第五十五話、おねえしゃま
炬燵的猫談義。
「ミケさまですねっ」
「わたしのおねえしゃまになってくださいっ」
フェリシアが元気一杯に言った。
酒場の猫系獣人用特別居住スペース(畳と炬燵)だ。
「んん?」
ミケがめんどくさそうにフェリシアを見た。
お猪口の酒を口元に運ぶ。
肴は、宇宙スルメの一夜干しだ。
フェリシアが畳の上の炬燵にちょこんと座る。
靴を脱ぐんだ。
「お前……」
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[生体ユニットと言っていたな]
高速猫言語だ。
使いこなすには高度な訓練が必要である。
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[はいっ、マリア母様が、こ~しゃくれいじょ~である、ミケさまにマスターになってもらいなさいといわれましたっ]
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[きっと守ってもらえるからと]
バフッ
太った猫が炬燵から顔を出した。
キジとクロは初めから左右にいる。
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[お前はなんだ?]
お猪口に酒を注ぎながらミケが聞いた。
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[……シュレディンガー搭載型……]
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[そこだ。 お前、”ネコヒゲ”がないだろう]
ネコミミとネコシッポ以外は普通の少女だ。
スキル、シュレディンガーで量子化した時、”ネコヒゲ”がないと自分がどこにいるか分からなくなる。
最悪、量子のまま迷子になり、永遠にさ迷うことになるのだ。
自分と周りの相対化が出来ない。
故に、ミケも、”シュレディンガー”は使えない。
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[わたしは、”ネコヒゲ”無しで使えるようにつくられたそうです]
シュルン
フェリシアの髪の毛が一気に伸びる。
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[これでも、”ネコヒゲ”一本分のはたらきしかないそうです]
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[ガラリア帝国の、”猫獣人強化計画”か……]
太った猫、ブンタが言った。
彼は、コルトバ情報部の中佐である。
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[何か知っているのですかニャ?]
キジだ。
ガラリアのネットは、”MATATABI”トラップが多く情報が抜きにくい。
ネコは、”寝子”だ。
一日の八割を寝て過ごす。
流石に猫系獣人は寝て過ごさないが、ニ割しか働かない。
勤勉な犬系獣人が、ネコのスキルを持つと銀河がとれると言われている。
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[帝国は、それをどうにかしようとしたんだよ]
ブンタが答えた。
将来的には、人がネコのスキルを使えるようにする。
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[はあ、軍事機密のオンパレードだな]
後戻りは無理か
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[分かったよ。 お前のマスターになってやる]
「ゴ~ロ、ゴ~ロ」[ただしっ、機体にネコミミとネコシッポをつけろ]
とても大事なことである。
ミケが、お猪口を煽った。
チラリと酒場にいる女性を見る。
「ありがとうございますっっ、おねえしゃまっっ」
フェリシアが大声で言った。
「平和だな~、一人増えたな」
キバが、また猫系獣人が炬燵の周りでゴ~ロ、ゴ~ロと喉を鳴らしているのを見た。
「キバ」
酒場の親父がキバに小さな声で話しかけた。
「なんだ?」
「お前、コネコの保護者になったな?」
「ああ、まあそうだな」
フェリシアは、ユキノハーレムに参加している。
「あれをみろ」
くいっとあごを動かした先には、黒いサングラスとマスクをした猫系獣人の女性がいた。
フェリシアの
「ありがとうございますっっ、おねえしゃまっっ」
の声にうんうん頷きながら頭の上で大きな丸を書いていた。
「ここだけの話にしといてくれよ」
顧客の情報に関わる。
「あの見るからに不審な女性」
「宿泊台帳に、ガラリア帝国語で、”マリア・マクレガー”と書いている」
酒場の親父が小さな声で言った。
少女の名は、”フェリシア・マクレガー”だ。
「!!」
「コルトバの本星に連絡しといた方がいいぜ」
「それと、あの女性を……」
「わかった、ユキノッ」
「何ですか、キバ様」
「ユキノ、かくかくしかじかだ」
「分かりましたわ、そのようにします」
翌日酒場に、ガラリア帝国・第三局の強襲部隊が強行突入を行った。




