第五十四話、豆狸、五型
「これか」
酒場の親父がうなった。
酒場の裏にある格納庫に未確認機を運び込んだ。
キバの脱出ポッドもそうだが未確認な漂流物は、宇宙冒険者ギルドに持ち込まれる。
「にてるな……」
”豆狸”にだ。
少し大きくしてスマートにした感じである。
特徴的な左右のシールド。
流線型のボディ。
飛行形態だ。
「これは」
監察官だ。
前と同じようにデータ収集用のドローンが三機舞っている。
「最新の球体操縦槽だ」
ミケが興味なさそうに言う。
ガラリア帝国が採用していたな。
「生体反応はありますよ~」
R-66が答える。
「あ、お姉さま」
ユキノがそっと立っていたヤマに椅子を出した。
「ありがとう、ユキノ」
身重のヤマが座る。
「開けてみるか」
キバが機体に近づく。
「あら、開け方は私(豆狸)と一緒ですよ」
オマメさんだ。
「みたいだな」
首の根元にある非常用パネルを開けレバーをひねった。
これで首がフリーになる。
透明のカバーと三角の顎で顔のように見えた。
一度上に持ち上げ後ろにスライドさせる。
球体操縦槽の入口が見えた。
入口の縁には、”特殊艦、穏神刑部所属、二十式、豆狸五型”とあった。
「ふうむ、オマメさんの最新型か?」
ツマミをひねりハッチを開ける。
球形のコックピット。
中には、前部にアームに支えられたシート。
シートから後ろに、人が余裕で入れるくらいの円形のリングがついている。
「モーションキャプチャーコントロールッ」
監察官が驚きの声を上げる。
細かな作業をするとき用の最新装備だ。
搭乗者の体の動きをトレース(まね)する。
重力制御されたリングの真ん中に、幼い子供が丸くなって眠っていた。
ネコミミとネコシッポがついている。
◆
「ガラリア帝国軍所属、ま、豆狸五型装備、”シュレディンガー”搭載型支援用生体ユニット、コードネーム:サンダー01、パーソナルネーム:フェリシア・マクレガー、5才ですっっ」
ネコミミ少女が元気一杯に大声で答えた。
「おおお」
「よく言えましたあ」
「かしこいねえっ」
ごろつきたちが野太い声でほめたたえる。
「えへへへ、幼稚園の先生にもほめられましたっっ」
嬉しそうにシッポがゆれる。
当たり前だがS級の軍事機密だ。
パチパチパチ
酒場の片隅でスタンディングオーベーションをしている女性がいる。
黒いサングラスとマスクと白衣を着けていた。
ネコミミとネコシッポがゆれる。
「ど、どうする?」
キバだ。
「どうしようか」
酒場の親父が答えた。
生体ユニットって言ってたしなあ
「とりあえず、捜索ねがいが出てないか調べてみるよ」
「あ、オマメ母さま」
フェリシアが姿を現したオマメさんに大声で言った。
豆狸五型は、豆狸の正統後継機、いわば、”娘”に当たるのだ。
「まっっ、キバ様、隠し子ですかっっ」
ユキノだ。
オマメさんから旦那様とよばれているが、
「流石にそれは無理がないか?」
「……そうですわね」
「ま、いいですわ、フェリシアちゃんといいましたわね」
「行くところが無いのならうち(ハーレム)に来なさいな」
ユキノが言う。
ユキノハーレムに、リアル幼女が参加した。
黒いサングラスとマスクを着けた白衣の女性が、ホッとした様子の後、力一杯うんうんとうなずいている。
豆狸五型を、”金長狸”。
フェリシアを、”おキンちゃん”。
にするのを我慢しました。




