第五十一話、○○の様子がおかしい。
”アタミ旅行から帰って来た○○の様子がおかしい。”
◆
ユキノお嬢様の朝は、セントラルロイヤル調のモーニングから始まる。
えーと、なんだ、半熟玉子が殻付きで玉子スタンドに乗って出てくるような感じだ。
「ユキノお嬢様、飲み物は、紅茶ですか、それともドクダミ茶にしますか?」
「高級青汁もございます」
ユキノが酒場のテーブルの上を見回した後、(セントラルなんちゃら調の朝食があった)
後ろを振り返った。
伊達メガネを片手でチャキリと上げる、清楚なメイドが立っていた。
ガヤガヤと朝のラジオ体操を終えた、ごろつきたちが入ってくる。
「うおっ、ユキノちゃん、今日はえらい贅沢な朝食だなあ」
「ほんとだ、いつもは、オヤジの朝定食だろう」(ちなみに今日のおかずは、焼シャケと納豆である)
「……ええと、こちらの方は?」
ひっつめ髪の、180センチ近い身長のメイドを指差した。
「ヤマ……お姉さま……」
清楚で可憐なメイドが両手を頬に当て、うっすらとうなずいた。
「えっ」
「「「えええええええ」」」
酒場が大騒ぎになった。
◆
隣のテーブルだ。
「ハロク、朝食を作ったの、……食べて」
テーブルの上には、カリカリに焦げたベーコンや卵、黒い煙を上げているパンなどが皿に乗せられている。
「ミ、ミユキさん」
「なあに?」
にっこりと笑う。
ユキメ族は美人な種族だ。
日頃無表情なミユキの笑顔の破壊力がすごい。
周りが、桃色の空気に染まった。(←再び、横溝正史著、『八つ墓村』参照)
ちなみにハロクは、裸エプ〇ンを装備しようとするミユキを死に物狂いで止めている。
「はい、あ~ん」
焦げてあ~ん、なベーコンがハロクの口に放り込まれる。
「どう?、美味しい?」
「に、苦っ、お、美味しいよ」
「ふふふ、良かった」
頬を染めて俯く姿は、初々しい新妻そのものだ。
その後、ミユキお手製の朝食を完食。
ハロクが、”漢”を見せた。
「うおっ」
「こっちはなんだ?」
「ユキノちゃんのお姉ちゃんじゃねえか?」
「無表情の……?」
◆
「これは、何だ?」
旅先で変なものでも食べたか?
う、うなぎパイか?
キバが青い顔をした。
清楚なメイドが、胸元の赤い宝石を手で触る。
「はっ、お姉さま。もしや……」
よく見ると、宝石が桜色に変わっている。
コクリとうなずいた。
「監察官お義兄様には報せましたの?」
「これからですよ、ユキノ」
ハロクの隣に座っていた監察官の所に、ヤマがそそそと歩いて行った。
「おはようございます、旦那様」
ヤマが監察官の前で頭を下げる。
監察官が胸元の宝石をじっと見る。
ササッ
どこからともなく、オムライスとケチャップが監察官の前に並べられた。
「おいしくな~れ、おいしくな~れ」
「萌え萌えキュンッ!」
清楚なメイドがオムライスにハートの絵を描いた。
「いいっ!! ヤマさんっ、その知識はどこからっ」
「じゃなくてっ」
「ヤマッ」
コクリ
ヤマが自分のお腹を優しく撫でて、ゆっくりとうなずいた。
「でかしたっっ」
監察官が、ヤマを横抱きにしてくるくると回る。
ヤマは、両手で顔を隠して恥ずかしそうにしていた。
「もしかして、ミユキさんも?」
ハロクがミユキの手を取った。
「はいっ」
ミユキが幸せそうに答えた。
「ミユキッ」
ハロクが、優しくミユキを抱きしめる。
「これが、”宇宙一、恋人やお嫁さんにしたい妊婦さん”……か」
酒場の親父だ。
コルトバ星の環境は過酷である。
コルトバの女性は、日頃抑制されている女性ホルモンが妊娠することによって、過剰放出されるのだ。
「うおおお」
「めでたい」
「ヤマちゃ~~~ん」
ヤマにがぶり寄ったごろつきの一人が、”A〇フィールド”に吹き飛ばされる。
持ち主が妊娠して桜色に変わった、”アイスタイタンの心臓”の特殊効果だ。
「ヤマお姉さまに、ミユキお姉さまもっ」
「おめでたいですわ~~」
「キバ様っ、私たちも結婚したら、”アタミ秘〇館”に行きますわよ~~」
子宝を授かる確率、100パーセントは嘘ではなかったのである。
ヤマとミユキ、懐妊。




