12 少女の作戦! サンバサンバ!!
「えーいっ! <ファイアースプラッシュ>!」
火の粉が飛び、鳥たちに着火します。はじめて使った技ですので、鳥たちは慌てふためます。しかし、遠くで鳥たちの指揮をとるオオワシは冷静です。
『なるほど。そういう技もあるか。だが、あれくらいならフォーメーションの一部を変えれば問題ない』
オオワシは器用にマスカラをつまみます。
人が言葉で会話するように、鳥は鳴き声でコミュニケーションを取ります。とはいえ、たくさんの種類の鳥がいると、意志疎通もうまくいかないおそれがあります。こんなたくさんの数の鳥を扱うのなら、一層難しくなってしまいます。
ならば、どんな鳥でも理解できる合図を決めればいい。
その合図としてオオワシが選んだのは、音楽の木トリドリツリーに実る楽器でした。
楽器なら混戦時も聞こえやすいので、こちらの意図通りに鳥たちを動かせますし、急に戦闘になったときでも、そこらの楽器を使えばいいので対処しやすいです。
我ながらいい案だと、オオワシは満足しています。
今回は少しだけ陣形を変える指示ですので、マスカラを軽く振るだけにしておこうと考えていました。
ところが、オオワシが楽器を鳴らす前に、シャンシャン、パンパンと、タンバリンをかき鳴らすが聞こえてきました。
『ん? なんだ?』
この付近は既に人払い・鳥払いしているはずです。枝に実ったタンバリンが落ちたのかと首を傾げていると、今度はカスタネットがリズミカルにタッタカとかき鳴らされました。
続けて、マスカラを乱暴に振り回す音、太鼓をドンドコとなる音も聞こえてきます。
ここまでくると、誰かが意図的に鳴らしていると、オオワシは気づきました。
『……まさか……!』
オオワシは慌てて劉生君たちを見下ろし、絶句しました。
『なっ! なんだと!?』
オオワシがビックリ仰天するのも無理はありません。いつの間にか劉生君たちは服装を変え、楽器片手に踊っていたのです。
リンちゃんは真っ赤なドレスを身にまとい、カスタネットを打ち鳴らします。
「へいへい! ちゃんちゃかちゃんちゃか! フラメンコ!! おーいえい!」
「僕はサンバ! わっしょいわっしょい!!」
劉生君は蛍光色のジャージを着ています。首元にライオンの鬣のようなものをまいています。手に持つのは大きなタンバリンです。
「赤野っち、多分違う。それサンバじゃない。別の何かだよ」
苦笑しながら、みつる君は太鼓をドンドンチャカチャカと叩いています。頭にはちまき、背中に大きく『祭』と書いてある法被を着ています。「太鼓といえば祭り、祭りといえば焼き鳥だなあ」ぽつりとつぶやきながら、地面に倒れている鳥を見るなどします。
「らんらん。らんらん。楽しいですね、吉人さん!」
「ええ、とっても楽しいです!」
咲音ちゃんは鍵盤ハーモニカで、吉人君はリコーダーで小学校の校歌を奏でます。二人はそろってスーツです。咲音ちゃんのことが大好きな吉人君、彼女と一緒に演奏できて嬉しそうです。
劉生君たちが奏でる楽しい楽しいリズムに、鳥たちは右往左往し、混乱してしまっています。
たまらず、オオワシは叫びます。
『くっ、冷静になれ! 一旦上に退避せよ!!』
どれだけ大声をあげても、鳥たちにまで声が届きません。
『ええい、こうなったら、奴らよりも大きい音を出して従わすしか……!』
「太鼓を使えば聞こえるかもしれないけど、みつる君と被ってしまうね」
『ふん、所詮子供の力で鳴らしているだけだ。ワシの力をもってすればあれくらい……』
このとき、オオワシはふと疑問に思いました。
今、自分が話しているのは誰なのか。
オオワシは声のする方に顔を向けました。そこにいたのは、青色の角を右側にだけ生やした女の子でした。
彼女はハンドベルを軽く振り、ウインクします。
「それじゃあ、さようなら」
ひょい、とハンドベルを投げつけると、一言、冷たく言い放ちます。
「<ススメ>」
ハンドベルは高速で飛んでいきます。目にもとまらぬ早さです。オオワシは避ける間もなく、頭に直撃しました。
『あ、ぐっ……』
的確に頭を狙った攻撃に、オオワシは目を廻して、地面に落ちていきました。
案外物理には弱かったようで、オオワシは気絶して、ピクリとも動きません。
橙花ちゃんはふっと笑います。
「これで、一羽目。かな?」