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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
5章 商売の国、レプチレス・コーポレーション!―君を信じたいから―
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1 男だって、はしゃぎたい! いざ男子会!!

 赤野劉生君は激怒した。劉生君はあまり怒るタイプの子ではない。彼の大好きなドラマ『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』関連の話以外ではそこまで怒らない。


 しかし、彼は怒った。なぜなら、


「僕らだけ仲間外れにしちゃ駄目なんだからね!!!!!」


 仲間外れにされたからである。


「だーかーら、何度言わせるのよ」

 

 活発な女の子、道ノ崎リンちゃんは、頬を膨らませてプンプン怒ります。


「男子組の予定がつかないから、あたしとサッちゃんでミラクルランドに行って、蒼ちゃんと女子会するってだけじゃない」

「僕も行きたい!」

「リューリューはその日歯医者でしょ」

「行きたい! 僕も女子会行きたい!」

「歯医者いきなさい。虫歯っぽい歯があるんでしょ?」

「ないもん!!」

「あるでしょーが。そんじゃ、あたし今からクラブだから行ってくるわ」


 めんどくさそうに話を切り上げ、リンちゃんはさっさと行ってしまいました。


「ぐぬぬ……! 僕も行きたかった!!」


 憤る劉生君を、咲音ちゃんが宥めてくれます。


「劉生さん、大丈夫ですよ! 虫歯はすぐ抜いてしまえば痛くありません!」

「咲音っち、そっちをフォローするの……?」


 咲音ちゃんが間違ったフォローをしてしまったからでしょうか。劉生君はぎゃんぎゃん喚きます。


「なら、僕らは男子会する!! 吉人君、みつる君! 男子会しよ!!!」

「え? 男子会……?」

「明日しよ! 明日! 吉人君は参加できる?!」

「まあ、できますが……。林君はどうなんですか?」

「あー」みつる君は気まずそうにします。「俺、ちょっと用事が……。家の手伝いしないといけないから」


 咲音ちゃんはのほほんと微笑みます。


「そういえばそうですねえ。明日は夜まで営業ですもんね」

「そうなんだよ」


 みつる君はしんどそうに肩を下ろします。一方、劉生君はキョトンとします。


「夜まで? 何するの? お菓子パーティー?」

「そんな楽しいことはしないよ」みつる君はくすりと笑います。


「俺んち、定食屋なんだ。っていっても、家族経営でこじんまりしたお店だから、俺も手伝ってるんだ」

「へえー、そうなんだ。じゃあ、そこで男子会しよ!」

「ええ!!」


 劉生君の突然の思い付きに、みつる君はびっくり。吉人君は呆れてしまっています。


 それから何を言っても、「僕はみつる君のお家で男子会するんだ!」と言い張り、頑として譲りませんでした。


 あまりパッとしない店だよ、とみつる君が説得してましたが、段々と諦めてしまいました。


 ちなみに、吉人君は劉生君を説得しようとはしませんでした。劉生君はこうと決めたらてこでも動かない子だと経験上理解していたからです。


「うー、分かった。それじゃあ、放課後においでよ。その時間帯なら人もいないから」

「やったー!」

「では、お邪魔しますね」


 そういうわけで、翌日にはみつる君の家で男子会をすることになりました。


〇〇〇


 翌日の午後四時。駅前の商店街には買い物客であふれていました。


 しかし、いつもはいる学生さんは全くいません。ひとっこ一人いません。


 例の奇病、眠り病の影響です。


 患者数こそ増えなくなりましたが、完治する子が一人も出てこない現在、子供の親や先生は警戒し、あまり外出しないようにと指導しているのです。


 けれど、劉生君たちはミラクルランド以外の場所なら、外出してもいいと知っていますので、親を適当にはぐらかしつつ、商店街の一角にある定食屋さん『はらばら亭』に訪れていました。


 お昼はまずまず、夜は賑やかで喧しい店内ですが、この微妙な時間帯には常連さんしかおらず、みつる君のお父さんお母さんだけで回せそうでした。


 ですので、みつる君はお店の前で劉生君と吉人君を待っていました。

 

 迷子になってないかなあと不安になりながらキョロキョロしていると、ようやく二人が来てくれました。


 吉人君はきっちりびっしり、ブランド服を身にまとっていました。さすがお金持ちのお坊ちゃんです。


 そして劉生君は……。


「……あ、あのー、赤野っち? どうしてパジャマなの?」


 ダボっとしたパジャマを着ていました。『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のイラストが描かれています。


 劉生君はふふんと胸を張り上げてニコニコしています。


「僕ね、お母さんに聞いてみたの! 女子会ってどんな服着るのー? って! そしたらね、女子会はパジャマで参加するもんなんだー! って言ってた! だから着てきたの!」

「……」


 どうして劉生君のお母さんは「家の中で女子会するときはパジャマを着る」と言ってくれなかったのでしょうか。


 そのせいで、通行人たちは「どうしてあの子パジャマなのかしら」とこそこそ呟いていますし、吉人君は死んだような眼をしてしまっています。


「林君。何を言っても無駄ですよ。無駄でしたから」

「あ、ああ……。そう、なんだ……」


 言いたかった言葉を飲み込んで、(あまりにも見た目がよろしくないので上着を羽織らせてから)お店に案内します。


「ここが俺んちのお店だよー」

「おじゃましまーす」「おじゃまします……。で、あってるんですかね……?」


 お店の中はカウンター席が五・六席、四人掛けのテーブル席が十個の、そこそこな広さのお店でした。今はお客さんが二人しかおらず、カウンターに若い眼鏡にマスクの青年が一人と、テーブル席にお酒をがぶがぶ飲んで真っ赤になっている中年の男の人が一人います。


