三十七話、結婚式
「もうそろそろ始まるなあ」
キバだ。
カッパドキアについてから、一週間たった。
大広間の、”地底湖”の前に結婚式場が作られている。
バージンロードの左右に並べられた長椅子に、出席客が座った。
会場の中心に、司祭と、アンドロギュヌス監察官が立った。
この一週間で、皆は、装備を整えている。
「ヤマ姉ちゃんの装備は、”白無垢”ですわあ」
ユキノが、うっとりと目を細める。
衣装合わせにつき合ったそうだ。
「新婦の入場です」
パパパパ~ン、パパパパ~ン
入場曲と共に、父であるトウマにエスコートされたヤマが、バージンロードを歩く。
頭には、白い、”角隠し”。
”白無垢”が歩くたびに、カチャリ、カチャリと音をたてた。
トウマから監察官へ、ヤマが手渡される。
ヤマの目に一粒の涙が光った。
「健やかなるときも、病めるときも、共にいることを誓いますか?」
「誓います」
「誓います」
「それでは、誓いの口づけを」
「んっ」
監察官が、ヤマに顔を近づける。
カチン
額に跳ね上げた、四角い”多目的ゴーグル”が、ヤマの、”角隠し”に当たって、硬質な音を立てた。
カチャリ
監察官の突き出た胸が、ヤマの、”白無垢”の胸甲の当たる。
二人は顔を離した。
二人とも頬を赤く染めている。
「では、新婦(監察官)から、新婦へ、贈り物を」
「……ヤマ、これを」
監察官が、アイテムボックスに手を突っ込んだ。
ズズン
ムーンチタニウム製の巨大な、ツーハンドアックスを出した。
片手でヤマに渡す。
「……アニー」
顔を赤く染めながら、ツーハンドアックスを、金属製の肩当てに担いだ。
オオオオオオオ
会場に歓声が沸き起こる。
◆
”白無垢”
スノーオーガーの女性が、結婚式に纏う、”重甲冑”である。
白く染め上げられたスカートアーマーであり、首の周りにファーがつけられる。
頭には、頭突き用の角がつけられた、四角いヘルム、”角隠し”を被る。
これから番と作る、巣を(物理的に)守るという意思表示だ。
実用品であり、そのまま使い続ける妻も多い。
夫が妻に武器を送るのは、”俺のエモノはお前だけのものだ”と言う意味がある。
……ヤリ……が送られるのが一般的だ。
ちなみに、既婚者の、第一礼装に当たる、重甲冑、”黒留袖”
未婚者の、第一礼装に当たる、軽甲冑、”振袖”
のバリエーションがある。
振袖は、袖が長く、若い娘が纏うため、鮮やかな模様が入れられる。
TPOには気をつけたいところである。
◆
「この婚姻に異議のあるものはっ」
司祭が叫ぶ。
ドン
「異議ありっ」
司祭の後ろに座っていた、七人の部族長が、床に足を踏み付けながら言った。
ドドンッッ
「異議ありっっ」
出席者だ。
「異議ありっっ」
キバとユキノも混じる。
オオオオオ
「試練だっ」
族長だ。
「試練だっっ」
出席者である。
「”婚姻の試練”であるっ、”氷の洞窟”で、”アイスタイタンの心臓”を取ってくるがよいっ」
司祭が言う。
「心得たっ」
監察官とヤマが大声で言った。
「新婦たちの友人も協力してくれるっ」
オオオオオ
”フル装備”のキバたちが前に出た。
氷の洞窟は、地底湖の奥にある。
全員、地底湖に浮かべた、手ごきボートに乗り込んだ
◆
結婚式参加者装備一覧
監察官
多目的ゴーグル、防弾ベスト付きコンバットスーツ、p90アサルトライフル、グロック17、超振動ナイフ
ヤマ
白無垢、角隠し、ツーハンドアックス
キバ
旧日本陸軍軍服、銃剣付き三八式歩兵銃、南部十四年式拳銃
ユキノ、ミユキ
ユキメ族用バトルキモノ
ハロク
邪妖精、”ストームブリンガー”(フィギュア)、妖刀姫、”ムラマサ”(フィギュア)
ミケ
防弾ベスト付きコンバットスーツ、ダネルNTW対物ライフル、マテバオートリボルバー、超振動ブレード
R-66
モーフィング(可動式)装甲
彼女は、全生命体完全殺戮機械群の端末
存在自体が”装備”である。
以上で、”氷の洞窟”に挑む。
叙述トリック。




