第三十八話、氷の洞窟
「きれいな水だなあ」
キバが、渡し船の櫂を操りながら言った。
地底湖は、かなり下の方まで透けて見える。
「底の方は、海と言っていいくらい、広がってますね」
R-66が、言った。
地底湖の奥底で、キラリと発光器が光ったのが見えた。
”コウテイダイオウイカ”である。
全長、100メートルくらい。
それより大きい、”タイタンホエール・マッコウ種”と戦っているようだ。
R-66の生体レーダーが感知していた。
(食べるとおいしいんですよねえ)
R-66に、いく種類の、殺害と、死体の処理方法が思い浮かんだ。
「対岸が見えてきた、装備の点検をしよう」
カチャリ
監察官が、p90アサルトライフルの、マガジンを確認する。
「預かってくれないか」
ミケが、巨大な対物ライフルの弾倉を、監察官に渡す。
監察官は、種族特性、”収納ボックス”持ちだ。
受け取った、弾倉を四次元に収納する。
ヤマは、角隠しを被りなおし、ユキノとミユキは、バトルキモノの胸元を整えた。
ハロクは、小さなフィギュアを、二体飛ばした。
少女向けのアニメ、”魔法少女・剣客商売、邪妖精、ストームブリンガー”に出てくる、”邪妖精、ストームブリンガー”と”妖刀姫、ムラマサ”である。
戦闘時は、それぞれ、剣と刀に変身する。
キバは、足元のゲートルを締めなおす。
対岸にたどり着いた。
高さ五メートルくらいの洞窟が、先に続いている。
洞窟の奥は、暗くて見えない。
ヒュウウウウ
冷たい風が一瞬通り過ぎた。
「ここから先は、宇宙人類の領域ではない」
「何が起こるかわからない」
「試練は始まっている、締まっていこう」
監察官だ。
「おうっ」
「はいっ」
各自が答えた。
◆
「いますっ、コルトバ・タカアシガニですっ」
R-66だ。
三メートルくらいの巨大な蟹が、生物レーダーに引っかかった。
彼女は、全生命体完全殺戮機械群の端末である。
対生物戦の、専門家と言ってもいい。
「関節を狙ってくださいっ、身をつぶさないでっ」
味が落ちるっ
「分かったあ」
ヤマの、ツーハンドアックスの切れ味がさえる。
「凍らせますか?」
ミユキとユキノが聞いた。
「大丈夫だよ、僕の、”収納ボックス”内は時間が止まる」
凍らせなくても、鮮度は落ちないっ
監察官だ。
タカアシガニを、早速収納した。
他、ケガニ・ジャイアントも回収する。
「バランスボールウニです」
四方にトゲを出して、受動防御中だ。
「ひっくり返して、口から半分に割りましょう」
「了解」
「ミョウバンは使わないでっ」
「ついでに、リシリ・コンブも回収しときましょう」
コウキュウコンブである。
ウニにかじられた丸い穴が、開いているものだ。
「アイス・ダイオウグソクムシです」
5メートルくらいの、ダンゴムシの仲間だ。
「どうにか食べられますけど……」
広い宇宙のどこかに、料理して出してくれる水族館があると言う。
宇宙は広い。
「やめておこう」
カイセンドンにのらない。
「では殲滅です」
R-66がうれしそうに言った。
バガアアアン
ミケの対物ライフルがグソクムシを、吹き飛ばす。
「ばんざあああああい」
キバが、銃剣のついた三八式歩兵銃を腰だめに突撃した。
キバの、”宙軍中野学校式、銃剣突撃、万歳アタック”だ。
その速度は、軽く音速を越える。
10匹近い、グソクムシを全て倒した。
「フライング・シャケです」
地上に適応した、宙間魚類の一種。
カイセンド……以下略。
◆
「ここまでは、余裕だったかな」
監察官だ。
ユキノ、ミユキハーレムの脳筋ぷりが、いかんなく発揮されたのだろう。
一行の前に、氷の広場が広がっている。
奥に、握りこぶしくらいの大きさの、赤い宝石が宙に浮いている。
「どう見ても、ボス部屋だよね」
「全員、戦闘準備っ」
「おうっ」
「はいっ」
「突入っ」
広間に入った。
◆
「変身だ、”邪剣、ストームブリンガー”、覚醒っ」
今まで、黙ってついてきていたハロクが叫ぶ。
『わかったぜ、変身っ、ストームブリンガー』
黒い肌の、”邪妖精、ストームブリンガー”(のフィギュア)が、禍々しい邪剣に変身する。
『カラダヲヨコセェ、カラダヲヨコセエエ』
作中の主人公、エルの、”バーサーク”が再現されていた。
「血を啜れ、”妖刀、ムラマサ”」
『くくっ』
赤黒い着物を着た、”妖刀姫、ムラマサ”(のフィギュア)が、妖刀に変身した。
カタカタカタ
鞘なりが止まらない。
『くはあああ、今宵のワラワは、血に飢えておるわあ』
主人公の相棒、花沢さんの、”バーサーク”も再現されていた。
◆
広間の中央には、身長三メートルくらいの、アイスゴーレムと、
白髪に赤い目、白い着物を着た女性が複数立ち上がる。
女性は全身が薄く透けていた。
「”ユキオンナ”と、彼女たちの、”ハーレム”だっ」
ユキオンナの一人が、愛おし気に、赤い宝石、”アイスタイタンの心臓”を胸に抱いた。
ユキオンナとアイスタイタンは、ユキメ族とスノウオーガーの遠い先祖。
ユキノの、赤い目と白髪は先祖返り。




