第四十八話、高速猫言語
ミケ・ナマリブシは、”クノイチ”である。
バウンティーハンター(賞金稼ぎ)は、世を忍ぶ仮の姿だ。
ネコマタ星のネコ侯爵家の令嬢でもある。
キュ、キュ、キュ
隠密仕様の、ブレスレットコマンダーが小さな電気ショックを出した。
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[むっ、この船に、エダ(盗聴器、発信機)がついてるな]
ミケだ。
両隣の、キジとクロ、正面の、”太った猫”に話しかけた。
”高速猫言語”だ。
炬燵に入った背中がさらに丸くなる。
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[確かについてマスにゃ~]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[そうですニャ~]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[…………]
◆
”高速猫言語”
猫族が使う、のどを鳴らすことによって高速で会話が出来る言語。
微妙な速さの違いと音程で、ゴロという一音に十近くの意味を持たせることが可能だ。
しかしその微妙な違いを、ネコミミでしかとらえることは出来ない。
ゴロゴロ言っている猫は、高速でお互いに会話をしているのだ。
いまだに、猫族以外の翻訳は成功していない。
例:ゴ~ロ、ゴ~ロ、(訳、ひとよひとよにひとみゃごろ)
ゴ~ロ、ゴ~ロ、(訳、ひとなみゃにおごれや)
◆
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[?、平方根ですかニャ、ミケ様]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[いや……何でもない]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[どうしマスかニャ]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[行ってきますかニャ?]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[ふ~む……、よしっ、翔ベっ]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[キジ、メイン、クロ、サポート]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[[了解ですニャ~]]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[”種族特性、シュレディンガー”、発動ですニャ]
キジとクロが、量子ネットワークの中に直接、翔んだ。
◆
”種族特性、シュレディンガー”
猫族に太古から伝わる、自身の体を量子化する種族特性。
過去には、
疋田にゃんこ―の箱抜けマジック。
木の上で首だけ出してニヤニヤ笑う。
質量を持った量子だとっ。
などの記録がある。
量子ネットワークの中を、自在に翔べるのだ。
◆
キジとクロは、量子ネットワークの中を、盗聴器の発信元まで翔んだ。
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[こ、これは]
発信元を確認して、ミケの元まで帰った。
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[かくかくしかじかでしたにゃ~]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[そうか……、一応オマメさんに報せておこう]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[了解ですニャ~]
報せた。
「ああ、気づいてますよ」
「何かのサプライズでも考えているのかもしれませんね」
オマメさんは、発信元をすでに知っていた。
流石は、稼働時間600年近い優秀なAIだ
ミケが感心した。
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[おいっ、無関係の俺に簡単に聞かれていいのか]
太った猫だ。
バフッ
炬燵から顔を出す。
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[ちょっと不用心じゃねえか、ナマリブシ家の御令嬢様?]
ミケと、キジとクロが、”太った猫”を見る。
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[いえ、コルトバの諜報部のかたと見受けられます]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[いざという時に、協力を要請したいのですが]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[ふんっ、ばれてたのか]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[コルトバ諜報部中佐、コードネームは、”ブンタ”だ]
太った猫である、”諜報部中佐、ブンタ”が答えた。
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[ここの主は能天気だ、お互い気をつけていこうか]
ゴ~ロ、ゴ~ロ、[はいっ]
ミケが答えた。
ネコスパイ、”ブンタ”。
この道三〇年のベテランであった。
”振り向けば、あなたの後ろに猫スパイ”
猫は、”春”の季語らしい。
「平和だなあ」
キバは、四匹の猫が炬燵でゴ~ロ、ゴ~ロと喉を鳴らしているのを見た。
「う~ん、素直に一緒に行こうと言えばいいのに」
裸でヤマの腕の中にいる、監察官がつぶやいた。
彼の攻撃型戦闘艇、”ピグマリオン”は、”エクストラコールド”の索敵範囲ぎりぎりをついてくる艦を補足していた。
エダの発信元だ。
フェンリル級重ハーレム艦。
ミユキとハロクの乗艦である。




