第十一話、紐
「ジェーン、捕捉しました」
うさ耳メイドが報告する。
「そちらに向かってちょうだい」
ユキノとヤマが、VIPルームの左右の障子を開けた。
外部シャッターが下りる。
星空と青いエリンが見えた。
「あれね」
少し離れた所に、巨大な宇宙クジラ“ジェーン”がいた。
「並んでおりましょう」
エクストラコールドが加速。
“ジェーン”の近くに移動した
エクストラコールドが大体200メートル。
“ジェーン”は約10キロメートル。
近づくとエクストラコールドがゴマ粒のように見える。
開いた窓一面に、宇宙クジラが見えた。
「すげえっ」
「大きいねえ」
「ふふ、一緒に地表までおりましょう」
“ジェーン”の体の下半部が、大気との摩擦熱で赤く染まる。
“エクストラコールド“は、摩擦熱をそのまま吸収、エネルギーに変えた。
”永久凍土装甲“は氷山の色を変えなかった。
青い海が見えてきた。
大海のドまん中という感じである
”ジェーン“が海に入る。
大きな体だが、ゆっくりと入るため起こる波は小さい。
気持ちよさそうに海に潜って行った。
「こんな景色はそうそう見えないよっ」
「凄いなこれは」
雄大で感動的は光景だった。
「ちっぽけな自分の心が洗われるようですわね、キバ様」
「ヌーディストビーチに向かいなさいっ」
「さてっ、海ですわ~、楽しみますわよ~」
ブリッジにいる五人のうさ耳メイドが、ゆっくりとユキノに振り返る。
全員、凍り付いたように無表情だ。
「ヌーディストビーチよ~」
ユキノは、人差し指を振りながら得意満面に言い放つ。
回想シーン
ユキノ、5歳。
「おばあさま、おばあさま、これはなんですか?」
小さな手が、絵本を持って指差している。
大きな暖炉がある洋館のソファーの前だ。
暖炉の薪が、赤く燃えている。
窓の外は、ブリザードが吹き荒れていた。
「おやおや、ユキノ、おいで~」
ソファーに座った祖母が、大きな手でユキノを持ち上げ膝に乗せる。
「これはね~、海の中よ~」
「うみ~、こおってないの~」
「そうよ~、鯛やヒラメが(全裸で)舞い踊っているでしょ~」
……はしのほうにはウミガメに乗った人の姿が……
「暖かい星にはね~、凍ってない海があるの~」
「あまりの暖かさに、服を一枚も着ない、ヌーディストビーチというのがあるのよ~」
ユキノの頭を撫でる。
「たいへん~、はだかでおそとにでたら、こおってしんじゃう~」
「うふふふ、ユキノにも将来、ヌーディストビーチに連れて行ってくれるような素敵な殿方が現れればいいわね~」
「ユキノさがす~、ぬーでぃすとびーちにつれてってくれるような、とのがたをさがす~」
「いい子ね~」
祖母は、ユキノを抱きしめた。
ユキノの大声の独演が終わった。
「あ~こほん、ユキノ君? 裸で外を歩いたら”わいせつ物陳列罪“で捕まるよ?」
まさに、紐っというような女性用の水着で女装した監察官が言った。
キバは、オマイウッと叫びたくなるのを必死に抑えた。
残念ながら、”惑星エリン“には、ヌーディストビーチはないようだ。
「不審者発見」
監察官が、ビーチについた瞬間に、お巡りさんに職質を受けていた。
ドブシュウウウウウ
「ウアア、ゥアアアアアアアン」
キレた監察官が、その場で女体化すると、今度こそ”わいせつ物陳列罪“で派出所に連れていかれた。
しばらく帰ってこなかった。
少しは、懲りた方がいいとキバは思う。
ユキノの白い水着は大変似合っていると思った。
ささやかだ。
ヤマは、黒いビキニで、健康美を誇っている。
立派である。
キバは真顔で考えた。
キバは、段々周りの人間に染まりつつある。




