第六話、SAKANA
現在、宇宙は大海原になぞらえることが出来る。
大海原を満たす海水のように、宇宙はダークマター(暗黒物質)に満たされていた。
そして、ダークマター下の環境に適応した生物がいた。
“魚型宇宙間生物”である。
この生物は、ダークマターの三次元(海上)から、四次元(海中)へ潜る(ダイブ)することが出来た。
宇宙という広大な空間を、時間をさかのぼりながら、移動する。
(タイムマシン型ワ-プ航法のこと)
“ダイブワープ”である。
これは、人型宇宙人類の宇宙船にも同じ理屈のものが使われている。
辺境惑星、“エリン”に、巨大なクジラ型宇宙間生物が近づきつつあった。
「艦長、左方向に、“ジェーン”がダイブアウトしてきます」
辺境パトロールの巡航艦だ。
個体名“ジェーン”、宇宙を泳ぐ全長10Kmのシラナガスクジラである。
ダークマターの四次元(海中)側から三次元(海上)側にゆっくりと現出しつつある。
境目が波のように白く輝いた。
大体一年に一回、惑星、“エリン”に水分を補給しに来るのである。
「さあて、ついてきたSAKANAの群れはなんだ」
巡航艦のブリッジに緊張が走る。
大型のSAKANAの遠距離ダイブジャンプに便乗する形で、小型のSAKANAの群れがついてくるのである。
“ジェーン”が大きくブリーチング(ジャンプ)、辺りに白い波を輝かせる。
その後を黒い点が沢山続いた。
「“エリン”に通信、今年の群れは“イワシ”だっ」
“イワシ”、体長1メートル弱、群れを作る。
宇宙ステーションの中に、短距離ダイブジャンプで入ってくる。
“マグロ”や“カジキ”のように体長が10メートル近くあれば、基地内などの狭い所には入りにくいのだ。
「“エリン”に一応、警戒態勢をとらせろ」
「それから、宇宙漁協に連絡だ」
“イワシ”は、とれやすいSAKANAである。
「本艦は、“エリン”に向け短距離ダイブジャンプだ」
巡航艦はゆっくりと白い波を出しながら、ダークマターの海に沈んで行った。
“ジェーン”は、“イワシ”の群れを引き連れながら、ダークマターを大きな尾びれでかいだ。
“エリン”まで三日の距離である。
◆
惑星“エリン”の軌道上近くに、大漁旗を掲げた、“宇宙漁船”が集まっている。
“ジェーン”についてきている“イワシ”を獲る為である。
“ジェーン”が少し離れた所にダイブアウトしてくる。
それに続くように、“イワシ”の群れの黒い塊が現出した。
「ひゅ~、大漁だぜ」
外宇宙に出ずともSAKANAが取れる。
“宇宙用魚群探知機”には、イワシの反応で一杯である。
「おいっっ」
突然大きな声が、無線を介して周りの漁船に響き渡る。
ひと際古い船、この道70年の老漁師“源さん”である。
年季の入った漁船のブリッジで双眼鏡を覗いていた。
「シゲッ、SAKANAは、必ず自分の目で確かめろっていつも言ってるだろうがっっ」
「半分以上“イワシモドキ”じゃねえかっっ」
「“イワシモドキ”、や、やばいよ、源さん」
イワシモドキ、別名、イワシカマス。
大きさ、形共にイワシに似ているが、口を開ければ鋭い牙が出てくる、肉食のSAKANAである。
最悪なことに人は、イワシカマスにとって丁度良い大きさの獲物である。
「辺境パトロールさんに連絡して、非常事態体勢を取らせろっっ」
「ステーションの中にも入るぞっっ」
「全漁船、戦闘態勢だっっ」
「分かった、源さんっっ」
“エリン漁業組合”の全漁船が、分厚いシャッターで窓をふさぎ、電磁漁網を最大限展開、戦闘態勢に入った。