第四十六話、続、仕事
「ふふふ」
女の形をしたナニかが、こらえられないように愉悦の声を出した。
瞳には、いんぴで蠱惑的な色が浮かぶ。
まるで、自分の存在理由を証明するように。
左手には、アイスピック。
右手には、片刃の刃物。
ナニかの前には、丸い木の入れ物。
その中には、大量の細くて、黒いものがうごめいていた。
自身で、粘液を出して、体の表面はぬめっている。
血液に毒があった。
(デーデッデッデ、デ~デ~デ~ッ♪)←デスでメタルなBGM
ナニかがためらいなく、木の入れ物に腕を突っ込む。
生き物の首を掴んだ。
ビチビチビチ
細長い生き物が、周りに粘液をまき散らしながら暴れた。
「アイム、キルマシ~~~~ン♪」ナニかが、デスなヴォイスで歌い始めた。
(デ~デ~)
ダンッ
生き物の頭を木の板に、アイスピックで打ち付けた。
ビチビチ
「SA・TU・GA・I~~♪」←ガラガラ声
(デーデッデッ、デ~デデ~ッ♪)
「SE・BI・RA・KI~~♪」(←関東風)
背中から刃を入れ、尻尾まで開く。
「キルマシ~~~~ン♪」
「I・KI・GI・MO~~~~♪」
(デデデッ、デ~デデ~ッ♪)
「すまんなあ、これの、捌き方だけはわからなくて」
酒場の親父だ。
宙間魚類(SAKANA)の、”スペースイール”である。
ぶつ切りにして煮込んだら、ぬめりが寒天状になって、英国面あふれる料理になった。
少し生臭いが、食べられないことはないらしい。
「いえいえ~~、SA・TU・GA・Iと、死体の処理方法は任せてくださいっ」
醤油と酒と砂糖で作ったタレにつけ、スペース七輪で焼くのだ。
大量の”スペースイール”を、SATUGAIする、R-66は、ご機嫌で歌い続けるのだった。
R-66は、酒場の厨房でアルバイトをしている。
「監察官、これって」
キバだ。
酒場は、香ばしくて甘い匂いに包まれている。
天井近くに煙がただよっていた。
「ああ、まぼろしの高級料理、”ウナジュ―”だ」
ゴクリッ
「お、おやじっ、”ひつまぶし”にしてくれっ」
キバが叫ぶ。
「そ、それはなんだい、キバ君っ」
監察官が聞く。
おやじと監察官に説明した。
「き、肝吸いまで……!!」
「美味しいなこれっ」
「美味しいですわ、キバ様」
その日の酒場の夕飯は大賑わいになった。
「美味しいですニャア、ミケ様あ」
「ふっ、ああ、そうだな」
ミケは、酒場の喧騒を冷めた目で見る。
お猪口を煽った。
彼女のテーブルには、小皿に乗ったウナギの白焼き。
そして、いつもより良い、”清酒”が徳利に入れられていた。
ふっ。
全生命体殺戮機械群が、鰻を捌く。
ただ、それだけの物語。




