第六十七話、誘拐
キバたちはハーレム船”エクストラコールド”で、エリンステーションに帰っていた。
途中、補給ステーションに寄る。
ステーションのロビーだ。
大きく窓が開いており、星が沢山見える。
補給に少し時間が掛かる。
「ちょっと、トイレに行ってくるよ」
「いってらっしゃいませ、キバ様」
ユキノはロビーで星を見ていた。
近くには、R-66、とミケ、キジ、クロがいる。
イナバ五姉妹は、船で補給作業中だ。
キバが補給ステーションの男子トイレに入る。
トイレを終え手を洗っていた。
その時、
カチャリ
トイレの個室の戸が開いた。
「アド~〇、フロント・ダブルバイセップスッッ!!」
マッチョダンディーが現れた。
片手には、人ひとり入れられるくらいの麻袋を持っている。
ブーメランパンツだ。
「なっ」
ポロリ
キバが、口にくわえていたハンカチを落とす。
トイレの入口だ。
「サムソ~〇、リア・ダブルバイセップスッッ!!」
もう一人マッチョダンディーが現れた。
ワセリン塗ってテカテカである。
ブーメランパンツだ。
◆
”フロント・ダブルバイセップス”
バイセップスとは、”上腕二頭筋”のことである。
両腕を肩の位置まで上げ、ひじを曲げ、力こぶを作り、前面から筋肉を見るポーズだ。
”リア・ダブルバイセップス”
フロント・ダブルバイセップスを後から見たもの。
体を少し後ろの反らし、広背筋と脚を見ることが出来るポーズである。
(ウイキペディア参照)
◆
「うおお、」
なんだ、なんだ、なんだ。
突然現れた、前後の筋肉の塊にキバが慌てふためく。
「「兄さん、シアがってるねえ」」
ニイイ
ビルダーズスマイル×2、アンド前後。
「「〇ドンッ、〇ムソンッ、マッスルサンドイッチッッ」」
「ぐはあっ」
キバが、前後から筋肉にはさまれつぶされた。
◆
「? キバ様が遅いですわねえ?」
ユキノだ。
クカカカカ~
ミケがネコっぽいあくびをする。
「あれっ」
R-66が窓の外を指差した。
「えっ」
ユキノが気付いた。
「んん?」
ミケが怪訝な声を出す。
「「ミケ様~~」」
キジとクロだ。
マッチョダンディーだ。
マッチョダンディーが、ブーメランパンツ一丁で宇宙空間に浮かんでいる。
しかも二人。
一人の肩には、人が一人入っているような大きさの麻袋。
口が無造作に閉められ、酸素ボンベのホースが手荒く突っ込まれている。
「なんですかっ、宇宙空間にブーメランパンツ一丁なんて非常識ですよっ」
R-66が、スクール水着一枚で宇宙に出る自分のことを棚にあげて叫んだ。
「しかも、キバさんをどこに連れて行くんです?」
「えっっ」
ギギギ
ユキノが、首を音を立てる様にR-66に向ける。
「麻袋の中は、キバさんですよっ」
ニイイ
マッチョダンディーが、おもむろに水中眼鏡をかけた。
ザッパ~~ン
宇宙の海中に、キレイなクロールで潜っていった。
ダイブイン。
「ま、ままま待ちなさい~~」
ゴオウ
ユキノの周りを吹雪が荒れ狂う。
補給ステーションのロビーが雪で埋まった。
◆
「エクストラコールド、緊急発進っ」
ユキノは激怒している。
深紅に染まった瞳。
ざわざわと白い髪がざわめいた。
周りには雪の結晶が霞のように舞う。
ユキノがユキオンナの本性を現した。
「急ぎなさいっ」
「……キバさまああ……」
「大丈夫ですようっ」
「キバさんの”生体パターン”、”アストラルパターン”は登録済みですよう」
「追尾出来てます」
R-66が親指を立てる。
「はああ、しかしユキメ族のオトコを奪うとは」
命知らずだねえ
ミケだ。
「キジ、クロ、コルトバ本星へ直接知らせに行け」
「「はいですニャ」」
キジとクロがこたえる。
「ワシも行こう。 多分アルラウネの、”マッチョハーレム”だろう」
コルトバ諜報部中佐、ブンタだ。
三匹が量子化、ネット内を飛ぶ。
「戦争でもしたいのかね」
激怒しているユキノを見ながら、ミケがつぶやいた。
麻袋は、宇宙樹”アルラウネ”の素材で出来ている。
宇宙空間の使用に対応しているぞ。
アド〇とサム〇ンは、鍛えれられた体と気合と根性で宇宙を渡る。
フォ―スは使っていない。




