第六十六話、アルラウネ
「大事な子を産んでくださいまし、お姉さま」
産婦人科の豪華なホテルのロビーでユキノが言った。
出産予定日、三カ月前が来たのだ。
姉二人とその夫がホテル(産婦人科)に宿泊(監禁)する。
キバたちが、エリンステーションに帰る日が来た。
ヤマとミユキに声を掛けた。
「姫様も私が帰るまでお達者で」
ヤマだ。
「ええ、丈夫な子を産んで見せます」
ミユキが頷いた。
ミユキたちが産婦人科を出る。
コルトバ王都”エターナルスプリング”だ。
温泉湖から白い煙が上がる。
遠くに、200メートルの鰹節と、50メートルのスルメイカが見えた。
ユイノウ品だ。
バラバラに解体され、王都の市民に配られるようだ。
以後、このスタイルのユイノウが、習慣化するとかしないとか。
帰りのユキノのハーレム船、”エクストラコールド”には、
ミケとキジとクロ、太った猫(コルトバ情報部中佐、ブンタ)の炬燵ネコ組。
操船しているイナバ五姉妹。
掃除しているR-66。
キバとユキノが乗っている。
フェリシアたちは小学校が始まったため、エリンステーションで留守番である。
エクストラコールドが、エリンステーションに向け出発した。
「寂しくなりますわ、キバ様」
「そうだな、寂しくなるな」
ヤマと監察官、最近はエリンステーションに住み着いていたミユキとハロクがいない。
炬燵ネコ組が、ゴーロゴーロと喉を鳴らしているのを見ながら言った。
エクストラコールドのVIPルーム。
窓は開けられ、たくさんの星が見える。
二人は窓の前に立ち、ユキノはキバに背中でもたれかかる。
キバは後ろからユキノの腰に手を回し抱きしめた。
エクストラコールドがダイブイン(宇宙の海中に入った)した。
ダイブワープ。
ネコ達の炬燵談義の時間だ。
高度な情報が行き交う。
審念熟慮。
熟読三思。
三思九思。
熟思黙想。
沈思黙考。
(全て、”深く考える”意味の四文字熟語。 ググりました)
な会話が続く……ハズ。
ゴーロゴーロ、[聞いたか、近くに”アルラウネ”が来ているらしい]
ブンタだ。
ゴーロゴーロ、[アルラウネって何ですかニャ]
クロが聞いた。
◆
”宇宙樹、アルラウネ”
宇宙空間に適応した巨大な樹である。
一般的な大人の樹で、横幅、5キロメートル。高さ3キロメートルにもなる。
自身の樹の中に、大気や水を作り、普通の人類が生活可能な居住空間を持つ。
若木の内は、どこかの惑星の大地で育つ。
成長すると、打ち上げ時の爆発で半径一キロ四方を薙ぎ払いながら、宇宙に打ち上がって行くのだ。
人類を魅了する化学物質で、近づいて来た人類を魅了し自身を護り、育てさせる。
魅了するためにとる妖精のような姿の、”花”が、”ブルーメ・アルラウネ”だ。
その時集めた人類が、”アルラウネ・逆ハーレム”と言われる。
普通、逆ハーレム要員は地上に置き去りにされるが、たまにハーレム要員に執着し、そのまま連れていく個体が出てくる。
さらに、宇宙を漂いながら、逆ハーレム要員を集め続けるのである。
”ブルーメ・アルラウネ”はあくまでも宇宙樹の一部、人類をおびき寄せる花だ。
当然、人類と生殖能力はない。
子作りもせず、優秀な殿方を集め続ける”アルラウネ樹”を、コルトバ星人は蛇蝎のごとく嫌っていた。
◆
ゴーロゴーロ、[……だよ]
説明が終わった。
ゴーロゴーロ、[ユキメ族には、ライバルみたいなものだからなあ]
ミケだ。
殿方を奪い合うという意味で。
ゴーロゴーロ、[近くにいるアルラウネは、逆ハーレム持ちだ]
ブンタが言う
ゴーロゴーロ、[ふうん」
ミケが興味なさそうに聞いた。
ゴーロゴーロ、[……逆マッチョハーレムなんだが……大丈夫だよな]
アルラウネの性癖が”マッチョ好き”である。
ブンタが、窓際でユキノを抱きしめているキバを少し不安そうに見た。
ゴーロゴーロ、[近づかないようにしないとなあ]
ブンタは苦労性である。
キバはあいかわらず、内側からあふれんばかりの筋肉をしている。
補給のために寄った、補給ステーションで事件は起きた。
マッチョダンディ~。




