14 不思議な違和感? 二層ファソ!
二層ファソは、ログハウスのような作りになっていました。高い高い天井は細い枝で覆われており、隙間から太陽の光が射しています。
床は丸太でできていますが、歩きにくさは一切ありません。むしろ、そこら辺の地面よりも歩きやすいです。
木材もきれいですが、なによりも目を引くのは、壁一面に飾られている楽器たちでしょう。
劉生君たちの近くの壁には、バイオリンやチェロ、ベースやギターなどの弦楽器がずらりと並んでいます。深みのある焦げ茶色の胴体は艶々としていて、弦は真っすぐぴんと張っていました。
奥の方には、黄金の楽器たちが日の光を反射して輝いています。遠くでよく分かりませんが、サックスやトランペット、トロンボーンなどなどが並んでいます。
咲音ちゃんはうっとりとして、楽器たちや鳥たちを眺めます。
「ここの鳥さんは、綺麗な子が多いですねえ! それに、みんなおっとりしています!」
虹色の鳩や、絵具の原色の色合いのオウム、ミカンのようなお腹に清流を映し出したような羽をもつカワセミなどなど、美しい鳥たちがたくさんいます。
ドレミの鳥たちは楽器をかき鳴らしていましたが、ファソの鳥たちは積極的に飛びまわる様子もなく、楽器をとりにいくとき以外は思い思いの楽器を優雅に弾いています。
みつる君もキョロキョロと興味深そうに辺りを見渡します。
「層が違うだけで、こんなに違うんだね」
「……うん。フロアを管理する三羽烏によって、雰囲気が違う」
「へえ。俺はこっちのほうが好きかなあ」
劉生君は張り切って自分の意見を言います。
「僕はどっちかっていうと下の方が好き! リンちゃんは……」
そこで劉生君、自分とリンちゃんが少し険悪な空気だったことを思い出しました。
こちらを見るリンちゃんに目も合わせられず、しどろもどろになります。
「あ、そ、そうだ。そのー、あのね、リンちゃん。リンちゃんに、言っておきたいことがあってね。……えっとね」
「……リューリュー」
「は、はい!」
怯える劉生君。しかし……。
「どうかしたの? そんなビビっちゃって。それより見てよあの鳥! ちっちゃいくせにギター弾いてるわよ。すごいわねえ」
「……へ?」
劉生君はぽかんとします。
「り、リンちゃん」
「ん? なに?」
「……怒ってないの?」
「誰を?」
「僕を」
「どうして怒る必要があるのよ。全くもう、リューリューったら」
リンちゃんは大笑いして、劉生君の髪の毛をわさわさと乱します。
「それよりも、あそこのエクレア……あれ、ウクレレだっけ。弾きに行きましょ! ほらほら!」
「う、うん」
リンちゃんの手に弾かれながら、劉生君は狐につままれたような気持ちになります。ピアノの階段を登っている間はあんなに「教えてほしい」と請うていたのに、いつの間にやら気持ちを切り替えてくれていました。
もしかしたら、劉生君のことよりも、新しく訪れたファソに関心を寄せたのかもしれません。いや、そうに違いありません。
ほっと一安心して、劉生君はリンちゃんと一緒にウクレレで遊びはじめました。
〇〇〇
楽器がたくさん飾ってある道は、二層ファソの大通り、木で例えると幹のようなもののようです。
分かれ道がいくつかあり、ある道はヴァイオリンの調教をする小さな部屋に、またある道は大きな弦楽器が揃う中くらいの部屋に続いています。
劉生君は三味線をパチパチ弾きながら、自作の民謡をのんびりとうたいます。
「『勇気ヒーロー ドラゴンジャー』はー。とってもかっこいいんだよー。おー。うおうおー。だわわー」
「変な歌ねえ」
リンちゃんは笑ってくれました。
「えへへ、変じゃないよ、かっこいいよ! 次は違う楽器で歌おうっと! 何がいいかなあ。クールな楽器がいいな!」
いいものはないかなあ、と辺りを見渡してみます。ちょうどここは金管楽器が並んでいるエリアでした。
「どれがいいかなあ。ラッパかなあ。それとも、傘の餅てみたいな楽器にしよっかな」
楽器をのんびり眺めていると、ある場所にぽかんと穴があいていました。
「あれ? なんだろうここ」
木の洞です。のぞき込んでみると、真っ暗な空間が広がっています。奥の方には、蛍の光のような明かりがぼんやりと浮いています。
他の楽器部屋とはあまりに違う空気感に、劉生君は目をぱちくりさせます。
「むー? ねえねえ、聖菜ちゃん。この部屋ってなんの楽器があるの?」
「……?」
聖菜ちゃんは黒い部屋をのぞきこみます。
「……ここ、記録の幹。珍しいとこ。危なくないとこ。……でも、私は、あまり好きじゃない。入ってみる?」
「そうなの? 入ってみたいけど……」
劉生君一人では決断できませんでしたので、橙花ちゃんに聞いてみました。
「橙花ちゃん、この中入っていい? 珍しいんだってさ」
「珍しい? 何が?」
「それは分からないんだけど、聖菜ちゃんが珍しいって言ってたんだ」
聖菜ちゃんはこくこく頷きます。
「うん。珍しい。……あまり、私たちの目につかないとこにある、から」
「確かに、ボクも入ったことないし、見たこともない」
興味津々の様子で洞をのぞきこむと、橙花ちゃんの表情が一変します。
「……魔王トトリの魔力を感じるね」
「そうなの!? それなら、この先に魔王がいるの?」
「いや、トトリはいない。彼女の魔法が発動しているんだと思う」
「なら、あまり近寄らな方がいいかな……?」
「……いや、入ってみよう」
橙花ちゃんは眉間にしわをよせて、じっと木の洞を睨みます。
「正直、ボクは魔王トトリと戦った経験がないんだ。どうせあとで戦うことになるんだから、トトリの力を一旦調べておきたい」
吉人君はくいっと眼鏡をあげます。
「それなら、入ってみましょうか」
「そうねそうね!」
リンちゃんも張り切ります。
「それじゃあ、れつごーごー!!!」