表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
4章 音楽の大樹、トリドリツリー!―どんな思い出も、大切だから―
113/297

24 VS魔王トトリ! 『人形』との戦い!

 橙花ちゃんは周囲に注意を払いながら、慎重に虹の階段を上ります。


 ここまでの道中、魔王トトリは何も仕掛けてはきませんでした。めんどくさがり屋の彼女のことですから不思議ではありませんが、警戒はしておいて損はありません。


 ドレミ


 ファソ


 ラシド


 階段をのぼります。


 最後の階段は長く、にもかかわらず疲れを感じません。それでも言葉を交わす気力がどうもわかず、足音がわりのピアノの音だけが響きます。


 これも、魔王トトリの魔法が影響しているのでしょうか。橙花ちゃんがそう考えていると、ようやく階段の終わりにたどり着きました。


 たどり着いた場所、最上層は簡素な場所でした。


 丸太の床、青い空。


 それだけしかありません。


 広さはそれほどなく、一周一キロ程度です。橙花ちゃんは丸太の端から端まで見渡します。人影もなく、なんなら魔王トトリの姿もありません。


 あたりを見渡していると、突然、ばたりと音がしました。


 そちらを向くと、劉生君が倒れていました。


「劉生君!? 大丈夫かい!?」


 ゆすってみても、起きる気配はありません。気絶してしまっています。


 まさか、トトリに襲われたか。


 橙花ちゃんはリンちゃんたちに警告をしようと顔をあげます。


 そのときです。

 

「……っ!」


 橙花ちゃんは殺気を感じ、飛びのきました。途端、稲妻が走り、橙花ちゃんがいた場所が焼け焦げました。


 攻撃を仕掛けた方をにらみ、


「……え?」


 固まりました。


 そこにいたのは、橙花ちゃんの友達、道ノ崎リンちゃんでした。


 もしかしたら、彼女のすぐ後ろから誰か攻撃をしたのかもしれない。橙花ちゃんはそう予想してみましたが、リンちゃんの背後には誰もいませんでしたし、何なら彼女の足に静電気がバチバチとはじけていました。


「り、リンちゃん? ……どうして……?」


 真意を問おうと、リンちゃんと視線を合わせます。


 彼女は橙花ちゃんの目を見返します。


 その瞳はうつろで、理性の光がありません。


 リンちゃんの隣で、みつる君がフライパンを振り、餅を投げつけてきました。橙花ちゃんは瞬時に避けます。彼の目にも、橙花ちゃんは映っていません。


「……まさか、」


 橙花ちゃんはどこかで見ているであろう、お姫様に向かって鋭く叫びます。


「お前の仕業か! トトリ!」

『ん、気づいた?』


 子供たちの背後から、一羽の鳥が出てきました。


 クジャク模様のマントを身にまとい、優美に歩きます。彼女、魔王トトリはまるで友達にほめられたかのように、嬉しそうに目を細めます。


『なあ、蒼。ウチはね、できれば君と戦いたくないんだ。戦うと疲れるし、めんどくさいし。だからさ、ウチの代わりに、君のお仲間さんと戦ってよ』

「あの子たちに何をした!」

『蒼。そんなに怒らないで。たいしたことはしていない。記憶を少しだけ変えただけ』


 みんなの記憶を操作し、自分たちの仲間は魔王トトリであること、トトリの命令に忠実に従うべきだと刷り込ませたのです。


 今やリンちゃんたちは操り人形。卵から孵ったヒナのように従順です。


『いやあ、蒼に気づかれないようにするのは大変だったな。勘付かれない様に、魔力が入り乱れる層と層の間、虹の階段で記憶を少しずつ奪っていたんだ。頭いいでしょ?』


 トトリは劉生君を一瞥します。その視線はおそろしいほど冷たいものでした。


『本当はこの子供もウチの操り人形にしたかったけど、うまくいかなかったね。魔法は成功したはずなんだけど。まあ、いいや。あんまりこの子の魔力好きじゃないし』


 彼女は囁くように、子供たちに命じます。


『さあ。みんな。蒼を頑張って倒してね』


 リンちゃんや吉人君、みつる君や咲音ちゃんは、橙花ちゃんに襲い掛かってきました。


「待ってみんな! 正気に戻って!」


 橙花ちゃんは時を止めつつ必死に説得をします。けれど、橙花ちゃんの言葉は彼らの耳には届きません。


 どうにか伝わってほしいと声を張り上げていましたが、そのうちそんな余裕さえもなくなりました。


 吉人君は後ろでちまちまと麻痺の粉をまき散らしてきますし、それから逃れようとしても、みつる君の餅が邪魔をして足を取られてしまいます。


 咲音ちゃんが犬や猫を召喚して引っかいたりかみついてきたりしてくる上に、そちらを処理していると今度はリンちゃんが電気をまとった脚で殴りつけてきます。


 いつもよりも強力で、技名すら言ってくれませんので、避けるのがやっとでした。


 それでも、考えず攻撃しているからでしょうか。彼ら彼女らは隙だらけで、そこさえつけば一気に形勢逆転できそうです。

 

 ……しかし、橙花ちゃんにはできません。


 友達を傷つけることはできないのです。


 せいぜいできるのは、みんなの動きを止めることだけです。それも、すぐに解除されてしまいますし、魔力だってどんどんなくなっていきます。


 咲音ちゃんが召喚したクマに投げ飛ばされ、吉人君の葉っぱ攻撃で全身が傷だらけになって、リンちゃんに腹を蹴られ、橙花ちゃんは血反吐を吐きます。


「があっ!」


 手先に力が入らなくなります。魔法も体力も尽きてきたのです。杖も落としてしまいました。


『……そろそろ潮時かな』


 トトリは低く呟きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