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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
5章 商売の国、レプチレス・コーポレーション!―君を信じたいから―
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4 レプチレス・コーポレーションからの刺客

 劉生君たちはえっさほらそと子供たちを運びました。


「あと最後に一人ね!」「ですねえ!」「もごご」


 友之助君は額の汗をぬぐい、橙花ちゃんに声をかけました。


「なあ蒼。ちょっと一緒に手伝って、」


 橙花ちゃんの体が、ゆらりと揺れました。


「っ!」


 友之助君は咄嗟に橙花ちゃんを支えます。


「おい、蒼。どうしたんだ? ……おい、蒼!」

「どうしたの!?」


 劉生君たちは友之助君の周りに駈け寄ります。


 彼の腕の中にいる橙花ちゃんは、目を固く閉じ、苦しそうに呻いていました。冷や汗がだらだらと流れ、体が寒そうに震えています。


「僕が回復魔法をかけます! <ギュ=ニュー>!」


 白い光が橙花ちゃんに注ぎます。しかし、よくなるどころか、顔色がさらに悪くなり、痙攣さえしはじめました。


「おい、蒼!?」

『止めた方がいいッスよ。余計悪くなるッス』


 しゅるしゅると劉生君たちの前に現れたのは、黄色の細長い体をした小さなヘビでした。


『どうもー。はじめまして。ヘビでーす。よろしくッスー。おっとっと、そこのお姉ちゃん』


 攻撃態勢を整えていたリンちゃんに顔を向けます。


『オレッチを倒しても意味ないッスよー。時計塔ノ君にかけた呪いは、オレッチには解けないッスから』

「呪い……!」


 友之助君はヘビを睨み怒鳴ります。


「どういうことだ! 呪いってなんだよ!」

『呪いは呪いッス。えー、ではでは、我らが社長様のお言葉を伝えましょうか』


 ヘビはシューシューと楽しそうに声を出します。


『えー、ワレはレプチレス・コーポレーションの代表取締役社長ー、レプチレスであるー。ワレは時計塔ノ君一行に宣戦布告をする次第であるー。時計塔ノ君一行はさっさとわが社に来るのであるー。来なければ、時計塔ノ君は呪いに蝕むことだろー。以上!』

「せんせん、ふこく……」


 あんなに強い橙花ちゃんが、たった一噛みでやられてしまったのです。宣戦布告という言葉がそもそもの意味以上に恐ろしく、重く感じます。


 ヘビは、にやりと笑います。


『ではでは、さっそく来てくれますッス? もちろん、そこの時計塔ノ君も一緒にね』


 劉生君たちは互いに顔を見合わせます。リンちゃんなんかは歯ぎしりして怒っています。しかし、残された道はありません。


 重い沈黙が場を支配する中、一人の子供が声をあげました。


「俺も一緒に行く!」


 友之助君は必死に主張します。


「レプチレス・コーポレーションのことはいまいち分からねえけど、劉生たちよりは知ってるから!」


 しかし、黄色のヘビは首を横に振ります。


『用があるのは時計塔ノ君御一行だけッスよ。君はお呼びじゃないッスー』

「……けどっ!」


 食って掛かる友之助君を、聖菜ちゃんが止めます。


「……落ち着いて。……蒼ちゃん、人質になってる。……だから、下手なことしちゃいけない」

『そこの子供はよく分かってるようッスねえ』


 ヘビはニタニタ笑います。


『そういうわけッスから、大人しくムラに引きこもってるッスよ』

「……」


 友之助君は悲しそうに、能力のない自分に怒りを覚えて黙り込みます。きつく手を握りしめる友之助君の手を、劉生君が握りしめます。


「もがが」

「……劉生」

「もが! ががもが! もがが! もががが、ががが!」

「……何言ってるか分かんねえけど、慰めてくれてんだよな」

「もが!」

「……」


 友之助君は劉生君を、みんなのことを見ます。


「お前ら、頼む。蒼を助けてやってくれ」


 リンちゃんは元気よく頷き、腕をぐるんぐるん廻します。


「もちのろん! こんな卑怯なことしてくる魔王なんて、あたしがねじり倒してやるわ!」

「ただ、何もなく敵地に行くのは不安ですね」吉人君は眼鏡をくいっとあげます。


「レプチレス・コーポレーションでしたっけ。その場所について、教えてくれませんか」

「わかった。あそこはな」


 友之助君が話し出す前に、ヘビが口を出してきます。


『そー悠長にしてる暇あるんッスか? あんまりうだうだしてると、オレッチたちの社長がうっかり時計塔ノ君を呪い殺してしまうッスよ』

「……なるほど。あまり情報を仕入れさせたくないと」

『はっきりいってしまうと、そうッスね』


 友之助君はヘビを睨みます。


「……ほんと、レプチレスんとこの魔王は性格が悪い。……んじゃ、一つだけ伝えとく。レプチレス・コーポレーションに山崎李火って奴がいるはずだ。そいつを頼ってみるといい」

