第四十五話、仕事
「そういやあ、新婚旅行にはいかないのか?」
プシュン
キバが宙間活動機、”豆狸”の操縦桿を動かした。
人型形態である
姿勢制御用のバーニヤが軽くふかされる。
「あんっ」
オマメさんだ。
首を後ろにスライドさせてオープンコックピット状態である。
両腕のシールドは取り外されていた。
隣のステーションの整備用ドッグだ。
目の前には小型のクルーザー(小型宇宙船)。
青白い、氷山の色をしている。
”永久凍土装甲”の整備に来ていた。
キバはオマメさんで、ユキノの仕事を手伝っている。
「新婚旅行ですか?」
後部座席に座ったユキノだ。
インフラビジョンッ
コルトバ星人と某エルフが所有するスキル。
サーモグラフィのような視界だ。
「ここですわね」
装甲内に、熱が溜まっている所を発見。
フウウウウ
熱量奪取で直していく。
「うん」
キバの生きた時代では、一生に一度の旅行。
日本以外、海の底に沈んでいたから同一規格の隣の、”海上都市”に移動するだけなのだが。
「こねくりまわさないでえ」
「ハネムーンベビーに報奨金が出てたなあ」
「あらっ、それいいですわねえっ」
昔のコルトバ星で旅行するということは、南極や北極を移動することと同じだ。
”旅行”という言葉自体、文明開化してから出来たものである。
「この仕事が終わったら、皆で行きましょうっ」
「もう少し下にお願いします」
「あっ、いや。 おうよ」
「ああんっ」
キバがレバーを倒し、豆狸を少し下に移動させた。
新婚旅行は、新婚さん二人が行くんだがなあ
「ま、いいか」
キバは、嬉しそうにしているユキノを見ながら、小さくつぶやいた。
「そ、そこですう」
非常事態ではないので、オマメさんが絶好調である。
◆
「新婚旅行っ、いいですねえ」
監察官が、空中に表示されたキーボートを打ちながら言った。
KAMAKURAドームに、カッパドキア。
スノーオーガーの結婚式に、婚姻の試練。
カイセンドン。
そして、コルトバ鹿鳴館と、”女王様とお呼び”ミッション。
文化的にも文明的にも貴重な経験である。
監察官として、”全文代”に報告する、重要な責務があった。
「氷の洞窟内には、ワサビとオオバの群生地があった……と」
キーボードで打ち込む。
「行きましょう」
「いいぜいいぜ、いこう」
膝の上に監察官を乗せた、ヤマが言った。
「ふむ、新婚旅行の定番は、惑星”ホッカイドー”か、惑星”アタミ”くらいかなあ」
「でも、ホッカイドーは寒いので、アタミかな?」
酒場の親父だ。
「ではっ、皆でアタミに行きましょうっ」
ユキノが元気に言った。
「おうっ」
「はいっ」
ユキノハーレムの皆が答えた。




