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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
4章 音楽の大樹、トリドリツリー!―どんな思い出も、大切だから―
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17 VS……? 上に行く方法ってなんですか?

ギターやヴァイオリンが並ぶ壁や、トランペット、ラッパが並ぶ壁、フルートやクラリネットが並ぶ壁。


 綺麗で大人っぽい楽器を時折手にとって試し弾きして回ります。


 リンちゃんはカタツムリが煌びやかに進化したような、ホルンと呼ばれる楽器をふうふう吹いています。


 音を出すのもやっとで、バテてしまいました。


「ふうふう。疲れる……。うまく吹けないー」

「コツがあるんですよ。貸してみてください」


 咲音ちゃんは楽器に息を吹きかけます。すると、重厚感がある優しい音が響きます。


「すごい! 同じ楽器なのに、全然音が違う!」

「ホルンさんは難しいですからね。まずは腹式呼吸を意識してみてください」

「うん! 分かった!」


 二人がきゃっきゃと楽器で遊んでいます。


遊びながら、楽器を吹きながら、リンちゃんは「そういえば」と橙花ちゃんに話しかけます。


「それでさ、蒼ちゃん。ここの三羽烏って、どんなやつなの? やっぱ強いの?」

「下の層のオオワシよりも強い……かな? 多分だけど」

「へえ。よく知らないの? もしかして、ここのフロアにはあまり来たことないの?」

「いや、しょっちゅう来てたけど、ここの三羽烏はあまり戦いが好きではないみたいでね、こっちが攻撃を仕掛けても反撃してこないんだ」

「なんだ。それなら楽勝じゃない」


 リンちゃんはぶんぶん腕を振ります。


「あたしが一発で沈めてやるわ!」

「あー……。それが出来たらいいんだけど、一つ問題があるんだ」

「問題?」

「うん、実際に見ればすぐわかると思う」

 

 橙花ちゃんは足を止めます。


 外国の楽器が並ぶ廊下を右に曲がると、天まで届く大きな扉に突きあたりました。そこにいたのは、一羽の鳥です。


 グレーの体に、肌色の嘴、石のような見た目にふさわしく、まったく動きません。目はぎょろりとしていて圧力がありますが、視線は劉生君たちの方を向いていません。なんならどこも向いていません。虚空を見ています。


「……なにこの鳥。やる気があるんだかないんだか分からないわ。サッちゃんサッちゃん。この鳥なんて鳥か知ってる?」

「ええ! 最近知名度がぐんぐん急上昇中、ハシビロコウさんですよ!」

「へー。なんかすごい鳥なの? 飛ぶのが早いとか、食べるのが早いとか?」

「どんなときでも全く動かない鳥なんです!」

「……それってすごいの?」

「逆にすごいんです!」

「はあ……」

 

