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ほうかごヒーロー!~五時までの、異世界英雄伝~  作者: カメメ
1章 ミラクルランドへようこそ!
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9 ミラクルランドの魔法! 願いの力!

 しばらく時間が経ってから、リンちゃんはようやく蒼ちゃんがいないことに気がつきました。


「あれ? 蒼ちゃんはどこ行ったの?」


 吉人君も周りを見渡します。


「本当ですね、この世界について教えてほしいのですが」

「こうしちゃいられないわ。他の子に聞いてみましょう。ねえ、君たち!」


 リンちゃんが尋ねると、子供たちが顔を上げます。二人が蒼ちゃんの行く先を聞くと、子どもたちは不安そうに顔を見合わせます。


「多分、あの時計台の中だと思うけど」

「もしかして、魔物に誘拐されちゃった……?」

「ちょっと待ってろ、俺が調べてやる」


 一番年上っぽい子が前に出てきます。彼の名前は伊藤友之助君。小学校六年生ですので、劉生君たちよりも学年二つ上です。彼はおもむろに葉っぱをぎゅっと握りしめた後、手のひらを広げました。すると、葉っぱがコンパスに変わっていたのです。


「赤い印がこっちを向いているから……。あの時計台にいるみたいだな。よかったよかった。点検してるだけみたいだな」


 友之助君が笑顔で伝えますが、二人のキラキラした目を向けられてびっくりしてしまいました。


「え……? な、なんだよ」

「すっごーい! どうやって葉っぱをコンパスにしたの!?」

「手品でしょうか? ですけど種も仕掛けもありませんよね? そのコンパスで蒼さんの居場所が分かるのですか?」


 二人の注目をあびて、友之助君はちょっと顔を赤らめます。


「そ、そりゃあ、蒼を探したいって願いを込めたコンパスだからな」

「……そうなの?」「そうなんですか?」


 二人は首を傾げると、友之助君は意外そうにします。


「蒼に教えてもらってないのか? あっ、魔物騒動があったから教えてもらってないのか。なら、俺が教えるぜ」


 仕方ねえなといいつつ、誇らしげに話し始めます。


「蒼から聞いているとおり、この世界の名はミラクルランドって名前なんだ」


 二人ともそれは知っていましたが、それにしてもチープな名前すぎやしないかと思いました。どこかの遊園地の幼児用コーナーっぽい名称です。一分間だけ地道に動く謎の乗り物がたくさんありそうです。


「それでな、ミラクルランドでは不思議な力が使えるんだ。俺らは魔法って呼んでる。蒼のいる場所が分かるコンパスも劉生の剣も、魔法の力なんだ」

「へえ、リューリューのあれも……」


 リンちゃんは草原にぶっ倒れている劉生君を見ました。ちなみに今の劉生君は度重なる疲労によって気絶してしまっています。


 それもそうでしょう。子どもたちに握手を求められまくった上に、『ちょっと剣振ってみてよ』と言われて何十回も素振りをさせられ、『もし本当にヒーローならあそこの木を切ってくれる? 僕のテントの隣にあって邪魔なのよね』と言われて木を伐採することになったのです。さすがに疲れて寝込んでしまいます。


 そんな可哀そうな目にあったのもリンちゃんと吉人君のいじわるのせいですが、二人は自分たちが悪いと思っていないようです。リンちゃんはすぐに視線を友之助君に戻しましたし、吉人君に至っては見向きもしないで友之助君に質問をします。


「その魔法は、この世界にいる人なら誰でも使えるのですか?」

「個人差はあるけどな。蒼は雲に乗って飛べるけど、俺らはそんなすごいことできない。ちょっとしたおもちゃを出せるくらいだ」

「へえ……。魔法の発動条件は一体何なのですか。先ほどあなたは『願ったからコンパスが出た』と言っていましたが、まさか願っただけで魔法は出ませんよね?」


 しかし、友之助君はニヤリと笑います。


「いやいや、それがな、出るんだよ。願っただけで魔法が」

「え!? い、いや、そんなまさか」

「そんなまさかが通用するってこと! 試しにやってみれば? アヒルのおもちゃくらいなら出せると思うぜ。葉っぱをぎゅっと握って、『アヒル出ろっ!』って念じて手を広げるんだ」


