第四話、オマメ
”日本沈没”と、”日本以外、全部沈没”というSF作品がある。
「ボクの船から運んでくれた?」
アンドロギュヌス監察官が、酒場のおやじに言った。
「おお、運んどいたぜ」
酒場の裏は、巨大生物の素材や、武器などを入れる格納庫になっている。
有料で使用が可能だ。
宇宙には、”バッドライフ“と言って、生命体全てを破壊しようとする機械群もいる。
また、全”人型宇宙人類“は文化的で最低限度な生活をしなければならないと、”全文代“の憲法にもあった。
長期コールドスリープから覚めたキバには、最低限の生活費と”アンドロギュヌス“のような監察官が、ついた。
「700年位前の、地球人類はほんとに混沌としていて、生き証人であるキバ君は貴重だよ~」
無秩序に宇宙に拡散して、ほとんどがキバのように行方不明になっているのだ。
「ニホンゴ―の意味すら分からないからね」
「二ホンとかいう国以外、海の底に沈没して、国が二ホンに統一されたとか何とか」
「ふふふ、当時の人に聞くよっ」
「キバ君、ちょっといいかい?」
「? なんだ?」
「見てもらいたいものがあるんだ」
キバが、酒場のおやじを見る。
「良いぜ、俺も行くから」
しばらく店は、他の店員に任すようだ。
「あら、どちらへ?」
「姫様~」
当然のように二人がついてくる。
酒場の裏にある格納庫に移動した。
◆
格納庫には、一機の”宙間活動機“が置いてあった。
全体的にずんぐりとしたフォルム。
人型だが、腕と足が腰ごと後ろに回され、腰の装甲が前に倒されている。
”高速移動形態“だ。
両二の腕にはフレキシブルアームを介して、巨大なシールド。
シールドには、丸い推進器がついている。
頭は、真ん中に大きなカメラ、それをとり囲むように小さなカメラが4つ。
首の根元から、後ろに大きくせり合がっている。
その下に複座型の操縦席が見える。
「零五式宙間活動機?」
キバは、昔これの操縦者だった。
「いや、少しでかいな」
記録用のドローンが三機、倉庫内を舞っている。
少し離れた所に机が置かれ、モニターが三個乗せられていた。
酒場のおやじも含めた、四人がモニターの前に並ぶ。
「600年位前の機体だよ。 記録させてもらうからね」
失われた文化の調査も、”監察官“の仕事だ。
「ふむ」
キバが、操縦席に上った。
操縦席のふちに
”重宇宙軍艦、”文福茶釜”所属、九五式宙間活動機、”豆狸”、S・ヒイラギ、T・メグミ“
と書いてある。
「九十五年式だから、五年式から90年後の機体か」
前の操縦席に座る。
ごちゃごちゃと機械式のメーターや、ボタンやレバーやツマミが、所せましと並んでいる。
フットペダルは、片足に二個、計四個あった。
前と斜めにモニターが三枚。
膝と膝の間に小さいモニターが一枚。
「この辺は変わらないな」
「起動していいか?」
キバが大声で、監察官に聞く。
「ニホンゴ―は大丈夫か?」
「???」
ニホンゴ―??
カキン
太ももの横にある大き目のつまみを、三本の指で回した。
メインスイッチオン。
『デーデン、さて質問です。 富士山の標高は何メートル?』
機内のスピーカーから聞こえてくる。
しばらく『』内は日本語です。
「え?」
確か、ソレントの、”祖国解放砲“で丸く削られたから
『1225メートル』
『ピンポーン』
『第二門、”戦車道”を扱った国威高揚作品で、”雪の進軍”を歌ったのは?』
『え~と』
『チックタック』
太もものモニターの数字が5から減っていく。
『ユカリさんとミホさん?』
『ブッブ~』
『第三問、改造獣人兵、”野良九郎”の階級は?』
『三等兵』
『ピンポーン』
『第四問、人型決戦兵器の内部電源の活動限界は?」
『ん~と、5分?』
『ピンポーン』
第十問まで続いた。
「なんだこりゃ?」
ヴブン
操縦席のメーターの上にある、20センチくらいのステージの様なものに、着物を着て、三つ指をついた日本女性が現れた。
立体ホログラフである。
泣きホクロが色っぽい。
『おかえりなさいませ、旦那様』
◆
『大和撫子か?』
キバが思わずつぶやいた。
「ヤマトナデシコッ、地球人類の理想的な女性の代名詞ですわねっ」
「過半数が、リョ―サイケンボーというスキルを持つとか」
ユキノが、ドローンで女性を写しているモニターにがぶり寄る。
『先の質問により、9割以上の確率で、貴方様は日本軍人であることが判明しました』
『貴官の階級とお名前を教えてください』
『木場 太一郎、軍曹だ』
『操縦者として登録しました』
『私は、九五式宙間活動機、”豆狸”の支援用人工知能(AI)です』
『おマメとお呼びください』
『んんん?』
『おマメとお呼びください』
『お、おう』
嫌な予感がする。
『おマメを、起動させますか?』
『……ああ』
『ではここを、つまんでください』
ツマミの前に矢印のホログラフが浮かぶ。
つまんだ。
『アンッ』
『…………』
お前もか?
幸い?操作はあまり変わっていないようだ。
流れるように操作する。
カチ、 カチ、 カチ、
『そこですっ』『押してくださいっ』『つねってくださいい』
カチ
『ああアアあ~』
ホログラフの矢印が目まぐるしく移動した。
フットペダルを軽く踏み込む。
『最後は優しく踏んで~~~~』
『〇ッチャウ~~~~』
ドウウン
『はあっはあっ、予備発電機、励起状態にタッシました。』
「監察官んんんん」
キバは操縦席から飛び出した。
「……キバ、お前……」
酒場のおやじが、とんでもないものを見るような目で見ている。
「これが、……ヤマトナデシコ……!?」
ユキノは、頬に手を当てて顔を赤く染めている。
「やるじゃないかっっ」
ヤマが肩を叩いて来た。
「機械〇? 機〇姦??」
十二単の女装をしている監察官は、いまにも注射器をぶっ刺しそうだ。
「くっっ」
「ボクじゃないよ、大体ニホンゴ―でしょ、喘ぎ声しかわかんないよ」
女っ気のない軍艦生活だ。
歴代のパイロットが、はい、いいえ、しか答えられないAIをここまで育てたのだ。
「消しちゃだめだよ、貴重な歴史的資料なんだから」
「ぐうう、……あと三回程、イカさないと主発電機が目覚めんっっ」
その後キバは、三回、”おマメさん“をイカセタ。
『〇ッチャウウウウウウウ』
「私の母船(ハーレム宮殿含む)に登録するわっ」
電子の妖精がハーレムに登録された。