第六十五話、マッチョダンディー
「豪華だなあ」
キバが驚きの声を上げた。
「そうですわっ」
フンスッと誇らしげにユキノが胸を張った。
ヤマとミユキにつき合って産婦人科の病院に来ていた。
病院といっても超高級ホテルと同じである。
コルトバ星では、出産三カ月前から父親と一緒に、ホテルの様な病院に入院するのが一般的だ。
”夜這い”で、”出来ちゃった婚”が主流のコルトバ星人である。
恋愛や恋人期間を補う意味もある。
”宇宙一、妻や恋人にしたい妊婦さん”の期間に、ガッチリ夫の心をつかむのだ。
また妊娠中の夫の浮気を、一緒にホテルに入院することにより、物理的にブロックする意味もある。
まあ、小学校の低学年から”自分に合う殿方の見極め方”や、”ダメンズの更生の仕方”(←例として記憶洗浄も教科書に乗っている)などを習うのだ。
ほぼ浮気は無いのだが。
ちなみに、国の予算でホテル代も含めて出産費用は全て無料である。
「ふふふ、これも文化だよ」
監察官は、”妊娠中他のハーレムにとられないよう、夫を拉致監禁する”、コルトバの文化を体験できてご満悦である。
後にレポートにあげられるだろう。
「行ってきます」
にこにこと笑うミユキと手をつないでハロクが病院に入って行った。
入口はオートロックで受付の監視も完璧である。
「う、うらやましいですわっ、キバ様」
ユキノが、キバの手をつなぎ太い二の腕にもたれかかる。
「私もキバ様を(産婦人科の病院に監禁して)みたいですわっ」
ユキノの顔がぽっと赤く染まる。
「ん?よく聞こえなかった」
キバがユキノを見た。
「うふふ、なんでもありませんわ」
ユキノがあやしげに笑った。
◆
背後には巨大な木の幹。
表面は滑らかで、白に近い茶色だ。
幹がそのまま床になり大広間を作っている。
所々にひとまたぎで渡れるような溝が走っており、清らかな水が流れていた。
大広間の幹の根元に椅子が一つ。
椅子には、小柄な美少女が座っていた。
さらさらとした細い金髪。
頭には白い花。
少し切れ長のエメラルドグリーンの瞳。
尖った耳、
薄ピンク色のぷっくらとしたくちびる。
抜けるような白い肌。
凹凸はとぼしいが妖精のような肢体。
白い花びらを重ねたような肩が出たドレスを身にまとう。
「うふ、シアがってるわ」
まさに花がほころぶように笑った。
「どうですか、ブルーメ・アルラウネ」
ガラリア帝国少佐、サナダが言った。
映像には、白い髪の女性を抱き締める、上半身裸の男性の写真が写っている。
マッチョだ。
どこかの宇宙港のドッグである。
過去にアルラウネに、ある実験に協力してもらった。
その代償に屈強な海兵隊員を二名、彼女の元に派遣している。
「天然ものね」
彼の筋肉は、重力制御が不完全な宇宙軍艦のなかで鍛えられたものだ。
トレーニングジムなどで人工的に作られたものではない。
この時代、マッチョな殿方は少ないのだ。
「うふふ、銀河系の男性の数は、35京123兆456億よ」
立ち上がって歩いてくる。
椅子の左右にひかえていた、禿頭のマッチョダンディーが二人、彼女の後ろに回り、両ひざを合わせた。
彼女が両ひざに座る。
ムキッッ
身長約190センチ。
かっ色の肌。
ブーメランパンツ。
ワセリンぬってテカテカである。
「アド〇、サムソ〇、わたしの(マッチョ)ハーレムにふさわしいわ」
通信モニターに映った写真を見ながら、片足を組んだ。
「「イエス、マイ・ブルーメ(←ドイツ語で、花という意味)」」
左右の二人が、目を細め口にしわを寄せた、ビルダースマイル???で答える。
BGMは、オー〇ティン・マ〇ーン、”ダー〇ィー・〇ークス”。
写真にはデビルズコレクターの事件で、冬眠状態になったユキノを溶かした時のキバが写っていた。
ア〇ンとサム〇ンは、ブーメランパンツ一丁で大宇宙に飛び出した。




