第二十七話、きりたんぽ
こういうこともある。
ハロクは、超高級囲炉裏の囲炉裏端に、胡座をかいて座っている。
風呂上がりの薄っぺらい浴衣姿だ。
エクストラコールドのVIPルームである。
コルトバ名物、“きりたんぽ”が香ばしい香りを周囲に放つ。
「ささ、お義兄様、たんぽですか、味噌付きですか?」
ユキノがハロクに聞いた。
「み、味噌で…」
ユキノが、囲炉裏から味噌付きの串を取って、ハロクに渡す。
「いい、塩梅ですわよ〜」
ユキノに笑いかけられた、ハロクが顔を真っ赤に染める。
「こっちも良さそうだぜ」
ヤマが、自在カギに吊るされた鍋の中身を見る。
◆
“きりたんぽ鍋”
惑星コルトバが誇る、王宮料理の一つ。
コルトバ産の“比内地鶏”のがらで、だし汁を作り濃口醤油、酒、砂糖で味付けした鍋。
具材は、うるち米を練り串に刺して焼いた“たんぽ”とごぼう、マイタケ、味が染み込む直前にセリを入れる。
きりたんぽの形がくずれる前に、鍋から掬い上げるのが正解、だそうだ。
食べたことはないが美味しそうである。
しいたけ、イトコンを入れるのは邪道らしい。(ウイキペディアより)
◆
「ふふふ、すごいねえユキメの王族自らが振るまう、“たんぽ”と“きりたんぽ鍋”っ」
「まさに動くコルトバの王宮だよっ」
ヤマが、白い和服の女装をした監察官をキャッチ。
流れる様に膝の上へ。
Rー66もそっと末席に座った。
「ささ、キバ様もっ」
ユキノが鍋の中身をお椀に入れて、キバに差し出す。
ゴ〜ロ、ゴ〜ロ
でっぷり太った猫が、キバの膝に乗った。
まさに、コルトバのロイヤルファミリ〜の一ポ〜トレ〜トであった。
特に、庶民であるハロクには、一生忘れえぬ思い出となるはずだ。
ユキノがキバに汁椀を渡そうとしたその時、
ズズウウン
船全体に振動が走った。
◆
ビイイイ、ビイイイ
警告音と共に照明が赤く変わる。
「ユキノ様、海上(宇宙の三次元)から強力なトラクター(吸引)ビームを照射されています」
ブリッジにいる、イナバだ。
「「マスター、マスター、」」
「オールフリーもおんなじだようっ」
ハロクのブレスレットコマンダーから、ツインリンクスのホログラフが、囲炉裏端に出た。
窓越しに、工房船“オールフリー”が引っ張られているのが見える。
「海上に釣り上げられますっ」
「「ひきずり出されちゃうよお」」
白い波を出しながら、“エクストラコールド”と“オールフリー”は、海中(宇宙の四次元)から海上(三次元)へ、ダイブアウトさせられた。
「また、海賊かっ」
キバが、叫ぶ。
「…いえ違いますわ」
ユキノが答える。
「…永久凍土装甲…」
「大きい」
エクストラコールドの二倍くらいか
「フェンリル級、重ハーレム艦、“フェンリルウールブ”」
ハロクが、愕然とした声を出す。
行く先々で見かけた。
“エクストラコールド”と、“オールフリー”のメインモニターにデカデカと、黒髪と抜ける様な白い肌の美女が映し出される。
そっと、扉を取り出して前に置く。
半身を出しながら、
「……このどろぼうねこ……」
美女が、無表情に言った。
「ミユキお姉様っっ」
ユキノが叫んだ。
食べてみたいなあ。




