第二十一話、R-66
「山嵐」
講道館の創始者、加納治五郎の弟子、西郷四郎の得意技。
担いで、腰に乗せ、足を払う。
背の低いものが高いものを投げる際に有利だとされる。(ウイキペディアより)
◆
それは、発作的な行動だった。
キバは、全力疾走してきたJKを、担ぎ、腰に乗せ、足を払った。
「宙軍中野学校式、近接格闘術、”山嵐”」
残身。
「うひゃああ~~」
間の抜けた声を出しながら、JKが飛んで行く。
くわえていたトーストが宙を舞った。
「あああ、すまんっ」
キバは、投げ飛ばされ、床にしゃがみこんだJKに手を伸ばす。
――ばれてるっ、ゼンコロしようとしてるのが、ばれてるうう
R-66は、しゃがみ込んだまま後ずさった。
「R-66さんか?」
「あああ、端末番号まで、ばれてるうう~~」
ヒイイイイ
”これでかったとおもうなよーー”
空中に上記の文字を残しながら、R-66がその場から走り去った。
「……サインが欲しかったですわね……」
ユキノが少し残念そうに言った。
◆
港の時間は、夜になっている。
「元々私は、ハニトラ用のセクサロイドですよっ」
近接格闘なんて無理ってもんです。
「というわけで、やってきましたよっ」
「Naight Crawling!!」(←やたら巻き舌で発音がいいあれ)
過去にユキノさんが、失敗したやつだ。
「ふふふ、ここですねっ」
キバの寝室の前だ。
鼻の前で結んだほっかむりを締めなおす。
背中には、唐獅子模様の風呂敷を背負っていた。
伝統と格式の”盗っ人”スタイルだ。
「あなたのこころ(ついでにからだも)を、盗みに来ましたよ~~」
ドアノブに手を掛ける。
ボトッ
ジェル状のものに覆いかぶさられた。
「フク、トカス、トカス?」
「なんで、こんなところに”シェープシフター”がああ」
ほっかむりが、風呂敷が、溶ける。
「シタギ、トカス、ダメ」
キバにとめられている。
結局、下着以外の服は溶かされた。
黒いセクシーな下着だ。
「ふええ~~、お嫁にいけないよ~~」
大事な所を両腕で隠しながら逃げた。
「なんとっ、下着姿の変質者っ」
うさ耳メイドの長女、”イナバ、ヒ”だ。
夜間の見回り中だ。
「ち、ちがうんです~~」
「はいやああ」
イナバ、ヒが飛び蹴りの格好で宙に舞う。
「ひえええ」
R-66は、両腕と両ひざの腱を斬られて廊下に倒れる。
家庭内害虫”G”のように四つん這いで逃げた。
――胸に七つの傷をつけられるところでしたよ~~
◆
「昨日の夜、やたら騒がしかったような」
キバが、つぶやいた。
「下着姿の変質者が出たようだよ、キバ君」
本日の監察官の女装は、”ラペルラ”の高級下着だった。
ヤマの好みらしい。
エクストラコールドの補給が終わった。
やたらと水の消費が激しい。
「二十四時間、入りたい放題だからな~~」
エクストラコールドは、健康ランド完備である。
搭乗用のタラップで船に乗り込む。
ふと見ると、船の外部にR-66が、必死の表情でしがみついているのが見えた。
キバとユキノ、ヤマと監察官が、顔を見合わせる。
「……あのっ……」
ユキノだ。
「R-66さんっ」
ビクウ
R-66が反応する。
「よろしければ、船内に乗っていきませんか?」
ユキノは、R-66のファンだ。
パアアアア
R-66が、花が咲くように笑う。
R-66が、仮ハーレム要員に登録された。