 カウンター席のすぐそばに小さな厨房があり、そこにみつる君のお父さんお母さんが調理をしていました。


「おー。みつるのお友達さんかあ。いらっしゃい!」「あらあら、どうも!」


 さすが親子。みつる君がそのまま成長したような見た目をしています。三人がテーブル席に座ると、みつる君のお母さんがお水を出してくれました。


「この時間だから、甘いものでもどう?」

「甘いもの……!」


 吉人君の目が輝きます。


「そうですねえ。何にしましょうか。パンケーキ、パフェ、プリン、ケーキ……! どれもおいしそうです!」

「あらあら、甘いものが好きなの?」

「ええ! とても!」


 劉生君は壁にペタペタ貼ってあった手書きのメニュー表をじっと見つめます。


「うーん。僕はお芋さんかな。焼きいも!」

「あら、渋いわね!」


 吉人君も悩みに悩み、チョコレートパフェにしました。みつる君は杏仁豆腐を頼みます。みつる君のお母さんは注文票にメモをします。酔っ払いの男の人をちらりと一瞥してから、カウンター席に座る若い男の人の注文も聞きに行きました。


 料理を待つ間、劉生君はるんるんで女子会あるあるをぶっこみます。


「二人とも! 恋してる!? コイバナしよ!」

「ええ!? 親の前でコイバナ!?」


 どんな罰ゲームでしょうか。


 お父さん母さんは興味なさげにしていますが、耳だけは大きくさせています。そのくらいはみつる君も分かっていますから、ぶんぶんと首を横に振ります。


「俺ないよ。全くないよ! 鐘沢っちはどう?」

「いや、僕もないです。ないですって。……それこそ赤野君はどうですか?」


 吉人君は意表返しとばかりに、意地悪そうに笑います。


「道ノ崎さんとの恋路は進みました?」


 劉生君はキョトンとします。


「こいじ……。こいじ? コイさん?」

「魚ではありません。ラブの方です」

「こい……? リンちゃんと? でも、リンちゃんとラブラブなのって、みつる君じゃないの?」

「ええ!?」


 あまりにびっくりして、声が裏返ります。なんならみつる君の親御さんもびっくりしました。びっくりして、ラーメンの水切り用のザルを落としてしまいました。


「いやいやいやいや、どうしてそうなるの!?」

「だって、この前いい感じだったし」

「どのとき!? そんなときあった!?」

「一緒にお料理作ってた時だよ! こうね、腕と腕が触れあって、抱きしめあう的なこと会ったような気がする!」


 ガタガタっと音がしました。どうやらみつる君のお母さんが調味料入れをひっくり返してしまったようです。「あらあらごめんなさい!」と言いながら、あたふたと片付けます。


「もしかして、料理クラブのとき? 腕と腕は触れ合ったかもしれないけど、抱きしめあってないよ。絶対ない。そんな記憶ない」

「魔王に消されたのかも!」

「そんなピンポイントで!?」


 魔王云々の話題には、さすがのお母さんお父さんも反応しません。ゲームの話か何かと思っているのでしょう。


 実際にみつる君たちが異世界で恐ろしい魔物たちとドンパチやっていると知ったら、煮込んだカレーをひっくり返し、床の上で気絶すること間違いなしです。


 みつる君が必死に否定していると、助け船のつもりだったのでしょうか、吉人君がフォローをしました。


「それとも、実は道ノ崎さんよりも蒼さんの方が好き、とかです?」

「?? 僕は二人とも好きだよー。吉人君もみつる君も好きだし、友之助君もみおちゃんも聖菜ちゃんも大好きだよ!」

「……そういう好きではないんですよ」


 吉人君は何とも言えない、微妙な表情になりました。


「赤野君は本当に恋心っていうものを分かっていないんでしょうねえ」


 みつる君もうんうんと頷きます。けれど、劉生君はむうっと唇を尖らせます。


「そんなことないよ。分かってるもん。お父さんが言ってたよ。『恋ってのはな、お互い信頼しあって、それで芽生えるものなんだ』って! 僕はリンちゃんたちみんなを信じてるから……あれ!? 僕ってみんなに恋してるの!?」

「絶対分かってないですよ、赤野君」


 吉人君とみつる君は呆れました。そんなときです。


「全く、最近のガキは色恋で盛り上がんのか? おーおー、ませてんねえ!」


 ゆでだこになった顔に、とろんとした目をした男の人が絡んできました。突然入ってきた知らない人に劉生君がかたまり、吉人君が戸惑っていると、慌ててみつる君が立ち上がります。


「先生さん、ちょっと飲みすぎですよ。お母さん、水! 先生さんに水!」

「なんじゃわれ! 酒のませんかい酒!」

「いやいや、もう飲むの止めた方がいいですって。これで何本目ですか」

「へっ、お堅いこと言って。そんなんだから、クラスの中で孤立すんだぞー?」

「っ……」


 みつる君は息をのみます。


「お? 図星か? あはは、すまんな! 酒の席だから許してくれな! はははっ!」

「……」


 みつる君は黙り込んでしまいます。唇をぎゅっと噛んで手を握りしめ、悲しそうにうつむいています。


 もうやめればいいのに、先生さんと呼ばれた男の人は相も変わらず絡んでいます。吉人君が助けを求めて厨房の方を見ますが、奥の方にいってしまったようで、二人ともいませんでした。


 みつる君のご両親を呼びに行かなければと、吉人君は席から立ち上がりました。しかしその前に、劉生君が立ち上がりました。


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