第五十九話、奪還
「317、小惑星帯周縁にダイブアウト」
管制士のイナバ・ヨが答えた。
小惑星内にダイブアウトは危険だ。
海上(宇宙の三次元側)に出た瞬間に、小惑星にぶつかるからだ。
ガラリア軍から通信が入り、座標が指定される。
「指定された座標をフェンリルウールヴとソウダマルに伝えます」
通信士のイナバ・ミだ。
ユキノのハーレム船、”エクストラコールド”が青白い(氷山の青)船体をひるがえし、指定された座標に飛ぶ。
◆
「あれですね」
ミユキが、重ハーレム艦、”フェンリルウールブ”の艦橋に置かれたゆったりしたソファーで言った。
となりに、身重であるヤマも座っている。
遠距離ズームで写されたモニターには、三つの艦影が映っていた。
「二艦は、ガラリアの戦艦、”文福茶釜改”で、一艦が特殊仕様……”穏神刑部”なんじゃないかな」
監察官が言った。
”穏神刑部”は索敵や探査に特化している。
「敵艦の横から砲撃できるように回り込むよ」
「主砲の射程距離までステルス状態で行こう」
艦長席に座ったハロクだ。
「「アイアイキャプテン」」
艦を操縦していた、”海賊女王ツインリンクス”のフィギュア(一分の一アンドロイド)が答えた。
◆
「ミケ様からの暗号通信を傍受ですニャ」
「左の、文福茶釜改級から出てますニャ」
クロが、夫であるキジに伝える。
キジもクロも長靴族、二本足で立った130センチくらいのネコである。
執事とメイドの服を着ている。
「接舷させるニャ」
キジが答えた。
ソウダマルは小型のニンジャ艦だ。
ステルスでなおかつ光学迷彩を使い、目視でも発見されなかった。
静かに敵艦に近づく。
「ここですにゃ」
ミケに指定された脱出口に、連絡通路用の接続チューブを伸ばし接続した。
プシュン
音を立ててハッチが開いた。
「速かったな」
ミケがマリアを連れて、ソウダマルに移動する。
「エクストラコールドにむかえ」
ソウダマルが低温イオンジェットを吹かし、エクストラコールドに艦を向けた。
◆
ビイイビイイ
けたたましく警告音が鳴り響く。
「大変です、人質に逃げられましたっ」
マリアを乗せていた、文福茶釜改の艦内だ。
「しばらく前に、外部ハッチが開閉した記録がありますっ」
すぐに、特殊艦、”穏神刑部”に知らされた。
即座に搭載された高度な探査装置を起動。
「くっ、ネコマタ星のニンジャ艦っ」
エクストラコールドに向かって逃げるソウダマルを発見したのである。
「ばれたかな~」
「ステルス解除、全力でエクストラコールドまで逃げろ」
ミケがキジとクロに指示を出した。
逃げ切った後ソウダマルはエクストラコールドと合流。
ミケとマリアは連絡通路を繋ぎ、エクストラコールドに乗り移った。
「マリア母様っ」
「ああ、フェリシア……」
マリアとフェリシアが再会する。
お互いを痛いくらいに抱き締めた。
ガラリアの軍艦が武装を展開、宙間活動機を複数出撃させる。
「なあ、フェリシア、母親に酷いことをした相手に仕返ししたくないか?」
ミケがフェリシアに聞く。
「……」
フェリシアがマリアの顔を見た。
マリアが一瞬心配そうにしたが小さくうなずく。
「したいですっ」
「よし、こいっ」
「”豆狸五式”で出るぞっ」
ミケだ。
「はいっ」
フェリシアが大声で答えた。
「……フェリシアをよろしくお願いします……」
マリアがミケに頭を下げた。
「ワシもミスリルアックスで出撃するっ」
ドワイトだ。
「よしっ、行くぞ」
「行きましょう」
キバとユキノが一緒に答えた。
ガラリア軍と戦闘が始まる。




