第九話、エクストラコールド
結局、キバは、一週間の休暇を取らされた。
「監察官であるボクがいる前で、労基違反なんてありえないよ~」
腕組してうんうんうなづいている。
「では、“ジェーン”と“エリン”の観光に行きましょう」
ユキノが、キバの腕を取る。
「そろそろ、“ジェーン”が大気圏突入すると思うぞ」
酒場のおやじだ。
宇宙クジラが惑星に降りるとき、どこに降りるかしばらく軌道上で探す習性がある。
「私の船で行きましょう」
「いいのか?」
「あら、我がハーレムの主になられましたら、キバ様の船になりますわよ」
ユキノは、人差し指を振って得意顔である。
「んん?」
逃げたほうがいいんじゃ
キバが出口を探して周りを見た。
「まあ、まあ、まあ、取り合えず後学のために乗ってみようよ」
「現代の船のこと、知りたいでしょ」
黒縁眼鏡、お堅い女教師の女装をした監察官が言った。
「ん~、船のクルーも紹介したいかな」
ヤマだ。
「……何もしないな?」
キバが警戒する。
「すっ、するはずがないですわっ」
アラアラ
ツレコンデしまえば、あ~んなことやこ~んなこともっ
「…………」
分かりやすいなっ
「ふうっ、わかったよ」
ま、大丈夫だろう
キバは、はしゃぐユキノを生温かい目で見た。
◆
ステーションの港に移動した。
「おおっ、これは」
「我が“ハーレムパレス、エクストラコールド”へようこそ」
曲線を多用した美しい船体。
後部は急に細くなり、急な坂を描きながら上がっている。
上がった上に曲線を帯びた艦橋がある。
その下からは太いアームが左右に斜めに降り、エンジンブロックが二つ、ついていた。
「永久凍土装甲っ」
監察官が大声を出した。
白い船体の表面が少し透けて、奥が青い色を帯びている。
まるで、巨大な氷山のようだ。
「きれいな船だな」
「これはすごいんだよっ」
ユキメ族の種族特性、熱量奪取。
周りの熱を奪い、自身のエネルギーに変える。
『永久凍土装甲』は、このスキルを付与されたものだ。
「あらゆる、熱量兵器が無効化されるよ」
「なにっ」
「しかも、補給いらずさ」
「ふふふ、恒星に落ちても10分くらいはもつらしいよ」
「すごいなあ」
キバが、船を見上げた。
フッフ~~~~ン
ユキノが、勝ち誇った顔で胸を逸らした。
揺れない。
「それだけではありませんわっっ」
ユキメ族が誇る、伝統と格式高いハーレム宮殿内蔵。
ジャングル風呂も含めた、十二種類の浴槽。
サウナ風呂はもちろん、塩サウナ、更には岩盤浴まで設置。
メイドチョーである、ヤマ自ら行うマッサージ。
「たまに力の加減、まちがうんだよね~」
地球人類由来の、全自動マッサージチェア。(10分100円)
入浴後は、牛乳、コーヒー牛乳、さらには、フルーツ牛乳まで選びたい放題。
安っぽいオリジナルグッズが心をえぐる。
タオルは浴槽に入れたらだめだぞ~
「……この世に“パライソ”を再現したと自負しております……」
ユキノが、完璧なカーテシーを見せた。
「姫様っ、かっこいい~」
ヤマが、後ろで万歳している。
『……健康ランド……か?』
キバがぼそりと日本語でつぶやいた。