26 魔神、来たる!? 圧倒的な力!
ソレは駆けだすと、橙花ちゃんに切りかかります。
「……っ!」
杖で受け止めますが、あまりに重い攻撃にたじろぎます。
「このっ! 時よ、<モドレ>!」
咲音ちゃんの犬を召喚して、ソレに噛みつきます。しかし、魔神によって一刀両断されてしまいます。
魔神はニマニマと笑います。
「なんだ、その程度か? 思ったよりも弱いな。残念だが、お前のお遊戯はここまでだ」
魔神は、無表情になります。
「バイバイ、蒼。永遠に」
剣を振り、橙花ちゃんに切りかかりました。
しかし、橙花ちゃんはその刃に触れませんでした。
『<暴風>!』
立っているのもやっとな風が魔神を襲います。魔神は一歩も足を踏み出すことはできません。
「……これは……」
橙花ちゃんの前には、大きな鳥、魔王トトリが立っていました。彼女は魔神を睨みつけます。魔神は忌々しげに舌打ちをします。
「お前、俺の味方だろ? 邪魔するな」
『黙れ、諸刃ノ君』
トトリは低く呻り、羽を逆立てます。
『お前はウチたちが封印したはず。どうしてその子供の中にいたんだ』
「……封印?」橙花ちゃんは眉間にしわを寄せます。
魔神から目をそらさず、トトリは説明してくれました。
『あいつは力こそ強いが、この世界の破壊しか考えていない。だから、ウチたちが封印したんだ。一部はウチたち王の体に、一部はミラクルランドの最奥部にね』
「そうだったんだ……」
魔神がある一時しか出てこなかったのは、そういうことだったのかと、橙花ちゃんが納得している間にも、トトリは鋭く魔神を追求します。
『ウチたちは二度と出てこない様に細工をしていたはずだが、どうしてその子の身体を乗っ取っている?』
魔神は鼻で笑います
「この赤野劉生ってガキが王様たちを倒してくれたからと、お前が赤野劉生の記憶を消してくれたからな。おかげでこいつの奥底に眠ってた俺が目を覚ませた。感謝してるぞ」
『……そうじゃない。聞きたいのはそっちじゃない』
魔王トトリは険しい表用になります。
『どうしてその子供の中に潜り込んだ』
「あー、そっち? そうだなあ。特に説明するほどのこともないが、強いて言うなら、馬鹿だからだな。間抜けな奴ほど隙が多い」
魔神は冷めた目でトトリを見ます。
「それで満足か? だったら黙っててもらう」
魔神は剣に力を込めます。すると、どす黒いオーラが剣をまといはじめました。触れただけで呪いの傷をうけてしまうような、恐ろしさがあります。
『……』
魔王をにらみつつ、トトリは橙花ちゃんに声をかけます。
『蒼。……あとは、君次第だ』
「……え?」
橙花ちゃんが尋ねる前に、トトリは羽を羽ばたかせて、切り裂くように叫びます。
『<波浪>、解除!』
「っ!」
魔神の体が、劉生君の体がぴたりと固まりました。彼の顔に、初めて愉悦と無表情以外の感情が浮かびます。困惑です。
「……これは……。まさかっ!」
怒り狂った目で、トトリを睨みます。
「貴様……!!」
魔神は剣を一振りします。衝撃波がトトリを襲い、バッサリと翼が避けます。苦しげなうめき声を飲み込み、トトリは叫びます。
『蒼っ! 赤野劉生から奪っていた記憶を戻したっ! だが、完全に戻るまでに時間がかかる。それまでどうにか』
次の瞬間、
トトリの胸から血が吹き出しました。彼女の胸には、赤い剣が深々と突き刺さっていました。
『黙ってろ、鳥』
魔神はトトリを蹴り飛ばしました。
力なく倒れるトトリ。彼女の体は、段々と赤い光の粒になっていきます。
橙花ちゃんはトトリに駆け寄り、信じられないとばかりに見下ろします。
「……トトリ……。どうして」
『勘違いしないで欲しい。ウチは蒼の敵だよ。でも、こいつの味方になるくらいなら、これくらいの助力はしただけ』
トトリは、微笑みます。
『次会うときは、覚悟してね』
それだけ言うと、彼女はチリとなり消えてしまいました。
「……トトリ……」
感慨にふける時間はありませんでした。
魔神の攻撃は、橙花ちゃんに向かっていたのです。
寸前のところで躱すと、魔神は舌打ちをします。
『ちっ、面倒なことを。……仕方ない。本当はもっと遊んでバラシてやりたかったが、すぐに終わらせてやろう』
彼の眼が赤く光ります。
「……劉生君。……頼む。早く思い出してくれ」
橙花ちゃんは一筋の願いを胸に、杖を構えました。