好んでこんな場所に来る子がいるとは思えないけど」
『本当に出ていきたかったら、さっさと金を稼いでしまえばいいだけッス。レプチレス・コーポレーションは優秀な子供に給料をたんまりあげてるッスからね。あっという間にたまるッスよ』
ヘビは数あるトロッコの一つに体を滑り込ませます。
『それに、レプチレス・コーポレーションは他とは違う面白さもあるッス。勘違いされたまま社長のところに行くのもあれッスから、案内してやるッス。ほれほれ、後ろのトロッコに乗るッスよー』
ヘビがくるりと後ろを振り向くと、タイミングよく人数分のトロッコがやってきました。子供たちは慎重にトロッコに乗り込みます。
『全員乗ったッスね。それじゃあ、出発しんこーッス!』
がたんごとん、とトロッコが走りだし、暗く細い道を走ります。安定感こそありますが、乗り心地はかなり悪く、体が小刻みに上下します。ずっと乗っていたら、体の節々が痛くなりそうですし、劉生君なんかは気分が悪くなってきました。
「もごご……」
「ちょっと、リューリュー。大丈夫なの」
「もご……」
『酔い止めの薬いるッスか?』
「もごご」
是非ともほしいと訴えると、ヘビはニヤリと笑います。
『ちなみに、一錠五百円ッス』
「も、もごご!?」
劉生君の心のうちをご紹介しましょう。
ご、五百円!?
そんなにお金があったら、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のウエハースが四つも買うことができるよ!?
「……もごご……」
けれど、気分が悪いのも事実です。もらってしまおうかと悩む劉生君ですが、そこであることに気づきました。
「もごっ!」
そもそも劉生君はお金を持ってきていません。なんでも願いが叶う奇跡の国、ミラクルランドで、お金が必要になるとは思っていなかったのです。
劉生君の嘆きと困惑に、ヘビが悪い笑みを漏らします。
『もしお金がないのなら、貸すこともできるッスよ。もちろん、利子も払ってもらうッスよ』
悩む劉生君を、吉人君が止めます。
「ひとまず、借りない方がいいと思いますよ。……そもそも、ここで本当にお金稼げるんですか。借金を増やすだけ増やすつもりではありません?」
『むー……。やっぱり誤解されてるッス……。でもでも、これを見れば考えを変えてくれるッス!』
トロッコがぐるりとコーナーを曲がると、洞窟が二倍三倍も広くなりました。
それだけではありません。天井から壁、床にまで、宝石がマーブル状に点在しています。
線路の脇で、子供たちや爬虫類の動物たちがつるはし、ハンマーで岩を削り、宝石を採掘しています。
劉生君たちのトロッコと並走して、リアカーを引いた子供が通ります。中には、大小さまざまの宝石が積まれています。
『そうだ。あそこも見せるッスか』
ヘビはトロッコを端によせて停車します。
『こっちッスー』
リアカーのあとを追いかけていくと、カンカン、と石を叩く音が聞こえてきました。そちらをのぞくと、子供たちが一人ずつテーブルにつき、宝石を削ったり叩いたりしていました。
どの子も真剣な眼差しで、宝石を見つめています。
『ここは、宝石加工場ッス。できた宝石はここで形を整えるッス』
子供はちらっとヘビを見て、小さくうなずき、宝石を削る作業に戻りました。
ヘビは、その子のそばに置いてあった赤いケースを開きます。するとそこには、宝石店で陳列しているような指輪やピアス、ネックレスが並んでいました。
咲音ちゃんは目を輝かせます。
「わあ、お綺麗ですね!」
みつる君もしげしげと眺めます。
「すごいなあ。一つ十万二十万はいくんじゃないの?」
「もご! もごご!?」
劉生君は度肝を冷やします。こんな小さいのが、そんなお金になるのかと、びっくりしているのです。
『おっとっと。レプチレス・コーポレーションの良さはまだまだあるッスよ?』
作業場の脇に、宝石が散りばめられた美しい扉がありました。ヘビの誘いにのって扉を開くと、美術館のような静かな部屋がありました。
並んでいるのは、ヒスイで出来た子供のサイの像、トルコ石の鍋、サファイヤの剣などなど、宝石で作られた逸品たちでした。
美術に関心のないリンちゃんでさえ、息をのんで宝石を眺めています。
「綺麗ねえ……。これはいくらなの?」
『オレッチもちゃんとした金額は覚えてないッスが、500万はいくのもあるッスよ』
確か、レプチレス・コーポレーションからでるための金額は1000万だったはずです。つまり、二つ作れば、レプチレス・コーポレーションに堂々とでていけるわけです。
『このように、レプチレス・コーポレーションは才能ある子供にはそれ相応の対価を払うんッスよ』
ヘビはぱちりとウインクしました。
『まだまだこんなもんじゃないッスよー! 一度戻るッス』