第二話、ユキノ
ユキメの女たちは”低体温“である。
大体、平均20度くらいだ。
故郷である、“惑星コルドバ”の極寒の環境に適応した結果である。
感情が激昂したり、性的に興奮すると30度近くまで上がる。
砂漠の民が水を渇望するように、彼女たちは“熱さ”を渇望した。
さらに、男女の比率は女性が多く3:1である。
彼女たちは、少ない男性を暖めるように“ハーレム”を作る。
他の種族の男性を迎え入れても、女児は全て“ユキメ”になった。
“ユキメ”という種族を守るため、全力で“ハーレム”を作るのだ。
「お分かりいただけましたか?」
ユキノが、キバの上に馬なりになっている。
キバの部屋のベットの上だ。
「……夜這いか……?」
「うふふ、夜這いですわ」
瞳だけではなく、全身ほんのり桜色になっている。
ユキメ族が、夜這いの時に身に纏う白い着物を着ていた。
はだけて白い胸元が見えている。
サイズは控えめだ。
「下は履いてませんわよ」
「ぬ~、ふんっ」
バキッ、バキッ
両手足をベットに拘束していた氷の輪を粉砕する。
「…………」
ユキノの襟首を持ち部屋の外へポイした。
「キバ様のいけず~」
部屋の戸をカリカリとひっかく音がした。
「ハイハイ、姫様、帰りますよ~」
ヤマに回収されていった。
◆
「昨夜は騒がせたな」
キバがコールドスリープから解凍されて、一カ月が過ぎていた。
酒場の居候兼店員として酒場のおやじから、現代社会のことを勉強しているのだ。
職業の斡旋の一環でもある。
「しかしお前は強いな」
ユキメ族の王族、しかも瞳だけでなく全身桜色の『恋愛色』に染めさせて、なお貞操を守るとは。
体温が上がった彼女は、まさに全身で生命を感じてただろうに。
「手段を選んでないだろう?」
「ああ」
氷で拘束された。
「嫌いなのか?」
「いや、戸惑ってるだけだ」
「どっちにしても真剣に答えを出してやれよ」
「そのつもりだ」
出会って三日目の話である。
◆
スノウオーガーは、”高体温“である。
大体平均38度くらいだ。
”惑星コルドバ”の極寒の環境に適応した結果だ。
それゆえに、殿方や自分たちを暖めるため、ユキメ族の“ハーレム”のパートナーによく選ばれるのだ。
朝だ。
「キバ様、昨夜は私のヒンヌ~故の行動でございますね」
部屋の外にポイされた。
「心配ご無用でございますっ」
「ヤマっ」
「ハイハイ~」
ヤマが、大きな胸を強調するように、ふんぞり返った。
揺れる。
背は高いがスレンダーな体形のヤマは、キョヌ~なのだ。
「“ハーレム”はそれ一つで、一人の“女性”なのですっ」
「キバ様を必ず満足させて見せますともっ」
フフ~ン
ユキノが勝ち誇る。
ピキッ
キバの額に青筋が走った。
ユキノとヤマは首筋を掴まれ、酒場の外にポイされた。
「何故ですか~」
「Dーていは難しいですね、姫様」
700年越しのD-ていか?
天地創造くらいできそうだ。
◆
昼過ぎ、エリンステーション酒場、まだまだ周りは明るい。
「コルドバ星人のピーーは冷凍ピーー♪」
頬を少し桜色に染めて、はかなげに歌うユキノ。
透き通るような歌声だ。
ブッフーーーー
周りのゴロツキが一斉に酒を噴いた。
「お前によしっ♪」
「なっああああ」
キバが後ろからユキノの口をふさぐ。
「もがもが」
「お前によしっ~♪」
「俺によしっ~♪」
「味よしっ~♪」
「全てよっしっ~~~~♪」
ヤマだ。
いい笑顔だ。
「歌い切るなあああ」
甘い香りがした。
キバは、椅子に座ったユキノを後から抱きしめている形だ。
「ふわっ、キバ様あ~、ふにゃあ~~」
ユキノは桜色を通り越して、真っ赤になっている。
「あっ、おい、大丈夫か?」
ユキノはそのまま意識を失い、ヤマの手によって部屋に寝かしつかされた。
「……可憐だ……」
店の奥の物陰から、熱い視線を送るものが一人。
◆
しばらくして、ユキノが復活してきた。
場は凍ったままだ。
「どうでしたか? キバ様」
「うふふ、滾ってきましたでしょう?」
「我が故郷に伝わる、契る前に行う準備運動のための歌ですわよ」
女性側からの、強烈なオッケーサイン。
コルドバの殿方なら、これからの展開に“ステンバ~イ”な状態になるはずだ。
ユキメ族を相手にする場合、準備運動で体温を上げないと、部屋の中で“凍死”する恐れがある。
しばらく、歌に合わせてザッザ、ザッザと走りますな。
もうすでにほんのり桜色のユキノだ。
無言でゆっくりと腕を広げるユキノに
「無茶っ言うなあ」
デコピンするキバである。