第五十三話、フェリシア
ガラリア帝国。
巨大宇宙怪獣を退治するための組織がもとになる、超軍事国家である。
ガラリア帝国軍、特務機関”ウエザーコントロール”第七分局、局長室。
「コードネーム、サンダー01が除籍処分になる」
重厚な机の奥に座った三十代半ばの男性が言った。
机には、”きょくちょう”と書かれた三角錐の置物。
床には子供用の小さな毬が落ちていた。
「そんな、まだ小さいんですよ」
金髪の二十代半ばの女性だ。
白衣を着て胸には、”マリアしゅにん”と書かれたネームプレートがついている。
「……記憶を消されて、里子に出される」
「今回ばかりはもみ消せない」
サンダー01が幼稚園で、”第一から第三皇子全てがヅラである”ということをバラしてしまった。
S級の超国家機密だ。
「あのね、あのね~、あの人スパイなのよ」
敵国のスパイを幼稚園の先生の耳元で教えたときは何とかなったのだが。
「ナカムラ中佐っ、幼稚園では隠し事をしてはいけないと教えられていますっ」
女性が叫ぶ。
「……”猫獣人改造計画”は凍結される」
「除籍は、一週間後だ」
ナカムラがゆっくりと立ち背中を向ける。
ネコミミとネコシッポがゆれた。
「第三ポートだ」
ハッとマリアが何かにきづいた。
「追ってきてください」
一緒に小学校の入学式に出ましょう
マリアの声に、背中を向けたナカムラは何も返さなかった。
マリアのネコミミとネコシッポもゆれる。
◆
「ん~、マリア母さま?」
「どこ行くの~」
マリアは、小さなベットから小さな女の子を抱き上げる。
女の子がマリアにギュッとしがみついた。
「フェリシア、いい子ね。 オマメ母さまの所に行きましょう」
金髪の頭を撫でる。
「う~~ん」
女の子はマリアの腕の中で眠ってしまった。
フェリシアのネコミミとネコシッポはふせられていた。
その後、第三ポートから小型の宇宙艇がひっそりと出港する。
目的地は、”エリンステーション”だった。
◆
一週間後。
「ナカムラ局長、サンダー01をどこに隠したのです」
神経質そうな声だ。
後ろに、胸にMPと書いた武装した兵士がいた。
「……サナダ少佐……」
「ふう、調査には、”第三局”を使います」
第三局は、暗殺、破壊工作、何でもありの部署だ。
「更迭しろ」
ナカムラが、後ろ手に手錠をかけられ連行される。
うまく隠してくれ、マリア主任
ナカムラが心の中で祈った。
◆
「おやっ、このIFF(味方識別)信号は?」
旧日本宙軍の宙間活動機ものですね。
もう百年近く使われてないはずですが。
ふむ。
「旦那様、ユキノ様、少しお話が……」
オマメさんが二人の前に(ホログラフの)姿を現す。
「なんだい?」
「何ですか?」
「ええ、正体不明の機体が漂流しているのです」
「IFF(味方識別)信号が、旧日本宙軍のものなのです」
「旧日本宙軍……」
「キバ様、行きましょう」
「分かった」
エクストラコールドで、正体不明の宙間活動機を回収する。
操縦席には、幼い猫の獣人が眠っていた。
ニッチな需要:ネコミミ、ネコシッポの中年男性。




