第三十五話、挨拶
ランクSの宇宙冒険者は、単体で惑星を破壊可能。
「ユキノさんと、結婚を前提としたお付き合いを、許してほしいです」
正座をして、すっと頭を下げたキバの姿は、不動の巌のようだ。
「キ、キバ様ああ」
プシュウウ
全身ピンク色に染まったユキノは、いまにも倒れそうだ。
そっとキバがユキノの手を取る。
「ふふ、ユキノは、色々事情を抱えた子だ」
「よろしくたのむよ」
つないだ手を見ながら、トウマが言う。
地球人類の固有・種族特性、”根性”か
あらゆる状態異常をキャンセルする。
ユキノの種族特性、”熱量奪取、強”は無差別に相手の熱を奪いつくすものだ。
トウマは、平気な顔で手を繋いでいるキバを見て、ほっとしたような顔をした。
「幸せにおなり、ユキノ」
ユキナミが、優しく言った。
「はいっ」
◆
「ミ、ミユキさんを僕にくださいっ」
ハロクが、声を震わせた。
「……ついに捕まえたんだね、ミユキ……」
トウマがしみじみと言った。
「追いかけ始めて、五年かあ」
「色々迷惑をかけたねえ、婿殿」
ユキナミだ。
五年間ミユキが、ストーカーをしていたことは知っている。
「愛想をつかされないように気をつけるんだよ、ミユキ」
「んっ」
瞳と頬をほんのり桜色の染めて、ミユキが答えた。
「こんな娘でよければ、貰ってくれ」
ミユキにヤンデレの素養があることを知っている、ユキナミが真剣な声を出す。
「は、はいっっ」
ハロクが大声で答えた。
◆
「お義父様、お義母様、ヤマ姫と、”婚姻の試練”を受けたいのですが」
タイトスカートの礼服で横座りをした、監察官が言った。
グラマラスな黒髪の美女姿だ。
キリリとした表情が美しい。
「ア、アニー」
隣に座ったヤマが驚きの声を上げる。
「知っていたのですね」
ヤマとユキノの祖母であるカーリーは、元オーガークイーン。
スノーオーガーのリーダーの血筋だ。
一応ヤマは、オーガープリンセスになる。
「婚姻の試練は、オーガーキングを決める為に行われる」
監察官が静かに言った。
「そうか、ではスノーオーガーの地下都市、”カッパドキア“に向かうが良い」
「連絡しといてやろう」
ユキナミだ。
「無理しなくてもいいんだよ」
トウマが心配そうに言う。
文明開化した後スノーオーガーに、他の星人との細かな政治は無理だ。
ユキメ族に、星の政治を丸投げして久しい。
そのかわり、武力面で貢献する。
オーガーキングと言っても、ほとんど名誉職だ。
しかし、力を重視するスノーオーガーの間では、意味が大きい。
まあ、監察官は、ランクSの宇宙冒険者らしいから、大丈夫だろう。
「でも、婚姻の試練は、パーティーで挑むレイド戦のはず」
ヤマが不安な声を出す。
「あらあら、当然ユキノハーレムは協力しますわよ〜」
キバも横で頷く。
「ぼ、僕たちも」
ハロクとミユキも手を挙げた。
「あ、ありがとう」
監察官とヤマが頭を下げた。
監察官の、アイテムボックスから出した、彼女の宇宙船、“ピグマリオン”で“カッパドキア”まで移動した。
ユキノよりヤマの方が地位は上。




