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第一話、キバ

 キバは、ぬれたモップで床を掃除していた。


「ハーレムですわっ」

 白い髪をした女性が、大声を出した。

 キモノである。


「ハーレムだぞ~」

 180センチ近い身長。

 侍女服を着た女性だ。

 

 場所は、銀河系の辺境惑星、“エリン”

 軌道上にある“エリンステーション”内の酒場。

 時間は、開店前の早朝だ。



 地球人類が、自力で銀河系の外に出たことを、”銀河文明開化”と呼んだ。

 “銀河文明開化“から約500年。

 宇宙には、”全宇宙文明代表評議会“があった。 

 略して、”全文代ぜんぶんだい

 地球人類は、太古の昔から、”人型宇宙人類‘に進化させるため、“全文代”から、監視、誘導、助力、介入されていた。(ピラミッド作ったり、地上絵描いたり)


 地球人類は、“人型宇宙人類”になる様に、”全文代”に創られていた。


 

「だから、大丈夫ですわ」

「同じ“人型宇宙人類”なら子作こづくり出来ますもの」


「そうだぞ~、姫様の言うとおりだぞ~」


「そ、そういう話じゃないっ」

 床を拭いていたモップを壁に立て掛けた。


 キバは、ぶ厚い男だった。

 身長165センチくらい。

 内側からあふれんばかりの筋肉。

 漢くさい笑顔が似合う“益荒男(マスラオ)”である。

 

 彼は冷凍睡眠装置で、宇宙をさ迷った、“長期コールドスリーパー”だ。

 

 その年月、ざっと、700年。

 700年前、最も地球人類が困窮しほろびに近づいた混沌の時代。

 彼は、滅んでしまった大和男児やまとだんじの中の日本軍人、“オニグンソウ”である。

 ただでさえ、重力コントロールの不十分な時代の宇宙軍艦に乗っていた上に、自身の鍛錬を欠かしていない。

 今や、宇宙では、0.8Gに重力を調整され、薬や技術で簡単に肉体を強化できる。


 残念ながら、この時代のマッチョの数は、限りなく少ない。


「……熱い殿方……」

「……(ワタクシ)のハーレムの主にふさわしい……」

 赤い瞳が、桜色に染まりつつある。

「……ほうっ……」

 熱く吐いたはずの息は、白い氷の結晶になりキラキラと輝いた。



 始まりは、昨日の昼過ぎである。

 酒場は、安い宿と職業の斡旋所も兼ねている。

 職にあぶれた、ガラの悪いものが昼間からたむろする場合も多い。


 そこに、くだんの女性二人が入ってきた。


「ユキメ族に、スノウ・オーガーか」

 よりにもよって、“コルドバ”星人、しかも女性。

 女性たちのやばさに気付いたのは、酒場のおやじだけだった。


「ヒュ~~~」

「二人とも、ベッピンさんじゃねえか~」」

「こっちに来て、酒()げよ~」

 ガラの悪い男たちが、二人にからんだ。

 見事なごろつきっぷりだ。


「ふう、そのようなしつの悪そうな子種を、(ワタクシ)にカケようとしないでいただけます」

 やれやれです

 場の空気が凍った。


「なっ」

 ごろつきたちの顔ががじわじわと赤くなっていく。


「ヤマ」

 侍女の名を呼ぶ。

「姫さんとヤリたけりゃ、まずアタシをヤッテからにしなあ~」

 前に出た。 


「カケようとしてないわ~~」

「嫁入り前の乙女が、下品な言葉を使うな~~」

「ご両親は泣いてるぞ~~」

「二人の心配をしてるんじゃないんだからねっ」 


「あ~はっはっは~」


 ブオン


 ヤマと呼ばれた侍女が、パンチを繰り出す。

 酔ってよろけた男の先には、お盆に料理を乗せたキバがいた。


 パシイイ

 

 ヤマのパンチを片手で止める。

「おいおい、こういうのは表でやってくれよ」

 

「?? くっ、このっ、離せっ」

 ヤマのこぶしが張り付いたように、キバの手から離れない。

「まあっ」

 白い女性が目を輝かす。


「ああ、すまん」

 キバがヤマの拳を離した。


「???」

 ヤマが、無造作に近くにいたごろつきを殴りつける。

 ごろつきは、天井につき刺さった。


「この女郎っ」

「もう許さねえ」


「邪魔ですわ」

 白い女性は、はかなげに小首をかしげ、ため息を一つ。

 彼女を中心に、近くにあるもの全てが白く凍り付いた。

 

「凍ってるぞ、おい」

 驚いていると、白い女性が近づいてきた。

「うおっ」


「……熱い漢……」

(ワタクシ)はユキノと申します」


 ナッ、名前に“ユキ”がついた。ユキメの王族か?

 酒場の親父が顔色を変える。


 ヤマが斜め後ろに控える。


「お、おう、キバという」


 ツツツとキバの二の腕を人差し指でなぞる、


「冷たっ」


「あなた、私たちの主人になりなさい」

 赤い目が桜色に染まる。

「私たちに、子種こだねをブッカケルのですっっ」


「断るっっ」


 キバが即答した。

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