第六十二話、交渉
「なにいっ、サンダー01とマリアの捕獲と抹殺に失敗しただとお」
サナダ少佐が大声を上げた。
ガラリア軍本部第七課のオフィスである。
隣にナカムラがいる尋問室がある。
「さらに、派遣していた部隊が全滅?」
「戦艦三隻が轟沈?」
「馬鹿な、コルトバの女などに精鋭を誇る我が帝国軍人がっ!?」
ガラリア帝国は男尊女卑の強い、超軍事国家である。
コルトバの女性たちを完全に舐めていた。
コルトバの過酷な環境を生き抜いてきた彼女たちを、である。
「さらに、エリンステーションまで外交団を呼びつけただとお」
勝者は敗者を呼びつけるのだ。
「おのれえ、女ごときがあ」
”キャットイヤ~ッ”
「ふむ」
ネコミミ、ネコシッポを生やした三十代男性。
ナカムラである。
”キャットクロ~ッ”
ピインッ
ナカムラは、両手の手錠を涼しげな音と共に爪で切った。
”シュレディンガ~ッ”
ナカムラは、厳しい修行の結果、ネコヒゲ無しで一瞬、自身を量子化できるのだ。
黒い煙となり、部屋の壁を抜けた。
”キャットウオーク~ッ”
他の人の認識外を、気配も音も消して廊下を歩く。
”キャットスティール”
”猫獣人強化計画”の全データをニャイニャイした。
ナカムラは、ついでに宇宙船もニャイニャイして、エリンステーションに脱出したのである。
「なんだとうっ、ナカムラまでいないではないかっ」
隣の部屋を確認したサナダが叫んだ。
◆
「我が国のハーレム要員を誘拐し、危害を加えようしましたね」
コルトバの第二王女で、優秀な外交官のコユキがにこやかに言う。
目が完全にわらっていない。
黒髪縦ロールが、容赦なく周りに広がる。
場所は、歓迎用迎賓館併設型外交用ハーレム艦、”ヴァルハラ”の会議室。
ガラリアの外交団と交渉中だ。
「そっちが勝手にハーレム要員とかいっているだけではないのかっ」
サナダ少佐が唾を飛ばしながら言った。
フェリシアとマリア、ナカムラと豆狸五型の返還を要求している。
「それに、ナカムラは男ではないかっ」
机の向こうに座るナカムラに指をさす。
「ん? ああ、はいっ」
宝塚の男性役の女装をした監察官が、銀色の注射器を取り出し、ナカムラにぶっ刺した。
ドブシュウ
シュコオオオウ
「なっ、ああ、あ、ア、あ、ああ、ニャアアアアン」
猫声ハスキ~。
「うう、俺は……キョヌ~だったのか……」
ナカムラが女体化した。
「うっ」
それを見て、サナダが目を見開いて固まる。
ミユキは女体化したナカムラに一瞬、ピクリと眉を動かした後、
「ハーレム入りは本人たちの意思ですし、亡命も希望しています」
「それに、戦艦に乗っていた約三千人の捕虜はどうしますか?」
「くううう、しかしっ」
「あらあら、”ハーレム特措法”に抵触しますよ」
文化文明を守る”全文代”の定める宇宙国際法に、”ハーレム特措法”は登録されている。
違反すると、最悪、全文代から”懲罰員”が派遣されるだろう。
たとえば、”凍結”の二つ名を持つ、宇宙空間に適応した個人や、瞬間移動を身に着けた、野菜の栽培が盛んな戦闘民族の一人に、大気の一部や大陸が吹き飛ばされたりするのである。
終始、コルトバ側が有利のまま、交渉は終わった。
ガラリアの外交官が怒りながら出て行く。
マリアが膝に抱いたフェリシアに、優しく微笑みかけていた。
ニッチな需要、女体化したキョヌ〜の中年男性(ネコミミ、ネコシッポつき)
ブンタの部分を削りました。