「その子は、どういう子で」

『お話はそれまでッス』


 ヘビは冷たく言い放ちます。


『そろそろ黙った方がいいんじゃないッスか? それができないのなら、……有言実行するだけッスよ?』

「……」


 それ以上、話を聞くことはできそうにもありませんでした。黙る子供たちを、ヘビは満足そうに眺めます。


『ではでは、オレッチについてくるッス』


 こうして彼らは、頼りの橙花ちゃんがいない中で、五人だけで敵地に向かうことになったのでした。


〇〇〇


 草をかき分け、砂漠のような砂場を歩きます。不思議と疲れは感じませんでした。橙花ちゃんを背負って歩く劉生君でさえ、汗の一つも流しません。


 しかし、歓談するような空気でもありません。


 黙々と歩いていると、ごつごつとした岩山に出てきました。二つ三つの大きな岩を乗り越えると、クジラの口くらいに大きな穴の前にたどり着きます。


『この中に入るッスよー』


 洞窟に入ると、気味の悪い、ひやりとした空気が体にまとわりつきました。足音は不気味に反響し、お互いの心臓の音さえも聞こえてくるような静けさが満ちています。


 無言のまま、歩いて、歩いて、歩いて。


 分かれ道を右に行って、左に行って、真っすぐ行って。


 入り組んだ道を通っていくと、行き止まりになりました。


「なによ、まちがえたの?」


 リンちゃんが喧嘩腰で言いますが、黄色のヘビはシューシューと楽しそうに鳴きます。


『いやいや、ここがレプチレス・コーポレーションの入口ッス。入るには、こちらの書類にサインをお願いするッス』


 人数分のプリントを手渡されました。不思議に思いながらサインをする子供たちですが、吉人君だけは書きません。


『書かないんッスか?』

「……僕の親は税理士の仕事をしているんです。ですから、訳の分からない書類に名前を書くなと教えられているんです。……これはどういう書類ですか」

『ああ。裏をみるッス』


 吉人君を含め子供たちはぺらりと髪を裏返します。


 みつる君は読み上げます。


「えーっと、『私は契約書に基づき、レプチレス・コーポレーションで勤労することを誓います』。……勤労?」


 みつる君は嫌な予感がして、慌てて契約書とやらを目を通します。


「原則、レプチレスの敷地に留まることを誓います。この契約書を破棄する際には、一千万円の慰謝料を支払うことを誓います……!?」

「い、いっせんまん!?」


 リンちゃんは悲鳴をあげます。日々、何百、何千円の単位でしか生活したことのない子供たちにとっては、途方もない金額でした。


 大金持ちの咲音ちゃんでさえ、びっくり仰天しています。


「お家のグランドピアノくらいの金額ですわ!」

「ピアノってそんな高いの!?」

 

 また別のベクトルでリンちゃんがビックリしています。


「もごごごご……」


 劉生君はしばし考えました。


 一千万円。


 それだけのお金があったら、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のフィギュアをコンプリートできるかもしれません。


 もしかしたら、関連グッズを網羅できるかもしれません。


「もごもごもご……」


 劉生君の夢は広がります。


 あまりの金額に子供たちは混乱していましたが、さすがに吉人君は真面目でした。紙とペンをヘビに返します。


「なら、この契約書は書きません」

『ふっふっふ。そうはいかないんッスよ』


 ヘビは紙を受け取らず、逆に遠ざかります。


『契約書を書かなければ、レプチレス・コーポレーションには入れないッスよ。なんなら引き返すッスか? それならそれでいいッスが、そこの時計塔ノ君は危ないんじゃないんッスか?』

「……っ」

『それに、他の子供たちは書いてしまっているッス。一度書いたら、取り消すことはできないッス』

「そうなの!?」「もごご!」


 咲音ちゃんが消しゴムで消してみようとしましたが、字は消えませんし、薄くもなりません。


『一人だけ書かないってのなら無理強いはしないッスけどね。社長はどう考えるッスかねえ?』

「……」


 吉人君は唇をかみしめ、ヘビを睨みます。しかし、どんなに睨んでもヘビは悠々ととぐろを巻いています。


「……分かりました」


 吉人君は渋々ペンをとり、自分の名前を記入しました。


『よし、それでオッケー! じゃじゃ、開けるッスよー。えーい、開け、ゴマ!』


 ヘビは尻尾で壁を叩きます。叩いた場所から蜘蛛の巣状にヒビが入っていきます。石の上を走る線は太く細かく走り、


 木っ端みじんに爆発しました。


 粉塵が辺りに散らばり、劉生君以外の子がせき込みました。劉生君はガムテープのおかげで砂を吸い込みはしませんでしたが、目にゴミが入ってしまいます。


「もごご……」


 パチパチと瞬きをして目をこすると、どうにかこうにかゴミが目から出て行ってくれました。よかった、と思い顔をあげ、


「もご……!」


 劉生君は目をまん丸にさせて驚きました。


 壁の向こうには、端が見えないほど広く巨大な空間が広がっていました。


 地面には何本ものレールが引いています。子供を乗せたトロッコがレールの上を走り、小さな洞穴へと向かって行きます。


 レールがない箇所には、なん十体もの動物の像が立っています。ただの銅像以外にも、岩塩で出来た像、水晶で出来た像、鉄で出来た像などなど、たくさん並んであります。ただし、どれもトロッコに乗る子供たちを監視しているかのように睨んでいます。


 動物の像の間をすり抜けているのは、爬虫類の動物たちです。様々な色や形、大きさのヘビやトカゲが書類をチェックし、子供たちに指示を出していました。


 壁にはアメジストやクリスタル水晶の結晶が淡く輝き、天井には宝石があしらわれたシャンデリアが光り輝き、太陽の光の代わりをしています。


 ヘビは誇らしげに言います。 


『ここがオレッチたちの国、レプチレス・コーポレーションッス!』

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