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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
4章 音楽の大樹、トリドリツリー!―どんな思い出も、大切だから―
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19 心を込めて、歌ってみよう! 三層ラシド!

最後の層ラシドは、他の層とは違い、いたるところに楽器が実っているわけではありません。目につく楽器は枝につるされた鐘くらいでしょうか。


 鳥たちも楽器を弾く子はおらず、そのかわりに楽しそうに歌を唄っています。


 聖菜ちゃんは鳥たちを眺めて、心地よさそうに目を細めます。


「……ラシドの鳥たち、歌が好き。ラシドの三羽烏も、歌が好き。ここより上にいくなら、歌を歌うの」

「歌かあ」


 リンちゃんは、ちらりと劉生君を見ます。


「それなら、リューリューが歌えばいいかもね。よく分からないけど、トリドリツリーの魔物はリューリューの歌が好きみたいだし」

「うん! 僕頑張るよ!」


 劉生君がやる気満々な一方で、咲音ちゃんの表情が少し陰りました。みつる君はそれに気づきましたが、うまく声をかけることができず、口をつぐみます。


 橙花ちゃんも咲音ちゃんの落ち込みに気づいてはいましたが、下手に声をかけるよりは気を紛らわせようと思ったのでしょう。聖菜ちゃんに、「ここの三羽烏ってどこにいるのか知ってる?」と聞いてみました。


 聖菜ちゃんはこくりと頷き、案内してくれました。


 最後の層ですし、鳥たちが襲ってくるとか、とんでもない障害物が待ち受けているとか、そういうのを吉人君は予想していたが、特に何事もなくとある場所にたどり着きます。


「……あの、咲音さん?」

「……ん?」

「もしかしてですけど、」


 吉人君は虹色の階段の前にいる、茶色っぽい鳥を指さしました。


「あの鳥が、三羽烏ですか?」

 

 聖菜ちゃんはこくりと頷います。


「……」


 道に迷うこともなく、敵襲もなく、最後の三羽烏のもとに来てしまったのです。


「ら、楽勝ですね……」


 一個下の層も、劉生君のおかげですぐに抜けられましたし、今回も問題なく三羽烏に合えました。一番下の層ドレミが一番大変だったかもしれないなあ、と思う吉人君でした。


 いつも通り橙花ちゃんは三羽烏を警戒して、杖を構えます。けれど他の子は警戒心のかけらもありません。リンちゃんは茶色の鳥と視線を合わせて訊ねます。


「こんにちは、鳥さん。後ろの階段を登りたいんだけど、ちょっと通してくれない?」

『残念ながら、それはできないな』


 茶色の小鳥は高い声できっぱりと拒否します。


「だよねえ。それじゃあ、通してもらうために、歌ってみましょっか。いくのよリューリュー」

「はい! 歌います! 『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のオープニング曲、『勇気、会い、それからドラゴン』!」

『待て』


 不満げに三羽烏はぴいと鳴きます。

 

『お前の歌は嫌だね。あまりにチープすぎる。そんなんで姫様に会わせるわけにはいかん』

「ええ! そんな! 下のハシビロコウさんは褒めてくれたよ!」


 鳥は尾羽を上下に振り、鼻で笑います。


『あれは単に心がこもった演奏か否かを判断しているまでだ。そこのお前は心を込めて歌っていたからな。それでクリアしたまでだ』

「心……」


 咲音ちゃんはぽつりと呟きます。


『しかし、結局のところ、それは歌そのものに心をこめているわけではない。それに付随するものに心をこめているだけだ』

「付随するもの? 『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』のこと?」

『その訳分からないやつだ』

「なっ! 訳分からないってどういうこと!?」


 劉生君は優しい男の子ですが、自分の好きなコンテンツを馬鹿にされたのです。豹変してキャンキャンとほえかかります。


「『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』はすっごくおもしろい話なんだよ!! 特にね、二十一話、」