 リンちゃんはいまいち納得できませんでした。


「よく分からないけど、あいつを倒してしまえばいいってことね! 分かったわ! いくわよ、<リンちゃんの」

「……待って」


 リンちゃんを止めたのは、聖菜ちゃんでした。


「……戦っても、扉開かないよ」

「え? そうなの?」

「……ハシビロコウの許可がないと、そこの扉が開かないの。……私たちが押しても、開かないから」


 橙花ちゃんも頷きます。


「聖菜ちゃんの言う通り、上がるためには、三羽烏ハシビロコウの許可を取らないといけないんだ」


 ドレミ層では、オオワシを倒しさえすれば上の層に登ることが出来ました。しかし、ここのフロアは、正式な許可がないと扉が開かない仕組みになっています。


「ただ殴るだけじゃだめってことね。それで? どうやったら許可もらえるの?」


 橙花ちゃんに訊ねてみますが、気まずそうに視線をそらします。


「……そのー、ボクはさ、力任せで戦ってたから、許可もらわないで無理やり開けてたんだ。だから、正規の方法はわからなくて……」

「……さすが蒼ちゃん」


 武闘派リンちゃんでさえ引いてしまいますし、吉人君も苦笑します。


「蒼さんは意外と脳筋ですからね……。一応、力押しでも開くんですね」

「けど、結構な魔力を使うから、お勧めできないよ。それに、無理に開けると、扉も爆発するし」

「爆発!? それは……やめておきましょうか」

「そうだね。ボク一人ならともかく、みんなもいるからね」

「蒼さん一人だったとしても、躊躇ってくださいよ。友之助君に怒られますよ」

「うっ……。そうだね。これからは考えておく」


 とは言っていますが、完全に目が泳いでいます。守る気はなさそうです。リンちゃんも呆れてしまいます。


「あたしたちが気を付けてみておかなきゃ駄目ねえ」


 聖菜ちゃんも眉を顰め、遺憾の意を表明しています。


「……私も、見ておく。……蒼ちゃん、危ないから」

「……分かった。本当に気を付けるよ」


 これには自己犠牲精神の塊、橙花ちゃんも完敗です。今度は嘘をついている素振りも見せませんでした。


 みんなで話していると、ふと、みつる君が後ろを振り返り、飛び上がりました。


「わあ!」

「え!? なになになに??」


 劉生君もびっくりして振り返ります。


 すわ敵かと怯えましたが、そこにいたのはハーブを背中に乗せてこちらを睨む白鳥さんでした。


『ちょっと。そこで居座らないでくださる?』

「あ、すいません」


 劉生君とみつる君は譲ってしまいます。橙花ちゃんは杖に手をかけますが、聖菜ちゃんがちょいちょいと袖を引っ張りましたので、戦闘には発展せずに後ろに譲りました。


 白鳥はハシビロコウのすぐ前まで進みます。身動き一つもしない灰色の鳥に恭しく礼をすると、ハーブを地面に置き、羽を使って演奏をしました。


 清流が小石の間を滴り落ちるかのような、幽玄な音があたりを包み込みました。


 音楽大好きな咲音ちゃんもうっとりと聞き入っています。魔物大っ嫌いな橙花ちゃんでさえも、無表情ではありますが、いつもの殺気もなく耳を傾けています。


 演奏が終わり、白鳥は頭をぺこりと下げます。


 自然と劉生君たちは拍手をしました。白鳥さんは当然と言わんばかりに胸を張ります。


 ハシビロコウに動きがありました。眼光は鋭いままに、ゆっくりと立ち上がり、横にずれました。途端、扉がひとりでに開きます。


『どうも、ありがとうございました』


 白鳥は悠々とくぐると、扉がゆっくりと閉まります。


 橙花ちゃんはちらりとみんなに視線をやります。やろうと思えば、強引に滑りこむのも容易だと考えたからです。


 しかし、他の子はそんなあくどいことは考えていません。白鳥の演奏の余韻に浸っていました。


「……」


 一瞬悩みますが、動かないでおきました。


 扉が閉まると、ハシビロコウはのっそりと動き、また扉の前に座り込みました。やっぱり目力はそのままで、置物か銅像のようでした。


 聖菜ちゃんが、みんなに言います。


「……ここの三羽烏さんは、綺麗な音楽が好き。……それで、開く」

「う……。それならあたしは厳しそうねえ」


 リンちゃんは体を縮め、頬をかきます。


「音楽苦手なのよねー。適当に鳴らしまくるのは好きだけど、楽譜通りに弾くだとか、なんだとかってのは得意じゃないのよ」


 吉人君も自信なさげにしています。


「僕も勉強はできますが、上手な演奏はできませんね……」

「それならわたくしにお任せください!」


 音楽大好き、咲音ちゃんが前に出てきます。


「ちょうど、ピアノの演奏会がそろそろですので、演奏会用の曲なら弾けますよ!」


 みつる君も諸手をあげて賛成しています。


「咲音っちはピアノがすごく上手だからね! できるよ!」

「はい! それでは、やってみますね!」


 咲音ちゃんはピアノを呼び出します。召喚した楽譜をおき、ピアノ椅子に座り、大きく息を吸い込み、気持ちを落ち着かせてから演奏を始めました。



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