第三十四話、囲炉裏端
ガルム型ハーレム要塞は、二つある。
”ハティ”と”マーナ”だ。
”マーナ”は現在、地表を巡回中。
「さあ、行きましょう」
「コルトバ星、首都、”エターナル・スプリング”へ」
ユキノたちは、王族用の降下船に乗り込んだ。
ゴオオオ
カタカタ
微かな振動の中、真っ白なブリザードを、降下船は降下していく。
「ユキノの母星か」
「地球はもうないんだよな」
キバだ。
地球は、赤色巨星化した太陽に飲み込まれて、もう存在していないという。
自分の時代も、環境破壊がかなり進んでいたが、まさか無くなっていたとは思わなかった。
「始まりの地計画」
「地球人の生き残りが、別の星にもう一度地球を創ろうと頑張ったみたいだよ」
惑星開発公社が持つ、惑星改造技術でだ。
ファーストビル教という宗教にもなる。
監察官が言った。
「その前に、文明開化したけどね」
「キバ様の故郷を、一度見てみたかったですわ」
「そうだな……」
降下船の前に、巨大な氷のドームが見えてきた。
◆
”エターナル・スプリング”
コルトバ星の首都。
大きな温泉湖の周辺を、囲うように都市が作られている。
上空を、断熱用のドームが覆った。
”KAMAKURA”ドームだ。
ユキメ族に造られるドームは、どんな小さな熱も逃さず、内側に貯める性質がある。
これを応用したのが、永久凍土装甲だ。
伝統的に、地上はユキメ族、地下はスノウオーガーの支配領域とされる。
宇宙に出てから、ユキメ族とスノウオーガーの男性の奪い合いが、ほぼ無くなった。
そのため、支配領域の区分もあいまいになりつつある。
◆
都市のドームの一部が開いた。
降下船が入る。
合掌づくりの建物が、大都会を作り出す。
ホカホカと白い煙をあげる、温泉湖の真ん中に人口の浮き島があった。
女王、”ユキナミ”が、今の主人である、ガルム型・王宮用ハーレム要塞、”ハティ”だ。
ユキメの女王が代々主人となる、ハーレム要塞である。
「こちら、降下船、王家の方々が乗船中」
「入港許可を求む」
「こちら、ハティ管制、搭乗者を確認する、データを送られたし」
確認中
「……久しぶりに、ミユキ様が帰られるのだな」
「ああ、例の彼氏も一緒だ」
「ははっ、ついに捕まったか」
「そうだな」
「データ照合、終了」
「降下船の入港を許可」
「ありがとう」
「ようこそ、ハティへ」
降下船が、要塞内の着船デッキに着船した。
◆
「ユキナミお義母様と、トウマお父様に、会いに行きましょうっ」
ユキノが元気な声を出した。
「あ、ああ」
キバは、日本宙軍時代の式典用の軍服を着こんでいる。
監察官に作ってもらったものだ。
「お母さまと……」
「分かった」
ハロクは、背広のネクタイ姿だ。
監察官は、女性姿で監察局の制服を着ている。
シックなデザインのジャケットと、タイトスカートが良く似合う。
これから、ご両親に挨拶に行くのだ。
◆
「畳だ……」
ユキメ族の女王の謁見の間に通された。
「正座が苦手なら、椅子を使っても良いっ」
「ただしっ、靴を入口で脱げっ」
「座布団があるぞっ」
威厳と貫禄に溢れた女性の声が響いた。
国の紋章が入れられた、女王仕様の囲炉裏端に、黒髪の女性と穏やかそうな男性が座っている。
ユキメ族女王、”ユキナミ”と王配のハーレムマスター、”トウマ”だ。
自分たちの近くにも囲炉裏がある。
炬燵は、セキュリティー上の問題で設置されていない。
物や武器を隠せるからだ。
「無礼だが、炬燵無しは許せよっ」(←ユキメ族的には、結構な外交欠礼になる)
女王に謝られた。
「お父様、お義母様、ただいま帰りましたっ」
ユキノだ。
「シュラとカーリーも元気にしているぞっ」
シュラとカーリーは、ユキノとヤマの実の母と祖母。
「……帰りました」
ミユキが小さな声で言う。
「うむっ、お帰り」
ユキナミが答えた。
「お帰りい」
トウマが、穏やかに言った。
「ふうむ」
ユキナミが、キバとユキノ、ハロクとミユキ、監察官とヤマを見渡して、
「ほほう、面白い話が聞けそうだな」
目を輝かせながら言った。
アンドロギュヌス監察官の、オリジンジェンダー(産まれたときの性別)はXX。
故に、いつもは男性型で過ごす。
メタリッカ星人は、当然、女性同士で結婚も出産も可能。




