第三話、監察官
「大体ここに何しに来てるんだ」
キバが、ユキノたちの前に“昼の定食”を置く。
ユキノは少し痛そうに額をさすっている。
「あら、観光ですわ」
「そろそろ“ジェーン”が来るころでしょう」
「“ジェーン”?」
「体長10Kmを超える宇宙クジラだよ」
「惑星“エリン”に水分補給に来るんだ」
「きれいな自然と、宇宙クジラで観光地化してるんだよ、ここは」
酒場のおやじがキバに教える。
「当然、殿方との、アッバンチュ~ルですわよっ」
「とっかえひっかえですね、姫様~」
背後でウンウンとヤマがうなづいている。
「…………」
後ろから口を塞がれただけで、意識を飛ばすんじゃ無理なのでは
という目で、キバはユキノを見た。
「あらあら、今はキバ様だけですわよ」
殿方の嫉妬の目
可愛いですわ
頬を染めた。
◆
「好きです。 付き合ってください」
花束をささげた美青年が言った。
「え~と、照れるな~」
酒場である。
「あなたの美しいかんばせと、男性にも劣らない高身長が好きです」
「高い母性を思わせる双丘と、細みながらも密度の高い筋肉がたまらないです」
「女性特有の美しい声で、ガハハと漢らしく笑う……」
「最高ですっ」
「ヤマさん、ボクのことは、“アンディ”と呼んでください」
「……アンドロギュヌス観察官……」
酒場のおやじがため息をついた。
アンドロギュヌス観察官は、メタリッカ星系人である。
長期コールドスリープから溶けたキバを”全文代“から、派遣され観察しに来ている。
◆
メタリッカ星系は科学が大変発達している。
星系内に三つの居住惑星があったことが特徴的だ。
しかし、遥かな昔に、第一惑星が”男性だけ“、第二惑星が”女性だけ“に分かれて戦争が起きた。
男女に分かれて戦争をしたのだ。
結果的には、第一惑星も第二惑星も今は、跡形も無い。
◆
傍で見ていた第三惑星人は、こう思ったのだ。
「男も女も無くしてしまえばいいのだっ」
“監察官”が大声を出した。
「ふふふ、ユキメ族のハーレムは知ってますよ」
「男のボクが邪魔になるのも」
「でもっ、心配ご無用っ」
気になる。
監察官が着ているゆったりとした白いワイシャツの下に見える、ブラジャーのひものようなものが……
キバだ。
ユキノは、呆然と立つキバの手を握り、太い二の腕に頬ずりをしている。
”スワッピング“もいいかも
花束を抱えて赤くなっているヤマを見た。
監察官が、銀色の筒のようなものを出した。
上の部分にダイヤルがついている。
「注射器? ど、どうするんだ?」
「こうするんですっっ」
ドブシュッ
シュコウウウウウ~
自分の腕にブッ刺した。
「アッアッアッアッアッアンッ」
だんだん声が高くハスキーに
黒い髪が伸びてショートカットに
白いワイシャツが前に二つふくらんだ。
ブ、ブラジャーがブラジャーになってよかった
キバが安心した顔を見せた。
「ふっ」「うんっ」
無意識にキバに頭を撫でられているユキノが、艶めかしい声を出した。
すっかり黒髪でスレンダーな女性に変態した“監察官”が
「アニーと呼んでいいわ」
「ふふふ、性的快楽の行きつく先に、恒久的な平和があるのっっ」
ブッフーーーー
周りのゴロツキが一斉に酒を噴いた。
「ボクならっ、ノーマルもアブノーマルも、BLもユリ展開も、薄い本のようなも、感度30倍も、性奴隷も、フ〇なりだって対応できるわっっ」
サアッ、スノウプリンセス。 ボクをハーレムメンバーにっっ
ヤマさんを、男×女、女×女でっ、フヘへへへッ
ユキノは、値踏みするような目で流し見る。
「……触手は……」
「イエスッ、マイッ、メイデンッ(乙女)」
老執事の様な礼をした。
「機械〇もっ」
ハーレムに変態が参加した。