 リンちゃんと吉人君は半信半疑で葉っぱを積みとってぎゅっと握りしめます。アヒルよ出よと願いながら、手のひらを開きました。


 すると、ポンッと軽い音とともに、小さな葉っぱが小さなアヒルのおもちゃが現れたではありませんか。


 これには二人も驚きを隠しきれません


「本当だっ! 願っただけで出てきた!」

「ふ、不可思議です……。やっぱり手品ではないでしょうか」

「ヨッシー、あんたなんか仕掛けたの?」

「い、いや、仕掛けていませんが……」

「ならやっぱり魔法よ魔法!」


 友之助君は、まるで自分が褒められたかのように嬉しそうに胸を張ります。


「おうよ! 魔物がいなけりゃ、この世界ほどいいとこはないぞ! なんでも出来るからな!」


 確かに彼の言う通り、魔物の脅威さえ目をつぶればここは楽園そのものでしょう。ですが、実際のところ、魔物はこの世界に脅威を与えています。

 楽園に影を落とす存在、魔物。その正体とは何なのか。吉人君の好奇心がむくむくと膨れ上がります。

 衝動のままに、吉人君は彼らに尋ねます。


「では、そもそも、魔物とは一体何なんですか。あれも誰かの願いによって生まれた存在、ということでしょうか」

「……あーそれはなあ」


 先ほどまでウキウキで説明していた友之助君が、苦虫を潰した表情になってしまいました。


「ちょっと俺らにも分からないんだ。一度教えてもらったんだけど、なんか複雑でさ。そこは蒼に聞いてくれないか」

「そうですか……。分かりました。それではさっそく聞きにいきましょうか、道ノ崎さん」

「ええ、そうと決まればリューリューを叩き起こして、蒼ちゃんに会いに行きましょうか」


 リンちゃんが劉生君のほっぺをつねろうとしましたが、その前に友之助君が慌てて止めます。


「ちょっと待ってくれ。蒼に話を聞きに行くのはもう少し後でもいいか」

「え? どうして?」

「そのー、蒼も魔物に誘拐されて疲れていると思うんだ。だからさ、休ませてやってくれないか?」


 友之助君は真剣な眼差しで訴えかけます。


 それだけ、蒼ちゃんのことを大切に思っているのでしょう。


 リンちゃんと吉人は友人に悪戯することは辞さないですが、誰かの願いを踏みにじることはしません。二人は迷いなく頷きました。


「分かった。ちょっと待っているね」

「ええ。少しくらいなら待っても問題ありませんし」

「本当か!」友之助君はパッと顔を明るくさせます。「ありがとうな!けど、待ってる間ヒマになるよな。俺がほかに教えられることは……なんだろう。うーん……」


 悩む友之助君の袖を、ちょいちょい、と女の子が引きます。


「お話終わったの?」

「ん?終わったぞ」

「なら、パーティーしてもいいかな!」

「ああ、そう言えばそうだ。すっかり忘れてた」


 リンちゃんはキラキラと目を輝せます。


「何々?パーティーするの?あたしも参加していい?」

「もちろん!なんだって、リンと吉人たち三人の歓迎パーティーだからな」

「あたしたちの?」

「おうよ!」


 友之助君は、にこやかに教えてくれます。


「ムラに新しい子が来たら、歓迎会してるんだ。蒼のことですっかり抜けてた。こんな状況ですまないけど、参加してもらえるか?」

「もちろん!いいわよ!」「ええ!是非参加してみたいです」


 二人の返事を聞くなり、そばにいた子供たちはきゃっきゃとはしゃぎます。


「それじゃあ、準備準備!」

「わーいわーいっ!」


 子供たちはちまちまと話し合いをして、どこからともなくテーブルと椅子を運びだしてくると、楽しそうに歌を歌いはじめました。


「楽しい楽しい 歓迎会


 おいしいご飯を 用意して


 甘いお菓子も たんまりと


 いっぱいいっぱい 揃えたら


 楽しい楽しい 歓迎会!」


 調子っぱずれた唄ですが、なんだか楽しい気持ちになってきます。ルンルン気分で聞いていた二人ですが、吉人君は「あっ」と叫びました。


「み、道ノ崎さん。テーブルの上、見てみてくださいっ!」

「テーブルの上? あっ! 食べ物が出てきてる!」ーブルに、次々と美味しそうなご飯が並んでいくではありませんか。


 鉄板の上に置いてある分厚いお肉はジュージューと音を立てて香ばしい香りをしていますし、木の船いっぱいに並んであるお刺身は太陽の光に照らされてキラキラと光り輝いています。


 からあげやコロッケも山のようにつんであります。大きな鍋もいくつか現れました。一つの鍋はカレーが入っています。柔らかいジャガイモに、よく煮込んだお肉が入っています。その隣にはシチュー、隣の隣はビーフシチュー、隣の隣の隣にはすき焼きも並んでいます。


 ご飯コーナーから少し離れた机には、たくさんのデザートで溢れていました。


 白いクリームに赤いイチゴが乗ったショートケーキに、チョコがたっぷりコーティングされたケーキ、栗がちょこんとのったモンブラン、たくさんの果物がタルト生地に挟まっているミルフィール。ロールケーキやパンケーキだってあります。


「す、すごい……。おいしそう……」


 リンちゃんは思わず呟きました。


「これが、この世界の力……。願いの力……」


 子供たちは続けて歌を歌います。


「ごはんだけじゃ いやいやよ


 かわいい飾りも つけなきゃね


 キラキラテープに、ふわふわ風船


 お花の飾りも つけましょう!」


 子供の歌にあわせるように、風船やキラキラテープが現れて、テントや周りの木々を飾り付けます。

 野の花もぐんぐん成長して、会場に彩を添えています。


 小さな女の子たちは嬉しそうにハイタッチをします。


「うん! ばっちしね!」「ばっちしばっちし!」


 リンちゃんも嬉しそうにぴょんぴょんはねます。


「おいしそう! 本当に何もないところから出てくるのね! でも、どうして歌なのかしら?」

「それはね、お姉ちゃん。歌に願いをこめてみんなで歌うと、一人じゃ使えない力も使えるの!」

「へえ、すごいわねえ!」


 リンちゃんが感動している間にも、着々と準備は進められます。今は木と木の間に紐を結び付けて、横断幕を設置しているようです。横断幕には色鉛筆で『蒼ちゃんおかえりなさい!』『ミラクルランドへようこそ!』と書いてあります。


 子どもたちだけの作業ですが、魔法をうまく使っているので、すぐに横断幕を張ることができました。


 そんなときです。今まで倒れていた劉生君がぱちりと目を開けました。

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