表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
4章 音楽の大樹、トリドリツリー!―どんな思い出も、大切だから―
114/297

25 願いの力! 橙花ちゃんの強さ!

『みんな、止め』


 トトリの指示に、みんなの攻撃がピタリと止みます。魔王はゆっくり、ゆっくりと橙花ちゃんのすぐそばまで近づいてきます。


『実はね、他の王たちの間で、君を捕らえた後どうするか意見が分かれていたんだ』


 お菓子の国の王リオンは、彼女の死を要求しました。


 地底の国王は、他の子よりも強い魔力を持つ彼女を、何らかの実験体に使おうと提案。


 コロシアムの王は、彼女を永遠と闘わせようと提案しました。


 一方で、遊園地の王ギョエイは、過激な王たちに大反対し、彼女を単に捕らえるだけにすべきと声高に主張しました。


『ウチはね、どちらかというとギョエイに賛成かな。君に危害を加えたくはない。だけど、そのまま何もせずに放置はできない。だからね、ウチは蒼の記憶を奪うよ。書き換える。そしたら、蒼も抵抗できないからね』


 灰色の羽を彼女にかざします。


『今までは蒼の力が強すぎて記憶をいじれなかったけど、ここまで弱らせたら出来そうだね。それじゃあ、いくよ?』

「……」


 橙花ちゃんは下の階に待たせている聖菜ちゃんのことを、ムラで待っている友之助君やみおちゃんのことを、リンちゃんや吉人君、咲音ちゃんやみつる君、そして劉生君のことを思います。


 今、自分がやられたら、みんなが魔王のなすがままになってしまいます。


 そしたら、みんなはどうなる?


 記憶を奪われ、かりそめの記憶を刷り込まれてしまい、魔王の手のうちにおさまってしまうことでしょう。


 もしかしたら、橙花ちゃんが想定する最悪な結果に至る可能性すらあります。


「……」


 自分が力を得たのは、子供たちを守るためでした。


 せめてミラクルランドの子供だけは、橙花ちゃんの目の前で苦しむ子どもだけは、救いたい。救い続けたい。


 それだけが、彼女の願いでした。


 その願いを壊されるのは、


 絶対に。


 許さない。


 許しては、いけない。


 トリドリツリーからはるかに離れた、ムラにて、時計塔が青く美しく輝きました。それに呼応するように、橙花ちゃんの右角が青く美しく輝きました。


 力はどんどんと膨れ上がります。


『っ!』


 魔王が動く前に、橙花ちゃんの力が爆発しました。空に投げ出されそうになりましたが、魔法を使ってギリギリ耐え抜きます。

 

 しかし、態勢を整えるまもなく、橙花ちゃんが杖を振ります。


「時よ、<ススメ>っ!」


 ものすごい勢いの風がトトリに襲い掛かります。目も開けられなければ、翼さえも広げられません。身動きが取れぬまま、橙花ちゃんが突っ込んできます。


「時よ、<モドレ>っ!」


 どこからともなく、電撃が走ります。さきほどリンちゃんが使った魔法を呼び出し、ぶつけます。


 こちらも魔法ではじきますが、威力がどうにも強く、防ぎきれませんでした。


『……なに、この力は……!』


 橙花ちゃんの技、<モドレ>は、その場にあるものを元に戻すことしかできないはずです。しかし彼女は過去にあったものを呼び出したのです。


 <ススメ>も、ここまで強力なものではないはずです。それに、子供たちは気絶させるだけで手加減をし、トトリにだけはこれほどの威力の魔法をぶつけてきたのです。


 いつもの彼女の力では、ここまで器用なことはできないはずです。


 橙花ちゃんはゆっくりと、足を進めます。


 傷だらけの体は、動くことさえもままならず、普通なら気絶してしまっていることでしょう。


 ですが、彼女は動いていました。


 いえ、動いていない。動かされているようでした。


 右側だけに輝く角は病的なまでに美しく、瞳も真っ青に光り輝いていました。


「さあ。なんだろうね。でもそうだな」


 橙花ちゃんは、笑います。

 

 狂ったように、

 

 いとおしそうに、


 猟奇的に。


「……ああ」


 彼女は、笑います。


「最高に、気分が悪い」


 あまりにも強大な願いに、あまりにも強大な魔力に、橙花ちゃんは理性を失っていました


 今の彼女は、蒼井橙花の願いを叶えるだけの操り人形となり果てていました。


『……このままでは、あの子が壊れてしまう』


 トトリは低く呟きます。


 自分がやられるのは最早どうでもいいことです。どうせ自分はミラクルランドの住民。多少時間がたてば、どこからともなく復活する存在です。


 しかし、彼女はたった一人だけです。命を失えば、どうなってしまうか分かりません。


 だからといって、今の彼女を倒すことはできません。


 彼女と立ち向かえるのは、たった一人だけ。


『本当は使いたくなかったが、仕方ない』


 トトリは劉生君のそばにいくと、魔法をかけます。


『動け、子供。君の力なら蒼を止められる』


 ゆらりと、劉生君が立ち上がります。


 技を出そうとした橙花ちゃんも、これには動きを止めます。


『よし、操れたか。さあ行け!』


 劉生君は『ドラゴンソード』を握りしめると、


 魔王トトリに向かって、突き刺しました。


『……え?』


 トトリは真っ赤な血をしたたらせ、地面に倒れます。


 彼は、高笑いします。


「ああ、すまなかった。あまりに煩くて切り捨ててしまった。だがまあ、安心しろ。お前の目的は俺が成し遂げてやろう」


 さすがのこの異常事態に、橙花ちゃんは理性を取り戻しました。


「……劉生、君……? ……いや、違うな」


 橙花ちゃんはソレを睨みつけます。


「……お前は誰だ」

「さて、誰だろうか。赤野劉生に乗り移った悪霊か、それとも赤野劉生の悪意が生みだした化け物か。蒼はどっちがいい? どっちの方がお前を傷つけられる?」


 赤い瞳は爛々と輝き、口元は愉悦そうに歪みます。


 どうみても、劉生君とは別の存在でした。


「……質問に答えろ。お前は何者だ」

「そうだなあ。魔王連中は、諸刃ノ君、赤ノ君って呼んでた気がするな。別の言い方をすれば、」


 それは、にんまりと笑います。


「魔神、かな?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