『興味ない』


 ばっさりと切り捨てます。


『歌そのものに心をこめて歌わねばならん。でないと、歌に失礼だ』

「ぐぬぬ……!」


 劉生君は怒りのあまり地団駄を踏みます。


「『勇気、会い、それからドラゴン』はね、歌そのものもすごくいいけど、『勇気ヒーロー ドラゴンファイブ』の歌だからこそ、すっごくすっっっっごくいい歌になるの! なぜそれが分からない!!」


 あまりの怒りっぷりに、橙花ちゃんはびっくりして劉生君を宥めます。


「ま、まあまあ劉生君。落ち着いて落ち着いて。劉生君が駄目なら、他の子に歌ってもらえればいいし、もしそれでも駄目なら、あの鳥をぶっとばせばいいだけだから」

「「いやいやいや!!」」


 リンちゃんと吉人君は思わず声をあげます。


「説得してるとみせかけて過激!?」「蒼さんったら、ほんと脳筋ですねえ。ね、林さん」


 みつる君はゆっくりと頷きます。


「うん。飛ばすより、ばらす方がいいよ。俺に任せて?」

「いや駄目ですよ!?」


 吉人君は慌てて突っ込みます。


「魔物を食べようとしてはいけませんって!」

「けどさ、魔物を食べれるなんて今しかないよ? 気にならない?」

「なりませんよ。絶対おいしくないですって」


 赤黒いオーラを身にまとっている時点で、毒か何かもっていても、おかしくはありません。


「そもそも、元の世界でもこんな小さな鳥は食べませんよね。……そういえば、鳥谷さん、この鳥ってどういう名前なんですか?」


 咲音ちゃんはワンテンポ遅れて頷き、鳥をじっくり観察してみました。


「この子は……。ウグイスさんですね」

「あー。ほーほけきょ、と鳴く鳥ですか」


 吉人君は名得しますが、みつる君は不思議そうに首を傾げていました。


「へえ。ウグイスねえ。それにしては、地味な色だよね。ウグイスって言ったら、こう、緑色のイメージがあるけど」


 リンちゃんも「そういえば、」と手をポンと叩きます。


「ウグイスっていったら、ウグイス餅よね。あの緑色の。けど、この子は全然緑っぽくない」

「本当のウグイスは茶色くて地味な色合いをしているんですが、昔の人はメジロという黄緑色の鳥さんのことをウグイスだと思っていたんです」

「へー、なるほどねえ」


 ウグイスは感心したように咲音ちゃんを見上げる。


『ほう。中々の物知りだな。よし、決めた。お前の歌がいいもんなら、ここを通してやろう』

「ええ! わたくしですか!?」


 咲音ちゃんはぶんぶん首を横に振ります。


「わたくしには出来ません! ハシビロコウさんを満足できませんでしたし」

『だからこそ好都合なんだ。お前なら、オレの納得できる歌を歌えるわけがないからな』

「……」


 咲音ちゃんは黙ってしまいます。明らかにショックを受けています。傷ついた彼女をほっとくような劉生君たちではありません。


 特に橙花ちゃんの地雷をぽちっと踏んでしまったらしく、眉間にしわを寄せて、剣呑な視線を向けます。


「やっぱり実力行使しようよ。うん。その方がいいって」


 それもいいかな、なんて空気が漂い始めます。


 それでもウグイスは怯えもせず、むしろ堂々と胸を張り上げています。

 

『腕力で解決するような、野蛮なやり方はやめたほうがいい。少しでもオレに手を出したら、お前らはこのトリドリツリーから出て行ってもらう』


 出ていくとはどういうことかと聞きただすと、薄笑いを浮かべます。


『決まっている。命綱なしバンジージャンプで、追い出す』


 虚勢を張っている様子ではありません。本気です。みつる君はぶるりと体を震わせます。


「さ、咲音っち。ちょっと頑張ってみようよ! うん! そうしよ!」

「ですが……」

『おっと。一つ、忠告をしてやろう』


 ウグイスはピーピーと言いました。


『オレが求める歌は、思いがこもった歌だ。それ以外は認めない』

「思い……」

『ああ。どうする? 今すぐに挑戦するか?』


 咲音ちゃんは一瞬黙り、ゆっくりと首を横に振りました。

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